第8話 小さな決意と憧れと


 僕のケータイがメールの着信を告げた。慌ててケータイを取ると、畑山さんからだった。僕のメールアドレスを登録したという返事だった。僕は慌てて返信した。

 クラスメートの中には、ダウンロードした流行りのJ-POPなどの着うたを設定している人も多いが、僕はケータイに最初から用意されている着メロを選んで設定していた。そもそも僕のケータイのアドレス帳に登録されているのは10人にも満たない状態。家族からの用件だけの素っ気ない電話やメールの他、無理やりアドレス帳に登録させられた加藤や山下から意地悪なメールが時折来るくらいで、そもそも鳴ること自体、ほとんどなかった。だから着メロを気にする必要もなかったのだ。

 そんな僕のケータイに、家族以外の女子の名前が入るのは、畑山さんが初めてだった。僕は、畑山さんの名前をどう登録すべきか考えた。名字か、フルネームか、敬称は付けるか、略か? あれこれ考えたあげく、「畑山志織」とフルネームで登録した。

 畑山さんは、僕の名前をどんなふうに登録したんだろう? 僕はふとそんなことを考えていた。

 メールのやりとりを終えた僕は、ようやく制服を脱いで私服に着替える。僕の制服の襟には学級委員のバッジが光っていた。学級委員に選ばれたことに納得できなかった僕は、もらったバッジを付けないまま、この間を過ごしていた。畑山さんに説得され、二度と逃げないと誓ってはみたものの、これを付けるとあの理不尽な選ばれ方を認めたことになるような気がしていた。そんな僕の態度に業を煮やしたのか、畑山さんが、なかば強引に付けてくれたのがこのバッジだった。

 「なかなか似合ってるじゃない? そのバッジに負けないように、早く仕事を覚えるんだよ!」

 慣れた手つきで僕の制服の襟にバッジを付けながら、そう言った畑山さんの意地悪ではなく本当の笑顔を、僕はふと、思い出した。

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 翌日。昨日の急展開で頭がぐちゃぐちゃに混乱していた僕は、まだその余韻を引きずったままだった。だが、そんな僕の思いなどお構いなしに、休み時間の教室は騒がしい。

 「おい、安達、ちょっと来いよ」

 グラウンド側の窓際の机にだらしなく座った加藤が僕を呼びつけるが、僕は無視して通り過ぎようとする。

 「おい、何だよお前。無視かよ。調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 僕は、なおも無視して歩く。

 「なぜ? どうして無視するのかな〜。こっち向いてよ、あ・だ・ち・く〜ん」

 加藤が、気持ちの悪い猫なで声で僕の気を引こうとする。普段は呼び捨てのくせに、加藤がこうした猫なで声を使ったり、安達「くん」などと呼ぶときはたいていロクなことがないと、僕はわかっていた。もっとも、「あみだくじで委員に当たった、世界一かわいそうな安達くん」などと、バカにしたり同情したりするときだけ「くん」付けで呼ぶ畑山さんもそれは同じだが。

 「なんですか!」

 仕方なく、僕は加藤が座っている机のそばに歩み寄って尋ねる。

 「お前さぁ、学級委員、大丈夫? マリー・アントワネット様に奴隷にされ、こき使われてるんだろ?」

 「されてません!」

 僕は大声で答える。僕は、あみだくじで僕が学級委員に“当選”するように仕組んだのは加藤だと信じていた。そんなお前に言われたくないと思っていたが、証拠がないため追及のしようがないし、怖くて口に出すこともできなかった。

 「じゃあ、あのブスにいじめられてるんだろ?」

 「いじめられてないです。それに、畑山さんはブスじゃありません!」

 僕は精いっぱい答える。実際、畑山さんはかなりの美少女だ。僕なんかが一緒に歩いて帰ったりしていいんだろうかと思うくらいの。「もっとおしとやかにすれば可愛いのに」と陰口を言う男子もいたが、あるとき、それが本人の耳に入ってしまい、言った男子は畑山さんにかなりひどい目に遭わされたらしいと当時、聞いた。

 「へーえ。じゃあお前、あいつのこと可愛いと思ってるわけ?」

 「僕は可愛いとか可愛くないとか、そんな目で見てません」

 「じゃあどんなふうに見てんだよ?」

 「それは……畑山さんは、カッコいいです」

 「どこが?」

 「自分の考えをちゃんと持っていて、しっかりしているところです」

 「それを女のくせに生意気って言うんだよ。なるほど。安達は、人前で自分の悪口を言わないよう毎日、マリー・アントワネット様に脅されている……と。ふむふむ」

 加藤は、僕が言ってもいない話を勝手に作り上げ、手帳にメモしている。そのとき、「ごん」という鈍い音が、周囲に響いた。

 「痛ぇ!」

 加藤が頭を押さえながら後ろを振り向くと、窓の向こうのベランダに畑山さんが立っている。開いた窓越しに加藤の頭上にゲンコツを振り下ろしたところだった。

 「何でお前がここにいるんだよ!」

 「ベランダのお花に水をあげてたの。このところ雨が降ってなくて、お花たちがかわいそうだから。それはそうと、全部聞こえたよ。あんた、あたしのこと、ずいぶんひどい言い方してくれるじゃない?」

 「俺は本当のことを言っただけだ」

 「いい加減にしなさいよ。なに白昼堂々とありもしないことを捏造してんの? いつあたしが安達を奴隷にしたり、こき使ったり、いじめたり、脅したりしたのよ?」

 「学級委員になってから」

 「はぁ? バカじゃないの? あたしはちゃんとまじめに安達に仕事教えてるよ。ねっ、安達!」

 いきなり同意を求められた僕は、躊躇なく「あ、はい」と返事をした。

 「安達、このブスに脅されてるんだったら、そう言った方がいいぞ。俺が慰めてやるからな」

 そのとき、再び「ごん」という鈍い音が、周囲に響いた。

 「痛ぇ! 何すんだよ! 二度も殴りやがって、この暴力女!」

 「何が暴力女よ! 小学生の頃、弱い子見つけては暴力振るってたあんたにだけは言われたくないっつーの!」

 「なんだと!」

 「だいたいあんたはその腐った性格、さっさと直しなさいよ! ま、バカは死ななきゃ直らないって言うから、あんたには無理だろうけど!」

 「うるせえっ!」

 ガタッという音が響く。加藤は、座っていた机から降りると、面白くなさそうな表情で教室を出て行った。山下も後に続く。

 「あはははは!」

 勝ち誇った顔で、畑山さんが高笑いする。僕は、小学生の頃、徹底的にいじめ抜かれ、どんなに抵抗しても全く歯が立たなかった加藤をいともあっさり撃退してしまった畑山さんに感心することしきりだった。

 「畑山さん、強いですね」

 「ホントのこと言ってやってるだけだよ」

 「畑山さんのその強さの、半分、いや3分の1でもいいから、僕にあれば……」

 「何言ってんの? 今からがんばって強くなればいいじゃない?」

 「そうですけど……」

 「それより、あたしのこと、カッコいいって言ってくれて、ありがと」

 「いえ。ホントにカッコいいです」

 「ありがと、安達。じゃあまた後でね」

 そう言うと、畑山さんは、西野さん、杉田さんが待つ教室の一角に歩いて行ってしまった。

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 それから4日後の火曜日。また学級委員の仕事を終えた僕は、畑山さんに誘われるまま、『玉井』に至る通学路を歩いて帰っていた。

 コピーの用紙指定や拡大/縮小の仕方、そして効率的なホチキス留めの方法を畑山さんに教えてもらった。パソコン全盛の今どき、珍しい縦書きのプリントを見た僕が「縦書きのプリントは左上じゃなく、右上をホチキス留めした方がいいですよね?」と畑山さんに尋ねたところ、「細かいところまでよく気がつくね」と褒めてもらえた。そのせいか僕は上機嫌だった。

 学級委員に選ばれた最初の頃、あれほど怖いと思っていた相手。休み時間の教室で、畑山さんが自分のそばを通るだけで脅えて道を空けていたあの頃と比べると、今、自分と並んで歩いているのが同一人物と思えなかった。あの頃の畑山さんに対する恐怖感は僕の中から消えつつあった。

 「学級委員なんて嫌だなぁという気持ちは正直、今も残ってるんです。でも、そんなときは、畑山さんの『あの話』を思い出すと、元気が出るんです」

 「あの話って?」

 「あの花壇のお花の話です」

 「ああ、植えられたところできれいに咲くお花のような人間になりなさいって、あの話ね」

 畑山さんは、そう言って笑った。並んで歩いていると気づきにくいが、もともと美少女の畑山さんは、笑顔もすごく素敵だ。

 「はい。なんか、今までモヤモヤして納得できなくて、心の奥に引っかかってたものが、あの話を聞いたとき、スーッと消えていくのが自分でもわかったんです。なんかすごく納得できて」

 「そう。良かったじゃない?」

 畑山さんも上機嫌だった。加藤に「鉄拳制裁」を加えたときの、あの不機嫌さは少しもなかった。

 「じゃあ、もう今はあみだくじのことも、気にならないの?」

 「はい。気にならなくなりました」

 「吹っ切れたんだ?」

 「はい。少しずつですけど。……畑山さんのことも、僕、今まで怖いと思ってました。でも、最近、あんまり怖いと思わないんです」

 「なんで?」

 畑山さんは、興味津々と言った表情で僕の答えを待っている。

 「確かに畑山さんは凄く気が強いけど、一生懸命がんばっていれば認めてくれる、きちんと筋道を立てて話をすれば理解してくれる。そんな人だってことがわかったからです」

 「そうなんだ。ありがと」

 言っていることは僕の本心だった。畑山さんの言うことが一貫していて、ブレないのも僕を安心させた。もし畑山さんを怒らせてしまっても、言うことが一貫していれば、こういうふうに謝ったら許してもらえるというのもわかり、対処がしやすい。

 「でも、ホント、世の中って不思議よね」

 畑山さんは、笑顔を浮かべてそう言った。その言葉の真意がつかめない僕は、思わず聞き返した。

 「だってさ、安達以外の男子どもときたら、根拠もなくあたしのこと怖がっちゃって、マリー・アントワネットとかあだ名まで付けて。それなのに、うちのクラスで一、二を争うほど気の弱い安達が、あたしのこと怖がらないんだもん。なんかちょっと、面白いよね」

 なるほど、そういう意味だったのか。僕は、加藤や山下のほうがよっぽど怖いと、畑山さんに言った。

 「何で怖いの? あいつらなんて、へなちょこじゃない? あたしがちょっと言っただけで教室から出て行っちゃうし」

 それを聞いた僕は思わず背筋が寒くなった。あれで「ちょっと言っただけ」? じゃあ、畑山さんが本気で怒って相手を罵倒したら、どんな恐ろしいことを言うんだろう。

 「そうですけど、畑山さんと違って言うことが一貫してないから、いつどこで怒り出すかわからないし、根拠なくいじめてくるし……」

 「あいつらに考えなんかあるわけないでしょ。その場その場の空気で決めてるだけ。それに、いじめっ子はいじめる理由なんて考えないよ」

 僕にとって目から鱗だった。いじめる人には、理由があっていじめているに違いないと思っていた。 だからその理由を取り除けば、いじめられなくてすむようになる、と。でも、もし畑山さんの言っていることが本当なら、そんな努力なんてまったくの無意味ということになる。

 「そうなんですね。今まで、なんでいじめられるんだろうって、そればっかり考えてました」

 「ふーん。安達は、まじめなんだね」

 畑山さんは、僕のほうを見ながらそう言った。相変わらずの笑顔だけど、その中にやれやれと言った表情が交じっている。まじめと言われているのが、褒め言葉に思えなかった。

 「あのー、畑山さん? じゃあ、僕は何で、いじめられるんですか」

 長年、加藤や山下にいじめられ、僕はまだ14年しか人生、生きてないのにもう負け癖がついてしまっていた。今まで、どうすればいじめられないですむようになるんだろうと、そればかり考えてきた。今まで、自分なりに考えてあらゆる努力をしたけど、みんな無駄に終わった。もし、目の前のこの女子――畑山さんが、「いじめの起きる構造」を知っているのなら、いじめられなくてすむ方法も知っているかもしれないと、僕は思った。どうしても確認しておきたかった。

 「安達をいじめると面白いから。そして、もうひとつは安達をいじめても危険が少ないからだよ」

 「危険が少ない?」

 「わかんないかな? 安達、ごめん、ちょっとハッキリ言うから、ヘコまないで聞いてね」

 畑山さんが、こんなふうに「予告」するのは初めてだった。僕は少し身構えた。

 「要するに、安達みたいにか弱くて、何を言っても何をやっても無抵抗で、反抗も告げ口もできなくて、助けに入る友達も極端に少なくて、空気みたいにいるのかいないのかわからないと言われちゃうような奴は、いじめても何の危険もない。いじめる人にとっては、安全すぎて笑っちゃう。ストレス発散に、ちょうどいいわけだ」

 僕は驚いて言葉が出なかった。そんな理由で、対象が僕だなんて。僕は、いじめられなくするにはどうしたらいいか、畑山さんに尋ねた。

 「安達をいじめるとめんどくさいって、みんなに思わせることだよ」

 畑山さんはそう言って笑った。でも、それにはどうしたらいいんだろう……? 僕が困った表情をしているのを察したのか、畑山さんが言った。

 「その顔は、方法がわからなくて困ってるな? じゃあ仕方ない。あたしが力になってあげるよ。利奈、ゆっきーにもお願いして、安達をいじめる奴がいたら、あたしたちが絡んだりしてめんどくさくなるようにしてあげる。そしたら自然に、いじめられなくなるよ」

 「そうでしょうか?」

 「安達、考えてみなさいよ。実際、あたしと一緒に学級委員やるようになってから、加藤も山下も、あんたに露骨に手、出してこなくなったでしょ?」

 言われてみれば、確かにそうだ。今までだったら人気のないところに誘い出されて、何かされるのが当たり前だった。でも、学級委員になってからは、加藤も山下も、遠くからニヤニヤ笑ったり、この前みたいに問い詰めるだけだ。殴られたり蹴られたりというのは一度もなかった。僕が黙ってうなずくと、畑山さんは言った。

 「それは、学級委員になる前と比べて、明らかに、安達をいじめるとめんどくさい状況になったからだよ。あたしだけならともかく、利奈やゆっきーも黙ってないしね」

 「そうなんですね。じゃあ畑山さん、力になってもらえますか?」

 僕が聞くと、畑山さんは、いいよと言って笑う。調子に乗った僕は、もうひとつ畑山さんに聞いてみた。

 「畑山さんは、マリー・アントワネットと呼ばれることを気にしてますか?」

 「ううん、全然気にしてないよ。小学生の頃はね、そう呼ばれるのが嫌で嫌で、呼んだ男子を学校中追いかけ回し、捕まえて痛い目に遭わせたりしてた。でも最近は、そうでもないね。安達は知ってるかどうかわからないけど、マリー・アントワネットって、言われてるほど悪い人じゃないんだよ」

 「そうなんですか?」

 「確かにアントワネットはね、オーストリアで生まれ、ベルサイユ宮殿に入った『よそ者』なのに、気に入らない人は無視したりして自由奔放に振る舞ったの。そのことでいろいろ言われたけど、自分のためにお城は建てなかったし、宮廷内の貧しい子どもたちのためにカンパを募ったりしたのよ」

 「それって、いい人じゃないですか」

 「そう。あの有名なセリフも、マリー・アントワネットはそんなこと言ってないって、今では研究も進んでわかってるの」

 「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない、ですよね?」

 「うん。さる大公夫人がね、家臣から『農民にはパンがありません』と言われたときに、『それならブリオッシュを食べればよい』と答えたんだって。ルソーが、ワインを飲もうと思ってパンを探したけど見つけられなかったときに、ふとそのことを思い出したらしいのよ。ルソーの『告白』という本に書いてるんだけど、その大公夫人の発言とやらが、めぐりめぐってアントワネットの発言ということにされちゃったみたいなの」

 「ルソーって、あの社会契約説の人ですか?」

 僕だって、それくらいのことは知っている。社会契約説……確か、市民には自分の安全や生活を守ってもらえる権利があって、そのために政府と契約を結んでいる。だから、政府がその約束を守らなかったら、市民は政府を取り換える権利を持つ……って、そんな説だったと思う。 畑山さんは「うん。そうだよ」と答えた。

 「でも、ブリオッシュってパンのことですよね?」

 「今はパンの一種とされているけど、当時はお菓子として扱われていたんだって」

 「そうなんですね」

 「アントワネットは強い人だったの。最後の裁判では、でっち上げられた罪は絶対に認めなかったし、革命派の手でギロチンに送られるときも『無実の罪でギロチンに送られるなら恥ずかしくない』と堂々としていたんだって」

 「へえ。初めて知りました」

 「だから、アントワネットと呼ばれることは嫌いじゃないよ。あたしのことを自立した女って認めてくれるんだから、褒め言葉だと思ってる。むしろ、アントワネットのように自分に正直に生きたいの」

 「最後、死刑になってもですか?」

 「もちろん、それは無しだよ。アントワネットみたいに強く生きて、寿命までちゃんと長生きもする。どう、あたしって欲張りでしょ?」

 はい、とっても欲張りです、と僕は思わず答えてしまった。畑山さんは僕のほうを振り向きながら、

 「あんた、少しくらいフォローしなさいよ。『そんなことないです』とか、言えないの?」

と言った。僕は思わずうろたえてしまい、すいませんと謝った。

 「あはは。そうやってすぐ悪くないのに謝るのは安達の悪いところ。言ったでしょ。もっと堂々としなさいって」

 畑山さんは、諭すようにそう言った。か弱い僕を一生懸命強くしようとしてくれる畑山さんには本当に感謝している。

 僕たちはあっという間に『玉井』の前に着いた。いつもは長くて退屈な道が、畑山さんとしゃべりながらだと短く感じる。

 「じゃあまた明日ね!」

 「はい。さよなら!」

 元気にあいさつすると、僕たちは別れた。謎めいた存在だった畑山さんにまた一歩、近づくことができた気がした。「逃げないで、精いっぱい努力しよう」と自分を奮い立たせた小さな決意は、少しずつ僕の学校生活の歯車を好転させ始めたようだった。

 同時に僕は、畑山さんと一緒に歩いて帰るこの通学路が好きになっていることに気付いた。もし許されるなら、もっと一緒に帰りたい。誰にも邪魔されない2人だけの通学路で、学級委員の仕事のことはもちろん、それ以外のことももっとたくさん聞きたい。もっといろいろ話したい。そう思い始めていた。

 初めて感じる、この少しくすぐったいけれど心地よい気持ち。しかし、今の僕には、まだそれが何なのかわからなかった。家に帰りつくと、身体の中が火照っていて、まだ5月の連休前だというのに、うっすらと汗がにじんでいた。

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