安全問題研究会は、本日、JRグループ旅客6社と貨物会社を中心に、日本国有鉄道がかつて担っていた事業の大部分を全国1社制の新型公共企業体に統合再編するための基礎となる「日本鉄道公団法案」を決定した。法案の全文、国会議員及び一般向け逐条解説資料は別に示すとおりである。
法案は本則59条、附則6条から成っており、JR旅客6社、貨物会社の鉄道7社及びその事務事業、JRバス8社の事務事業、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が保有する整備新幹線財産及び同機構が特例業務勘定をもって実施している旧国鉄業務のすべてを新設する日本鉄道公団に再編統合し、全国1社に戻すことを内容としている。7社に分割されたJR各社を公共企業体に戻すには大きな政治的、社会的、経済的エネルギーが必要と考えられることから、再国有化は1906年の鉄道国有法施行時を参考に、2段階方式で行うこととした。具体的には、経営状態が極めて深刻なJR北海道とJR四国、また物流政策の重要性からJR貨物の株式未公開3社を先行させ、その3年後をめどに残る各社及び関係事業を再国有化する。
整備新幹線開業に伴ってJRから経営分離された並行在来線第三セクター鉄道も強制的に公団に戻す。国鉄時代の特定地方交通線転換第三セクター鉄道については、すでに開業後30年近く経過し、路線によっては地域に深く定着して国鉄と同様の枠組みに戻ることを望まない地域が出ることも予想されることから、地元関係者が希望する場合に公団線に戻れるよう必要な制度設計を行った。
この法案が成立し、JRグループの日本鉄道公団への統合再編が実現すれば、JR北海道や四国と本州3社との著しい経営格差、整備新幹線の並行在来線切り捨て、並行在来線第三セクター区間におけるいわゆる「貨物調整金」など会社分割に伴って生じている問題は、すべて一気に解決されることになる。
本法案の大きな特徴は、旧帝都高速度交通営団(現・東京メトロ)にかつて設置されていた管理委員会や、NHK、日本中央競馬会に設置されている経営委員会などをモデルケースとして、業務運営の基本方針、役員人事や資金調達、運賃決定に至るまで自主的、自律的に決定できる合議制の議決機関「管理委員会」を設置することとしたこと、管理委員会委員(定数15)の3分の2に当たる10人に公選制を導入したことである。全国規模で事業運営を行う公共企業体の管理委員への公選制導入は、我が国では初の試みであろうと思われる。国民が選挙で選任した代表者によって、業務運営上の重要事項の決定すべてが行われる民主主義的経営体の実現に向けた、新時代にふさわしい挑戦である。
本法案は、JR北海道問題が深刻化する中で、道内のJR問題を考える諸団体、道内外のリニア新幹線問題を考える諸団体と当研究会との間で民主的討議を繰り返すことを通じてその構想が固まった。とりわけ、北海道民が必死に存続を求めてきた生活必需路線が赤字経営を理由に強制的に奪われる一方、地元の誰も望んでいない整備新幹線やリニア中央新幹線が強制的に建設される事態を前にして「路線の新設や改廃をいつ、誰が、どのような手続きを経て決めているのか。そこに市民、有権者の意思は反映されているのか」という問題提起が市民から行われたことは決定的な転機であった。新設する日本鉄道公団に公選制を基礎とする管理委員会制度を導入しようという試みは、利用者や市民の意向を反映しない形での路線の新設・改廃では交通政策としての意味がないという、民主主義国家では当然の問題意識をその出発点としている。
本法案は、新型コロナウィルスの感染拡大によって、これまで日本の公共交通事業者の経営を支えてきた観光客・通勤客が揃って大幅な減少を余儀なくされ、公共交通事業者の経営が大打撃を受けるという未曾有の情勢の中で各政党に示される。満員電車の運行を当然の前提とした「鉄道事業法体制」は抜本的見直しを迫られており、いま手を打たなければ21世紀は日本の鉄道にとって滅亡の100年となるであろう。
ポストコロナの新時代を見据えた当研究会の基本的考え方は、2020年10月、日高本線の廃線が合意された際の声明と同時に公表した「コロナ禍、また近年相次ぐ大規模自然災害等による公共交通機関の危機を受け、地方における鉄道路線を維持するため、今後採るべき新しい鉄道政策についての基本的考え方」に示したとおりであり、本法案にはここで示した考え方も最大限取り入れている。
本法案の提示と、その成立に向けた取り組みは、当研究会にとって発足以来最大の仕事となるであろう。最近の政治情勢を考えると、もとより困難は承知しているが、「鉄道やバスは赤字になれば廃止されるもの」という公共交通に対する日本社会のこれまでの悲観的思想を根底から変え、ポストコロナ時代にふさわしく、かつ国際標準に照らしても遜色のない公共交通を確立する新時代の幕開けとするため、本法案の成立を期さねばならない。
当研究会は、年明け早々から、本法案を主要政党に示す取り組みを本格化させる。本法案成立のため、会の総力を挙げて取り組むことを表明する。
2021年1月4日
安全問題研究会