コロナ禍、また近年相次ぐ大規模自然災害等による公共交通機関の危機を受け、地方における
鉄道路線を維持するため、今後採るべき新しい鉄道政策についての基本的考え方

 2020年10月23日
 安全問題研究会

1.はじめに~当会の問題意識

 国鉄分割民営化によって日本から国有鉄道が消滅して33年が経過した。東海道新幹線開業によって世界で初めて高速鉄道を成功させたことで確立した日本の鉄道大国の地位は、国有鉄道を消滅させるという誤った鉄道政策によって完全に地に墜ち、近年発展した多くの国や地域の後塵を拝する状況となりつつある。

 とりわけ、独立採算性が採用され、コストを運賃料金収入でまかなえない鉄道事業者に対し、経営体としての持続を保障する制度がないこと、国鉄改革法可決成立時の国会における附帯決議で特別の配慮が必要とされたにもかかわらず、災害復旧に関する安定した制度が今もないことは、日本の鉄道政策における最大の欠陥と言わなければならない。

 また、新型コロナ感染対策上、人の密集が困難になったことで、満員電車の運行を前提とした従来の鉄道経営は完全に破綻した。今、日本の鉄道政策は根本的な転換を迫られている。

2.鉄道網維持に役立たない既存の法制度

 日本の鉄道政策の欠陥の根底にあるのは、国鉄改革とともに成立した鉄道事業法及びそれに基づく新自由主義的諸制度である。地方鉄道であっても、地域社会経済に重要な役割を果たしているもの、貨物輸送を通じて地域社会や住民生活の安定に寄与しているものなど、収支にかかわらず存続を認めなければならない路線はなお多い。しかし、鉄道事業開設に当たって事業収支見積書の提出を求め、これを基に「事業の計画が経営上適切なものであること」が認められなければ鉄道事業免許を与えないとする同法の諸規定が、事実上地方鉄道の持続を阻むものとして作用してきた。極端な表現をすれば、鉄道事業法及びこれに基づく現在の諸制度は、息もできないようなぎゅうぎゅう詰めの16両編成の満員電車を3分間隔で運転して利益を上げること、それができなければ鉄道事業から撤退することを、地方含むすべての鉄道事業者に要求しているのである。

 このようなでたらめな法制度の下では、新幹線と三大都市圏の私鉄会社を除く鉄道は、遅かれ早かれすべて維持困難な状態に追い込まれるであろう。今、JR北海道を舞台に起きていることは、10年後、全国に拡大が見込まれるこうした事態の予兆である。

 こうした事態を転換し、収支均衡を達成することが困難な地方においても公共交通機関としての鉄道網を維持してゆくためには、もはや鉄道事業法を全面的に廃止し、これに代わる新たな法制度を構築する以外の道はない。そこで、当研究会は今回、以下の通り提案する。

3.当会が提案する新法制度の骨子

(1)JRの国有鉄道への再編(鉄道国有法)

①国鉄改革法の施行によって、旧日本国有鉄道からJR各社に継承された路線のうち現存するものは、再び国有鉄道(以下「新国鉄」という。)に戻す。この再国有化は、JR北海道、四国、九州に帰属する路線は遅くとも2025年までに、その他は遅くとも2030年までに行われるものとする。

②日本国有鉄道経営再建促進特別措置法に基づいて第三セクター鉄道に移管された路線に関しては、各地の地域事情を踏まえ、上記①の経過期間中において地元が希望した場合には、新国鉄へ編入できるよう諸制度を整える。

(2)鉄道事業法の全面廃止と「地方鉄道振興基本法」の制定

①現「鉄道事業法」を全面廃止し、国有鉄道法及び地方鉄道法に再編する。国有鉄道法は「新国鉄」について、地方鉄道はそれ以外の鉄道について規定するものとする。

②地方鉄道法には、少なくとも以下の規定を盛り込む。
(ア)線路の保有は公的主体にのみ認め、維持も公的主体が行うことを原則とする。
(イ)災害復旧は公共事業として国の責任で実施する。
(ウ)上記(ア)(イ)のための予算は、国の責任で措置する。

③国及び自治体に対して、従来の自動車中心のまちづくりから、鉄道と駅を中心としたまちづくりへの転換を促すため、地方鉄道振興基本法を制定する。この法律には、鉄道中心のまちづくりに転換した地域に対し、地方交付税の増額などの優遇措置を盛り込むほか、国及び自治体に対しては、鉄道を中心としたまちづくり基本計画(以下「基本計画」という。)の策定及び5年ごとの見直しを義務づける。さらに、国に対しては、基本計画の達成状況の国会への報告を義務づける。

(3)鉄道事業における独立採算制導入の禁止

 鉄道事業法の下で多くの地方路線が廃線になったことを踏まえ、新制度では独立採算制による鉄道運営を禁止する。この禁止には一切の例外を設けない。

4.新法案の作成及び政党対策について

上記の考え方に基づいた新法案は、一括して当研究会が作成し、各政党に提案する。

(以  上)

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