検察審査会が2度目の「起訴相当」議決〜
東電3経営陣強制起訴へ 刑事訴訟で責任追及を

<筆者より>
 本稿は、本誌第167号「東電元経営陣3名に「起訴相当」議決〜福島原発告訴団、原発事故刑事責任追及へ前進」及び本誌第174号「東京地検、東電元経営陣3名を再び「不起訴」に〜福島原発告訴団、証拠追加と新告訴で刑事責任追及強化」(いずれも拙稿)の続稿となるものである。ぜひ、167号、174号と併せて一読いただくことをお勧めする。


 7月31日、東京第5検察審査会は、東京電力の勝俣恒久元会長、武藤栄、武黒一郎の両元副社長の3人について、起訴すべきとする2回目の議決を公表した。昨年7月に続くもので、3人は今後、裁判所が指定する検察官役の弁護士により強制起訴される。

 2012年に、福島原発告訴団が勝俣元会長ら33人を業務上過失致死傷罪で福島地検に刑事告訴・告発した。2013年9月、検察は告訴・告発を福島地検から東京地検に移送し不起訴とした。その後、福島原発告訴団が東京電力旧経営陣6人に絞って検察審査会へ審査を申し立てたのに対し、東京第5検察審査会が2014年7月に、3人を「起訴相当」と議決。東京地検が「再捜査」の後、今年1月、再び不起訴としたため、検察審査会が再審査していた。

 司法制度改革の一環として、2009年に導入された強制起訴制度によるものだ。起訴相当は、11人の検察審査会委員のうち、3分の2以上に当たる8人が賛成しなければ出すことができない。1回目と2回目の審査は別の審査員が担当するので、22人の審査員のうち16人以上が東電を起訴し、責任を問うべきと判断したことになる。107名が死亡したJR福知山線脱線事故(2005年)に続いて、検察が免罪しようとした巨大企業犯罪の責任者を市民が再び刑事裁判に引きずり出した意義は大きい。

 議決が公表されたこの日はちょうど金曜日。強制起訴の一報は、首相官邸前で反原発の声を上げる市民にもすぐに伝わった。東京都杉並区の丸山暢久(のぶひさ)さんは、「東電元会長ら旧経営陣3人が強制起訴されることになったのは非常に良い。裁判の過程で責任の所在や原因を究明するのは最低限やるべきこと。その前に早く廃炉にしなくてはいけない」と議決を歓迎する声を上げた。

 この議決を受けて、福島原発告訴団は、武藤類子団長名で以下の声明を発表した。

 ●起訴議決を受けての団長声明

2015年7月31日
福島原発告訴団 団長 武藤類子

 私たち福島原発告訴団が2012年に14,716人で行った告訴・告発事件について、東京第五検察審査会は本日7月31日、被疑者勝俣恒久、武黒一郎、武藤栄の3名について起訴議決としたことを発表し、3名は強制起訴されることとなりました。

 未だに11万人の避難者が自宅に戻ることができないでいるほどの甚大な被害を引き起こした原発事故。その刑事責任を問う裁判が開かれることを怒りと悲しみの中で切望してきた私たち被害者は、「ようやくここまで来た」という思いの中にいます。

 この間、東電が大津波を予見していながら対策を怠ってきた事実が、次々に明らかになってきています。これらの証拠の数々をもってすれば、元幹部らの罪は明らかです。国民の代表である検察審査会の審査員の方々は、検察庁が不起訴とした処分は間違いであったと断じ、きちんと罪を問うべきだと判断したのです。今後、刑事裁判の中で事故の真実が明らかにされ、正当な裁きが下されることと信じています。

 福島原発告訴団は、この事件のほかにも汚染水告発事件、2015年告訴事件によって原発事故の刑事責任を追及しています。事故を引き起こした者の刑事責任を問うことは、同じ悲劇が二度と繰り返されないよう未然に防ぐことや、私たちの命や健康が脅かされることなく当たり前に暮らす社会をつくることに繋がります。その実現のために、私たちは力を尽くしていきます。これからも変わらず暖かいご支援をどうぞ宜しくお願い致します。

 ●万が一の津波にも備えよ

 そもそも、政府の地震調査研究推進本部(推本)の津波試算結果や「福島県沖で大地震が発生する恐れが否定できない」とする大学教授の指摘に基づいて、東電は2008年、明治三陸地震並みの津波が福島県沖で発生した場合に、福島原発敷地で最大15.7メートルの高さになる恐れがあるとの試算をまとめていた。福島第1原発タービン建屋は高さ10メートルであり、予想通りの津波が襲来した場合、タービン建屋を大きく超える。これとは別に、非常用海水ポンプが水没するとの推定も2009年には東電社内でとりまとめられていた。こうした試算結果が具体的な社内資料として、東電幹部の間で広く共有されていたという事実もある。

 議決はこうした事実に基づいて、試算結果を「原子力発電に携わる者としては絶対に無視することができないもの」とした。「放射能が人体に及ぼす多大なる悪影響は、人類の種の保存にも危険を及ぼす」と健康被害にも言及。原子力発電に関わる責任ある地位にある者」であれば「万が一にも重大で過酷な原発事故を発生させてはならず…備えておかなければならない高度な注意義務」があるとした。東電には具体的な津波の予見可能性があったこと、津波対策を検討している間だけでも福島第1原発の運転停止を含めた結果回避措置を講じるべきだったと結論づけた。

 その上で、東電の3人の責任者について「適正な法的評価を下すべき」として、起訴相当と議決した。

 検察審査会はまた、武藤副社長が推本の評価を無視していた事実を指摘。事故当時の東電が「原子力発電所の安全対策よりもコストを優先する判断を行っていた」と、東電の「命よりカネ」の企業体質を厳しく批判した。

 今回、新たに判明した事実もある。東電設計がまとめた最大13.6メートルの津波予測を、東電が2008年に受け取っていたのである。国の調査機関である推本のデータもグループ会社である東電設計のデータも、自分たちにとって都合が悪ければ無視――議決書からは、そんな東電の傲慢な企業体質が見える。

 ●市民による厳しい「専門家」検察批判

 検察は、審査会の1回目の起訴相当議決の後も、東電を免罪するための証拠ばかり収集する不当な「再捜査」を行い、言い訳を並べ立てて不起訴とした。審査会は、こうした検察の姿勢についても「何の説得力も感じられない」「事柄の重大さを忘れた、誤った考えに基づくもの」と厳しく批判。改めて、原子力ムラの代理人と化した検察の姿が浮き彫りになった。

 事実だけを淡々と見つめ、東電の刑事責任を問うべきと判断した市民に対し、はじめに「東電免罪」の結論ありきであった検察。福島原発事故を巡って、「専門家」は126人(疑い含む)もの甲状腺がん患者が発生した今なお「放射能による健康被害ではない」などと非科学的言辞を繰り返す。そのたびに「自称専門家」は市民の厳しい批判を受け、権威を失墜させていく。放射能の健康影響を巡って繰り返されてきた「専門家」と市民との厳しい対立が、法律の世界にも飛び火したかに見える。3.11以来、今日までの4年半の中で、「専門家」と市民のどちらが正しかったかは今さら繰り返すまでもない。

 ●有罪の可能性は?

 「識者」の多くは、強制起訴の先行例であるJR福知山線脱線事故を巡る3社長の裁判などで相次いで無罪判決が出されていることを根拠に「有罪は困難」との見方が強い。しかし、当コラム筆者の見方は異なる。

 そもそも、JR福知山線脱線事故の裁判では事故の「予見可能性」が大きな争点となった。JR西日本が速度照査型ATS(自動列車停止装置)を事故現場のカーブに設置しておかなかったことが、直接に事故原因となったかが検証された。当コラム筆者は、速度照査型ATSが現場にあれば制限速度を50kmも上回るような極端な速度超過は起こり得ず、転覆脱線という結果は回避できたと考えるが、裁判官はその可能性を否定した。

 だが今回は、東電が適切な津波回避対策を取らなかったことと事故との直接的因果関係を強く推認させる証拠は、すでに福島原発告訴団によって多く提出されている。前述した推本や東電設計による津波予測を東電が無視し、不採用としていく経緯を示した証拠はその典型だろう。検察は最後まで東電の強制捜査を行わないままこの日を迎えたが、福島原発告訴団が揃えた証拠を概観すれば、有罪を立証するための強制捜査などすでに不要なレベルにも思える。裁判官が不当配転や退官後の天下りさえ気にしなければ、有罪は十分あり得ると考える(過去には、原発訴訟で原発は「安全」だとして電力会社勝訴の判決を書いた後、原発メーカー・東芝に天下りした味村治裁判官の例もある)。

 今年4月の福井地裁による高浜原発3・4号機運転差し止め仮処分決定に続き、今回の強制起訴は政府・電力会社と原発推進勢力に打撃を与えた。国策として原発を推進しておきながら、政府は事故が起きても守ってくれず、自分たちが被疑者として法廷で責任を追及されるとなれば、電力会社の中に再稼働をためらう動きが出る可能性もある。市民と被災者の闘いが原発廃炉への道を切り開いている。

 すべての民事訴訟と強制起訴裁判、反原発の闘いを結び、東電の責任追及、事故の真相究明とともに全原発廃炉を実現しなければならない。

(2015年8月25日 「地域と労働運動」第179号掲載)

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