東京地検、東電元経営陣3名を再び「不起訴」に
福島原発告訴団、証拠追加と新告訴で刑事責任追及強化

 <筆者より>
 本稿は、本誌第167号に寄稿した拙稿「東電元経営陣3名に「起訴相当」議決〜福島原発告訴団、原発事故刑事責任追及へ前進」の続稿となるものである。ぜひ、167号と併せて一読いただくことをお勧めする。


 東京電力元経営陣らに対する告訴・告発に対し、東京地検が不起訴の決定をした後、福島原発告訴団が行っていた審査申し立てに関し、検察審査会が昨年7月、勝俣恒久元会長ら3人を「起訴すべき」と議決(以下「起訴議決」)したことについては、本誌第167号の本欄で詳しく取り上げた。検察審査会が起訴相当または不起訴不当と議決した事件については、捜査当局には再捜査の義務があることから、東京地検が再捜査を行ってきた。この再捜査の期限は通常、3ヶ月間とされているが、検察審査会法はさらに3ヶ月間延長することを認めている。東京地検は昨年10月24日、再捜査期間の3ヶ月延長を福島原発告訴団に通告。起訴議決を受けた東電に対する再捜査は越年確実な情勢となっていた。

 この間、福島原発告訴団は、検察への起訴要請などの行動を配置、働きかけを強化してきた。しかし、私たちの要求を無視するように、検察は2015年に入った1月22日、東電経営陣4人(「不起訴不当」議決の1人を含む)を再び不起訴とした。この結果、検察審査会が不起訴不当と議決した小森明生元常務については、刑事責任が問われないことが確定した。起訴議決を受けた3人(勝俣元会長、武藤栄、武黒一郎の両元副社長)については、検察審査会が再び審査を担当。再度「起訴相当」議決が出された場合は強制起訴となり、裁判所が指定した弁護士を検察官として刑事裁判が始まることになる。

 ●納得できない検察の再捜査と不起訴理由

 検察審査会法が定める期限ぎりぎりまで延長された「再捜査」だったが、この間、東京地検は何をしていたのかと私は問いたい。再捜査で検察のやったことと言えば、「津波は予測不可能」「対策は困難」とする立場の専門家ばかり訪ね歩き、ひたすら不起訴の補強証拠を集めていたに過ぎない。「起訴は無理と示すための捜査。要は頭の体操」と検察幹部が発言した最初の捜査と同じ、初めに結論ありきの再捜査だった。捜査も一貫して特捜部ではなく公安部が担当。国民のための検察だと私たちが実感できる見せ場さえ、ついに一度もないまま終わった。

 検察が説明した「再不起訴」の理由は「十分な津波対策を講じていたとしても、今回の大津波は予見し難く嫌疑が十分でない」というもので、市民感覚からはかけ離れている。東電が2008年に東日本大震災と同じ規模の15・7メートルの高さの津波を試算しながら、有効な対策をとらなかったことを指摘、「地震や津波はいつどこで起きるか具体的に予測するのは不可能で巨大津波の試算がある以上、原発事業者としてはこれが襲来することを想定して対策を取ることが必要だった」とした検察審査会の議決に対しては、ご丁寧にも「敷地東側では試算を超える津波が襲来しており、防潮堤を建設しても浸水は阻止できなかった」と反論。「予見は不可能で、刑事責任は問えない」と結論づけた。

 検察は、東日本大震災で福島第1原発同様の巨大津波に襲われながら、福島第1を上回る津波対策を講じていたため、微少な被害で済んだ東北電力女川原発(宮城県)や日本原子力発電東海第2原発(茨城県)との比較検討も行わず、2008年の段階で予想津波高さを15.7メートルとした予測が東電社内で共有され、武藤副社長が対策に動き出しながら具体的な津波対策が何ら取られなかった事実も考慮することがなかった。「初めに不起訴ありき」の再捜査であり、3ヶ月間の捜査期間延長も、東電を免責するための証拠集めと時間稼ぎであったと断罪するほかはない。

 この不起訴決定はまた、「何をやっても巨大災害には無力なのだから仕方ない」という、ある種の居直りとも言うべきものだ。検察のこの論法を認めるならば、原発に限らず、あらゆる巨大技術の現場では安全対策を取らなければ取らないほど、また危険を予測できなければできないほど運営事業者は免罪されることになる。起こりうる危険性を予測し、まじめに安全対策を取った事業者ほど罪を問われ、馬鹿を見ることになるわけだ。この結論を見て、女川原発や東海第2原発を管理する東北電力や日本原子力発電までが「安全対策を取らなくても刑事免責されるなら、津波対策など最小限にして会社の利益を最大限にしておけばよかった」などということになりかねない。事実関係の是非以前の問題であり、このような理由で東電を無罪放免にした検察の無責任、不見識もここに極まったといえる。

 読者の皆さまには、改めて東京第5検察審査会の議決書と、今回の東京地検の再不起訴理由書を読み比べていただきたいが、事実と証拠に基づいて、起訴すべき理由を理路整然と説明した検察審査会の議決書と、予断と偏見に基づいて自分に都合のいい証拠ばかり集めた検察の再不起訴理由書では、どちらが法律のプロが書いたものなのかわからないほどだ。多くのメディアが「刑事司法に限界」(2015.1.23付け「東京」)、「現実の検察、理念の検審」(2015.1.23付け「産経」)などと書き立てたのも当然だ。産経新聞のように「3人の強制起訴が現実味を帯びてきた」と踏み込んだ報道をするものもあった。一般市民からなる11人の検察審査員がまっとうな感覚の持ち主ならば、検察審査会での勝負は決まったも同然だ。

 ●経産省は津波による事故の可能性を知っていた!

 一方、一連の「吉田調書」をめぐる報道をきっかけに公開された政府事故調査委員会の調書は多くのことを明らかにした。とりわけ衝撃的なのは、経産省旧原子力安全・保安院関係者が、2009年頃には東日本大震災に匹敵する貞観地震(869年)クラスの津波の到来する可能性を把握しながら対策を先送りしていたこと、対策の必要性を指摘した経産省関係者に、上司に当たる幹部が「保安院と原子力安全委員会の上層部が手を握っているのだから、余計なことはするな」「クビになるよ」などと恫喝し、福島第1原発の津波対策を中止させていたことだ(こうした事実の多くは「原発と大津波〜警告を葬った人々」(添田孝史著、岩波新書、2014年)に詳しい)。これらの事実を基に、私たちは今回、経産官僚や電気事業連合会関係者ら9名を新たに告訴した。プロの検察官ではない、市民・被害者と弁護士との共同作業という中では高いレベルの立証活動ができたとものと自負している。考えたくはないが、たとえ東電が不起訴となり罪に問われなかったとしても、それは私たち市民と福島原発告訴団の敗北を意味するものではない。日本が法治国家でないこと、電力会社が在日米軍同様、完全な無法地帯に置かれていること、そして日本の刑事司法こそが真の敗者であることが明らかになるに過ぎない。

 私たちが告訴・告発運動の先に描いている未来は、国民を切り捨て大企業の協力者と化した迷惑な「代表者」――政治家や官僚から主権を取り戻すことである。私たちは、引き続きそのために全力を挙げる。

<参考資料>
福島原発告訴団ブログ

東京第5検察審査会の議決書

東京地検の再不起訴決定書

(2015年2月25日 「地域と労働運動」第173号掲載)

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