「JR北海道の安全と北の鉄路を考える1.22道民のつどい」報告
1月22日、「JR北海道の安全と北の鉄路を考える1.22道民のつどい」(主催:北海道交運共闘・道労連)が札幌市内で開催され、200人(主催者発表)が集まりました。この参加者数は主催者の予想をはるかに超えたようで、会場に用意されていた座席は100人分ほど。参加者の約半数が後方で立ち見という気の毒な状況でした。直前に地元紙・北海道新聞で報道されたことが大きかったようです。尼崎事故の起きた4月に、毎年、追悼と検証のための集会が数百人規模で開催されている関西地方を除けば、国鉄闘争終了後、JR問題でこれだけ集まった集会は初かもしれません。
<資料>
本集会プログラム
三浦さんの報告レジュメ
奈良さんの報告レジュメ
6つの緊急提言−日本共産党北海道委員会
集会は午後6時半開会。以下、各発言をご紹介します。
●主催者あいさつ 黒澤幸一・北海道交運共闘議長・道労連議長
北海道交運共闘と道労連は、(JR北海道の安全問題が深刻化した)昨年9月にJRへの申し入れ行動等、行ってきた。JR北海道は今や安全輸送の使命を果たせない状態だ。国の責任を明確化して闘わなければ、合理化が進むだけになりかねない。今日はJR以外の一般参加者も多く参加しており、利用者からの声も聞かせてほしい。
●特別報告「国鉄分割・民営化は何をもたらしたのか」 三浦隆雄・元全動労中央執行委員長
〔三浦さんは1938年生まれ。国鉄入社後、長町機関区(宮城県)に配属。国鉄在職中に全動労結成に参加、分割民営化後はJR貨物に移る。退職後の現在は宮城県山元町に在住〕
全動労はJR発足後、5年ごとに国鉄分割民営化の検証を行ってきた。JRは鉄道事業を中心とすべきなのに、力を入れているのは(駅ビルなどの)商業活動ばかり。JR北海道は鉄道事業の収入が全体の半分に満たない。東京、大阪、名古屋、札幌なでタダ同然でもらった資産で営業し、地元商店街の中小商店を圧迫するJRは横暴だ。国鉄から清算事業団に引き継がれた土地などの資産を売却したにもかかわらず、旧国鉄債務は25兆円から28兆円に増加した。これは、『国民負担は増やさない』とした国鉄改革のスキームの崩壊を意味する。株主は鉄道を愛しているからではなく、儲けを期待してJRの株を買っている。
この間、国による規制緩和が進み、ブレーキをかけて600m以内に停止できなければならないという規則も撤廃された。なぜなら、この規則がある限りスピードアップは不可能だからだ。また、国はJRのような黒字会社は災害で路線が被災しても援助しないので、東日本大震災で津波の被害を受けた三陸では、JRの路線が廃線やバス転換の危機を迎えているのに、赤字会社である三陸鉄道が早く復旧するという事態も起こっている。
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ここで、当研究会から念のため再度、補足しておきます。「ブレーキをかけて600m以内に停止できなければならないという規則」というのは、旧鉄道運転規則に定められていたものです。2002(平成14)年、鉄道施設・設備の安全基準であった普通鉄道構造規則などの各省令とともに鉄道運転規則も廃止、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」に転換しましたが、このとき具体的な数値をもって定められていた基準は省令からほぼ消え、強制力のない通達(鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準)に落とされました。また、国が仕様規定として定めていた基準(定められている仕様を満たすものでなければならない、とするもの)を性能規定(定められた性能を確保できるものであればその仕様は問わない)に転換し、さらに鉄道事業者が定めた解釈基準を参考に実施基準を制定して届け出を行い、国土交通省はその審査のみ行う、という方式に改められました。この結果、安全基準が鉄道事業者任せとなり大幅に後退しました。福島原発事故後に明らかになった旧原子力安全・保安院によるでたらめな安全基準(電力事業者が行った安全基準を国はただ追認するだけ)と同様、事実上規制が規制の意味を持たない、という重大な事態がここでも起きています。
国鉄改革法成立に当たって、1986年11月28日、参院国鉄改革特別委で行われた付帯決議では「政府は、本国鉄改革関連八法案の施行に当たり、次の事項について配慮すべきである」として、その第2項で「各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと」を求めています。JRが黒字会社であることを理由に、災害で路線が被災しても一切援助しない国の姿勢はこの付帯決議の精神に反するものです。
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また、三浦さんは、「全動労・国労組合員のJR新会社不採用によって、会社に物を言ってもだめだという意識付けが行われてきた」と述べました。たまたまこの日、JR北海道に対し、鉄道事業法に基づく2回目の事業改善命令とともに、JR会社法に基づく史上初の「監督命令」が行われたことから、3大全国紙が揃って社説でこの問題を取り上げたことを指摘、「北海道だけの問題ではない。本州での運動強化を行う必要がある」と今後の闘いの方向性について述べました。
●あいさつ 真下紀子・北海道議(共産)
今日も特急『スーパーカムイ』のトラブルでこの会場に遅れた。国土交通省の認識を質したとき、『JR北海道は今、安全基本計画を作ったばかりであり、すぐに効果は出ない』と言われた。この国土交通省の認識をまず、変えなければならない。
●JR北海道の現場からの報告 奈良之雅・建交労北海道鉄道本部委員長
〔注:建交労は北海道交運共闘に加盟〕
今、国の責任が問われている。私が昭和53〔1978〕年に国鉄札幌運転区(現・JR北海道札幌運転所)に車両検修担当として配属されたとき、最初の3か月は担当車種〔注・電車か気動車(ディーゼル車両)か〕は決まらず、環境整備などの業務に従事した。担当車種決定後は北海道鉄道学園に入り、みっちり研修を受けられた。しかし現在は、職場内で先輩が教えるだけだ。当時は試運転しながらの研修もあったが、それも今はなくなった。昔は後輩を指導するまで採用から7年あったが、今は4〜5年で指導しなければならず、教えた後輩からも「自信が持てない」との声が聞こえる。自分の同期は35人いたが、現在は12人しか残っていない。約3分の2が職場を去ったのは採用差別のせいだ。(国、自治体など)公的部門に転出させられたのも当時の20歳代が多く、そのことが40歳代が少ない歪な職員の年齢構成につながっている。
●国会からの報告 紙智子・参議院議員(共産・北海道選出)
議員4人でJR北海道本社、苗穂工場を見てきた。労働者に「明日から安全なのか、列車に乗っていいと約束できるか」聞いたが答えられなかった。「お客様第1ではありませんでした」と謝罪する人もいたが、「ここをこうすればいい」という(具体的な解決策の)話をする人はいなかった。
秋の臨時国会閉会後、国土交通委員会の閉会中審査で野島誠・JR北海道社長らを参考人招致した際、国土交通省を質した。「安全基準が事業者任せになっているのではないか」と質したところ、国土交通省は「あいまいになっていた」と認めた。国の監査が実効性を持たない状況になっていたのではないかと追及すると、監査のあり方についても今後、検討が必要と国交省は答えた。JR北海道に4つある労働組合を一堂に集めての協議の場を設けるべきではないかと質した際に、野島社長は「各組合と個別に協議の場を設けているので必要ない」と回答したが、その1週間後には4労組が一堂に会しての協議の場が実現した。
JR北海道問題で見えてきたのは、「統括安全管理者」が機能していないこと、労働者の意見を聞かないこと、レール検査データの改ざん問題でなぜ隠匿したかの解明がなされていないことだった。国の責任を追及し、道民の足としてJRを守っていくための道民運動にしなければならない。
●最後に、各発言者からひとこと
奈良さん 昔は組合の大小にかかわらず現場協議制があったが今はない。そのことも一因。
三浦さん 中曽根首相が1986年に衆参同日選をやり、圧倒的多数を確保する中で国鉄分割民営化は強行された。
紙議員 皆さんの意見が重要だと思っている。みんなで(国・JRを)監視し、その中から前進している実例を作っていきたい。ただ、必ず突き当たるのが財政問題。そこを考える必要がある。
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この後、会場参加者を交えた自由討論が行われました。全動労争議団関係者からは、分割民営化の責任、また国鉄叩きに明け暮れたメディアの責任を追及すべきだとする意見などが出されました。
安全問題研究会からは、(1)最近、毎朝のようにどこかの駅でポイントが故障して列車が遅れた、運休したというニュースが報道されているが、今の時期はほとんどがポイント凍結によるもの。国鉄時代は夜間、泊まり勤務でポイントが凍らないようカンテラを焚く人がいたが、駅の無人化と人減らしでそれができなくなったことが原因であり、駅に人を戻さなければ解決しない、(2)鉄道車両のエンジンは、走行中ずっとふかし続ける使用方法を想定しておらずそのための設計にもなっていないが、JR北海道はスピードアップのため走行中ずっとエンジンを吹かし続ける使用方法を採ってきた。減速ダイヤ実施前、石勝線の特急列車は160km/h運転区間のある北越急行(新潟県)とほとんど変わらないほどの表定速度で走行しており、このような無謀な走行を続ければエンジンが出火するのは当然、(3)昨年11月29日に行った国土交通省交渉で、「国鉄改革の成果はなにか」との当研究会の問いに対し、国交省側は「駅ビルができたことと駅員の言葉遣いが良くなったこと」としか答えられなかった。民営化の破たんは明らかである、(4)2001年に国土交通省が実施した規制緩和による気動車の検査周期の延伸も事故の背景として指摘する必要がある――の4点を報告しました。
最後に、松任正博・北海道交運共闘副議長が閉会あいさつ。「問題の根本には、人が人らしく生きられない社会にある。北の鉄路を壊し、路線を廃止したら人がいなくなり、限界集落になった」とローカル線切り捨てを批判。今後もこのような集会を続けていくことを宣言し、午後8時半過ぎ、閉会しました。
●感想
三浦・元全動労中央執行委員長の報告は、国鉄の累積債務問題、採用差別、人減らしと安全、整備新幹線問題、「エキナカビジネス」問題など「全面展開」の状態で、こうした熱い報告は久々に聞きました。今回のような集会を積み重ねながら、昨年秋の団結まつりでも確認したJR再国有化運動への飛躍を実現するときに来ています。
尼崎事故を巡り歴代社長4人が被告席に座ったJR西日本、安全投資もできないほど財政的に困窮する(とされる)JR北海道を尻目に、自前で9兆円もの巨費を投じ、リニア建設に暴走するJR東海・・・北海道に限らず、JRグループは問題山積の状態です。JR北海道問題を考える道民運動の水準にとどめることなく、「本州での運動強化を行う必要がある」とした三浦さんの発言は、この間の情勢に即した適切な問題提起であるといえます。
昨年の団結まつりで示した旧国労闘争団との共闘関係を再構築し、一大国民運動に向けた決意を固め直す、当研究会としても有意義な場となりました。
●その他
なお、JR北海道の安全問題を巡る、この間の各労働組合の動きを簡単にまとめておきます。
◇国労北海道本部・・・2013年11月16日に札幌で開催された「JR問題を考える学者・弁護士の会」主催のシンポジウムに関係者が参加。工藤義明・国労北海道本部書記長が「安全問題は労使の枠を超えた取り組みが必要。会社に提言を続けたい」と発言。
◇JR北海道労組(JR連合系、少数派組合)・・・2013年11月17日に「JR北海道の信頼回復と再生を目指す11.17集会」を札幌市内で開催。「安全が全てに優先される企業風土の確立」「技術継承を重視した人材育成・人事運用」「安全確立と風土改革の取り組みを検証する第三者機関の設立」等を求める8項目からなる「JR北海道再生プラン」を公表した(同労組ホームページに掲載中)。旧鉄産労(国鉄分割民営化時の国労脱退組)を母体としており、経営形態の変更に踏み込まない弱点も見られるものの、貴重な現場からの提言であり、当研究会としては今後の推移を注視したい。
・JR北労組ニュース「JR北海道の信頼回復と再生を目指す11.17集会を開催」
・JR北海道再生プランの概要(JR北海道労組)
・JR会社法に基づく監督命令と鉄道事業法による事業改善命令を受けての見解(JR北海道労組)
●参考資料
上記報告の内容がわかりにくい方は、当サイトの以下の資料をご覧ください。なお、PDF版資料をクリックしても開かないときは、安全問題研究会トップページから入れば開けます。
・規制緩和が生んだJR事故(「国鉄分割民営化20年の検証運動」パンフレット所収)
・JR北海道の安全崩壊の背景(2013年「団結まつり」における当研究会報告)
・JR北海道の事故多発の原因は国鉄分割民営化だ!〜闘いのうねりで今こそ再国有化を!(「地域と労働運動」誌掲載原稿)
・JR北海道列車脱線・炎上事故が意味するもの(2011年、当研究会による季刊誌投稿)
・問われなかった規制緩和と民営化(2007年「団結まつり」における当研究会報告)
・規制緩和と民営化が招く大事故(2006年「団結まつり」における当研究会報告)
・事業改善命令と監督命令の違いについて(国交省、史上初の「監督命令」へ)