「つたえるコトバ つながるミライ」 2020年2月15日(土)放送
「地域の足を守るために~JR北海道問題」について
(番組中、いただいた質問への補足回答 その2)
2020.2.18 安全問題研究会
先日の回答に対し、札幌市のHさんから、追加で感想兼質問が寄せられました。これらに対しても、以下の通り回答します。
●札幌市のHさんから追加でいただいた感想兼、追加質問
当方の取りとめのないお尋ねに、誠実かつ詳細にご回答くださり、ありがとうございます。驚きの発見があり、鉄道の運用に関してのモヤモヤが一段と深まりました。
<質問1>
新幹線が2社の走行範囲にまたがって運行する場合の料金の利益配分について。何も知りませんでした。そんな比率でよいのかと思いました。モヤモヤします。
<回答>
この配分方式は、新幹線に限らず、在来線を含めたJR全路線に共通適用されているルールですが、この配分方式が適切かどうかを考える上で、少なくとも留意すべき点が2つあります。
ひとつは、除雪費など、地域によって負担に偏りがあるコストについての配慮がこのルールでは一切、行われていないという点です。JRグループ発足前は、北海道から九州まで、国鉄の全路線がお互いに助け合う全国1社システムだったため、この点は問題になりませんでした。しかし、地域分割された現在のJRでは、除雪費用のような地域性のあるコストが発生した場合、対象地域を直撃することになります。
新幹線の場合、例えば、除雪費用のほとんどかからない東海道・山陽新幹線の東京~東広島(広島県)(862.4km)の指定席特急料金(「ひかり」「こだま」通常期)が7,030円であるのに対し、ほぼ同じ距離に相当する東北・北海道新幹線の東京~新函館北斗(862.5km)の指定席特急料金(「はやて」「やまびこ」通常期)が10,810円とかなり高く設定されており、除雪費が必要な地域事情が一定程度、考慮されているといえそうです。
しかし、運賃は国鉄時代の制度を引き継いでいることから豪雪地帯の地域事情は考慮されていません。また、在来線ではそもそも特急料金も全国統一の制度が適用されており、豪雪地域を多く抱えるJR東日本・北海道両社に不利な制度になっています。北海道新幹線の特急料金に限っていえば、JRグループ発足後かなりの時間が経過してから開通したという事情もあり、豪雪地帯特有のコストを反映することが認められた結果といえますが、それがなぜ新幹線の特急料金部分だけなのかは疑問が残ります。
もうひとつは、豪雪地帯特有の地域事情を考慮するとしても、それがなぜ割高な特急料金という形で受益者負担になっているのかという点です。日本では居住・移転の自由が認められているとはいえ、生まれる場所を選ぶことはできず、また一度生活拠点を築いた場所からの引越が困難であることを考えると、地域によって負担に偏りのある除雪費のようなコストを、該当する地域の利用者だけに受益者負担の形で求めることが公平かどうかは、いま一度議論し直す必要があります。
将来、新幹線による貨物輸送が本格化した場合、「北海道産の貨物を送り出すための除雪費用を、JR北海道・東日本だけが負担させられるのは不公平だ」として、見直しの議論に発展するかもしれません。
中長期的には、このような費用負担の偏りの問題は、国鉄時代のように、北海道から九州までの全路線がお互いに助け合う全国1社制に戻すことで解決すべき問題であると、当研究会は考えます。しかし、そのような制度改正には大きな政治的エネルギーが必要です。道路に関しては、除雪費を負担した地方自治体に対し、国がその3分の2を補助する制度があります。さしあたり、分割の仕組みがすぐに変えられないのであれば、鉄道にもこのような制度を創設する時期に来ているのではないでしょうか。
<質問2>
空いている新幹線を貨物用に、というニュースで、なぜモヤモヤしたのか。根本的に「新幹線が本当に必要なのか」が疑問だからです。貨物列車が必要なら、何も巨額の費用を注ぎ込み、歳月をかけずとも、従来の車両を使っての運用だけで済むのではないのかしら。
それでも、30年前とは違って、現在はドライバー不足のために、トラックによる物流には限界があること、また、食糧資源が豊富な地域ゆえに、これをチャンスと捉え、付加価値をつけた運用ができることを期待します。
<回答>
新幹線が本当に必要かどうかは当研究会にも迷いがあります。日本が世界で初めて東海道新幹線を開通させたことにより、斜陽産業といわれた鉄道に新時代が到来したことは事実ですが、一方で、新幹線が並行在来線を食いつぶしたため、国鉄は財政破たんに追い込まれました。東京~長野間の新幹線が開業したことで、長野は東京から日帰り圏内になりましたが、一方で、宿泊客が減少した長野県内のホテルは多くが倒産したといわれます。交通機関が速くなることは、メリットだけではなく様々なデメリットも同時に生み出します。
当研究会が、新幹線による貨物輸送について「時代の要請」であるとの考えを示したのは、トラックドライバーの人手不足に加え、すでに新幹線が完成してしまっている以上は時代に即した活用方法があってもいいのではないかと考えたからに過ぎず、いわば副次的役割の提案です。現状では、高速輸送が求められる生鮮食料品などが貨物輸送全体に占める割合は多くなく、航空輸送という手段もあります。在来線の貨物輸送にもまだ改善の余地があります。
こうしたことから、新幹線による貨物の高速輸送は差し迫った課題ではありませんが、将来に向けては大きな可能性を秘めている分野です。新幹線による貨物輸送が本格化しても、旅客輸送の場合と違って「地方のホテルの宿泊客が減って倒産する」という問題は起こりませんし、トラックから貨物を奪うだけなので、JR貨物ともそれほど多くの分野で競合するとは思いません。
ただ、食料品の分野では魅力の高い北海道産や九州産のものを、鮮度を保持したまま首都圏や関西まで輸送できることになれば、首都圏や関西近郊で生産された食料品との間で競争が激しくなることが予想されます。競争が激化すれば、価格が下がり、手取り収入が減ることで農家の生活が苦しくなるという別の問題が発生することも見込まれます。国民経済という点では、考えておかなければならない点のひとつです。
<質問3>
上記<質問2>に関連して。
以前にも、この番組でJRについて特集を組まれたことがあります。ゲストは、やはり地脇さんではなかったでしょうか…。
遠隔地から鉄道を使って農畜産物、水産物などを運ぶために、その恩恵を受けている大都市圏にも、応分の負担があっても良いのではなかろうか、というような内容だったかと思います。目から鱗の発想で、ぜひ実現していただきたいと思いました。
以上、鉄道のような「社会的インフラ」についての価値は、その地域で採算がとれるどうか、だけでは計れないのだと改めて思いました。本来なら、国の仕事だとも。三公社五現業が解体された時には子どもだったので、その意味が解らずにいましたが、大人になった今、黙っていては追認したことになるのだと思います。
このような「地域の問題」に見える件に、地元マスコミは思い切った本音を書けないことが往々にしてあります。逆もまた真なり、ですが。全国紙に少しは頑張っていただきたいものですが…。
<回答>
昨年5月のJR問題特集にも出演し、そのような趣旨の話をさせていただきました。
地域を代表する企業と地元マスコミは「持ちつ持たれつ」の関係にあります。そのため、地元企業を表立って批判しにくいという問題は、全国の地方紙が共通して抱える悩みのようです。例えば、愛知県の中日新聞はトヨタやJR東海にはまったく弱いです。
原発立地地域の地方紙にも、電力会社や原子力関係企業への批判をしにくいムードがあります。福島県の地元2紙(福島民報、福島民友)も、原発事故で多大な被害を受けたにもかかわらず東京電力に対して弱腰過ぎて、どっちを向いて仕事をしているのかと言いたくなります。
青森県の地方紙「東奥日報」に至っては、青森市内の自社ビルに「日本原燃」(六ヶ所村の使用済核燃料再処理施設の運営企業)を入居させるなど、初めからメディアとしての中立性を放棄したと受け止められても仕方ないようなケースすら見受けられます。
一方で、沖縄県の地元2紙(琉球新報、沖縄タイムス)は基地反対の姿勢を貫き、よく頑張っています。福井新聞も「原発銀座」の地元紙でありながら、中嶌哲演さんという地元の有名な原発反対派の方のインタビューも載せるなど、原発推進に偏った報道はしていません。要は姿勢の問題であり、地元メディアには、地元を代表する企業と適切な関係を築きながら、適切な距離感を保つ努力も求められます。
岡目八目ということわざにもあるように、地元の利害関係、しがらみから一歩引いた形で冷静にニュースを眺められる全国紙のほうがよいケースもあると思います。最近、原発報道に関しては、朝日新聞、毎日新聞はかなり頑張っていると思います。そうしたメディアを勇気づけ、奮起を促すことも私たち市民の役目といえるでしょう。
2019年3月27日付「東奥日報」(青森県)の記事。
自慢げに報道することではないと思うが……その距離感、適切ですか?(画像をクリックで拡大します)