「つたえるコトバ つながるミライ」 2020年2月15日(土)放送
「地域の足を守るために~JR北海道問題」について
(番組中、いただいた質問への補足回答)

2020.2.16 安全問題研究会

1.札幌市のYさんからの質問について

 「昨年12月に政府予算案が閣議決定されたときの北海道新聞の報道にはがっかりしました。災害で運休に追い込まれた日高線の問題があったのに抜本的な災害対策を訴えるわけでもなく記事では整備新幹線以外に鉄道の話がでてきませんでした。JR北海道の地元の地方紙なのにこんなことでいいのでしょうか。これでは成長の見込める都市交通や新幹線だけに国家予算を投じ、非効率な地方の鉄道は切り捨てるという安倍政権のやり方を追認するようなものです。地脇さんはどう思いますか?」

 ●放送でお話できなかった補足回答

 放送でお話できなかった部分を補足で回答します。

 ご質問にあった「成長の見込める都市交通や新幹線だけに国家予算を投じ、非効率な地方の鉄道は切り捨てる」という国の政策は、安倍政権発足以前、もっといえば国鉄分割民営化以来続く歴代日本政府の一貫した方針です。

 2017年12月、安全問題研究会として上京し、国交省鉄道局にローカル線維持のための政策をとるよう申し入れを行いました。その際、安全問題研究会が問題視したのは国交省鉄道局の中で新幹線を担当する部署が「幹線鉄道課」、都市交通を担当する部署が「都市鉄道政策課」なのに、ローカル線を担当する部署が「鉄道事業課」であることです。

 名は体を表すということわざがあります。名称にこそ彼らの「本音」が隠されています。なぜローカル線担当だけに「事業」の文字が入っているのか、「事業」として成立しなければローカル線「だけ」切り捨てるためにこのような名称にしているのではないか、と国交省官僚を質しました。

 彼らは「名称にそんなに深い意味はありませんし、私たちはそのような意図で課の名称をつけたわけではありません」と答えましたが少し慌てているように見えました。今思えば、図星だったのだと思わずにはいられません。新幹線と大都市は赤字でも関係ないけれど、ローカル線は赤字なら切り捨てる。そんな彼らの本音が見えた申し入れ交渉でした。

 しかし同時に、「担当課名に事業という文字が入っているからといって、ローカル線だけ赤字なら切り捨てを意図したものではない」「私たちは、地元の皆さんに関わることなのできちんと議論して決めてほしいと思っている。JR北海道の資金がショートするから早く廃止せよという議論は、最もやってはいけないことだと思っている」との回答を国交省鉄道局から引き出したことは交渉の大きな成果です。この成果を、日高線などを守るために生かしていきたいと考えています。

 なお、日高線については、廃止が提案されている鵡川~様似の間の営業キロが116.0kmもあり、苫小牧~鵡川の間を含む全線では146.5kmもの営業キロがあります。これは、九州で言うと博多駅(福岡市)~長崎駅の間(153.9km)に匹敵する距離であり、この区間では現在、新幹線の建設工事が行われています。これほどの長距離を「各停のバス」で行けという政策はきわめて非現実的です。また、「住民が納得するバス転換の案が示されるまでJR北海道とは調印しない。早くても3年程度はかかるだろう」という沿線町長もいます。このような状態で、沿線7町がすべて納得するバス転換の案をJR北海道が提示するのは至難の業と言わざるを得ません。

 さらに、これらの問題をクリアしても、運転手不足の中、これほど長距離での転換バスの運行を新たに引き受ける事業者が現れるのかという問題が浮上しています。場合によっては「バス転換でJR北海道と沿線7町は合意したのに、運転手不足で運行してくれるバス会社が現れない」という事態すら予想されています。運転手のなり手が多かった国鉄末期の路線廃止のケースと今回が大きく異なるのは、まさにこの点なのです。

 こうしたことから、安全問題研究会では、バス転換をめぐる協議がこのまま長引いた場合、最終的に「やっぱり鉄道を災害から復旧させ、運行再開しよう」という話になり、日高線が運行再開するシナリオも十分あり得ると考えています。今後の地元とJR北海道との協議から、目が離せません。

2.札幌市のHさんから番組中に寄せられたメッセージについて

 「昨日、NHKのローカルニュースで北海道新幹線の乗車率改善のため貨物も一緒に積み込むという話題が出ていました。函館からしか乗れない新幹線、新青森から利用したことがあるけれど、便利とは言い難かった。高いし。札幌で新幹線が利用できるようになるまでにあと10年くらいかかるんでしたっけ? 巨額の費用をかけてローカル線を廃止して、一体何が得られるのでしょうか? 住民も観光客も、車に乗れる人ばかりではないのに……」

 ●放送でお話できなかった補足回答

 放送でお話できなかった部分を補足で回答します。

 (1)新幹線延伸と在来線廃止について

 新幹線に限らず、鉄道の乗車率が大都市から遠ざかり、末端区間に向かうほど低下するのは沿線人口を考えれば当然です。JRグループ発足時の各社申し合わせにより、会社間をまたがって乗車する乗客の運賃・料金収入は各社の営業キロに応じて配分するルールになっています。たとえ新幹線が札幌まで延伸しても、東京~札幌間を乗車した乗客の運賃・料金のうち、JR北海道には新青森~札幌間の運賃・料金しか配分されず、儲からないことは明らかです。延伸で主に恩恵を受けるのはJR東日本ということになり、ますますJR東日本と北海道の間の格差は拡大するでしょう。

 JR北海道が2018年6月に公表した「JR北海道グループの経営再生の見通し(案)」では、「新幹線開業効果の道内全域への波及」をめざすとしていますが、一方で輸送密度200人未満の5線区について「地域の皆様とともに、鉄道よりも便利で効率的な交通手段に転換」と廃止を鮮明に打ち出しています。これでどうして「新幹線開業効果の道内全域への波及」が可能なのか、きわめて疑問です。

 (2)新幹線での貨物輸送の実施について

 新幹線での貨物輸送については、古くは旧国鉄時代から構想があり、何度も浮かんでは消えた経緯があります。当時は新幹線が東京~博多間しかなく、また石油ショック後の不景気でトラックドライバーを募集すれば集めることは難しくありませんでした。新幹線貨物列車の構想はあっても非現実的だったのです。

 しかし30年経った今は違います。新函館北斗から鹿児島中央まで新幹線が伸びています。トラックドライバーの有効求人倍率は、地域によっては2倍を超えているところもあります。求職者1人に対し、2社以上が募集している状況ですが、それでも労働条件が劣悪なためまったく集まりません。こうした社会情勢の変化から「鉄道貨物輸送への期待が半世紀ぶりに高まっている」(JR貨物社長)という新たな状況を迎えています。

 ガラガラに空いている新幹線を活用して貨物を輸送するというアイデア自体は時代の要請であり、北海道のほか九州でも持ち上がっています。九州では、トラックドライバー不足で荷物を運びきれなくなったトラック協会から、JR九州に「新幹線で貨物輸送をしてほしい」との申し入れが行われるまでになっています。本州でも状況は同じですが、新幹線のダイヤに余裕がなく、混雑していて空席もほとんどないため、やりたくてもできないのが実情です。そのため、(1)ダイヤに余裕があり空席も多い、(2)食べ物がおいしい地域であり、生鮮食料品などの鮮度を保持したまま速達輸送を望む大消費地を遠方(首都圏や関西)に抱えている――など多くの共通点を持つ北海道と九州で「まず試験的にやってみよう」との話が、ほとんど同時に持ち上がっているのです。

 今後の見通しとしては、急ぐ人、遠くに行きたい人は追加料金を払って新幹線に乗り、ゆっくり行きたい人や近くに行く人は在来線に乗っている旅客輸送の分野と同じように、貨物輸送の分野でも「棲み分け」が進むことになるでしょう。生鮮食料品など急ぐ貨物や遠くに運びたい貨物は追加料金を払ってでも新幹線で、それ以外は在来線で輸送されるようになる――というのが、安全問題研究会の予想です。

 この予想通りになった場合、JR貨物をどうするかは今後、ひとつの問題となる可能性があります。国鉄改革法では、貨物輸送は原則としてJR貨物が受け持つことになっていますが、新幹線による貨物輸送が進むことで、JR貨物は「遅くて安い貨物専門会社」という位置づけになるからです。JR貨物が今後長期間、この状況に甘んじ、受け入れ続けるかどうかは予断を許さず、国鉄時代のように旅客と貨物を一体に戻すほうがいいという議論に進むかもしれません。今後の事態の推移を注意深く見守る必要があります。

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