「日本鉄道公団法案」決定に至るまでのJRグループ事業再建に関する
各界各層からの提案に対する当研究会における検討結果について

 2021年1月4日
 安全問題研究会

<はじめに>

 安全問題研究会は、本日、JRグループ旅客6社と貨物会社を中心に、日本国有鉄道がかつて担っていた事業の大部分を全国1社制の新型公法人「日本鉄道公団」に統合再編するための「日本鉄道公団法案」を決定した。

 1987年の国鉄分割民営化からすでに33年、国の低金利政策により経営安定基金が十分な運用益を上げられなくなってからでもすでに20年余が経過した。とりわけ、JR北海道は2016年11月、全営業キロの約半分に相当する10路線13線区(約1千キロメートル)を自社単独では維持困難であることを公表しており、同社が「バス転換を相当」とした5線区のうち3線区ですでに転換が決まっている。国鉄末期に全路線の3分の1がバス転換された北海道で、現存する路線はいずれも亜幹線クラスばかりであり、地域経済や物流に重要な路線である。これ以上廃線を容認する余地のある路線は存在せず、路線廃止に伴って地域が丸ごと崩壊する事態を防ぐ意味からも、対処が急務となっている。

 JR北海道による「維持困難路線」公表から4年半を経過し、JRグループを再建するための方策は各界各層から出されている。しかしながら、再建案の提案に携わってきた識者のほとんどは現行JR分割7社体制から新たな体制への再編の必要性では一致しているものの、どのように再編するかについては依然として百家争鳴の状態が続いている。議論も相変わらず輻輳しており、再建案として政治の場に引き上げるためには、そろそろ議論の整理をする時期に来ている。

 ここでは、各界各層から出されてきたJRグループ再建案のうち、実現性が高く、かつ有効と認められる4類型について比較検討を行った。その結果、全国を単位とする新型公共企業体(非公務員型公法人)にJRグループの事業を再編するとともに、国鉄末期、政治・行政によって完全に奪われた事業体の経営自主性・自立性を付与し、併せて民主的な運営形態を持続させる目的から、国民によって選挙された委員を中心とした合議制機関を設置して、業務運営の総合的な指揮監督に当たらせる制度が最も適切であるとの結論に至った。ここでは、この結論に至るまでの比較検討結果について説明したいと考える。

1.検討対象とした4類型について

(1)提示された4類型

 ①JR7社を存続させたまま、持株会社を設置して、持株会社によるグループ会社間の収益調整を行うもの(「JRホールディングス」案)
 ②JRグループの事業を上下分離し、「下」部分を国または国の全額出資する公法人の管理に再編するもの(「日本鉄道保有公団」案)
 ③JRグループの事業を国の行政組織に戻し、行政事業とするもの(「公共輸送庁」案)
 ④JRグループの事業を全国単位の公法人に再編するもの(「日本鉄道公団」案)
 ※なお、②以外の3類型においてはいずれも現行と同じ上下一体を想定している。

(2)各類型の検討

 ①JRホールディングス案

 持株会社「日本鉄道グループホールディングス(JRHD)(仮称)」を創設した上で、JRHDが未上場JR3社(北海道・四国・貨物)の鉄道施設を保有すれば「上場JR4社(本州3社・九州)からの配当収入を、その維持費用に充当するなどの経営支援が可能となる」とする。持株会社の下でのJRグループ再編案である。

 戦後、日本では戦前における財閥支配の反省から、GHQ(連合国軍総司令部)の指令により過度経済力集中排除法を制定、財閥解体が進められた。同時に、いわゆる「持株会社」(自らは事業を実施せず、被支配会社の株式保有を専業とする民間事業会社)の設立を禁止しており、国鉄が分割民営化された1987年の時点でも、持株会社は禁止の状態であった。このため、国は、持株会社禁止規定に抵触しないよう、国鉄清算事業団を設立してJR7社の全株式を保有させることとした(国鉄清算事業団は利潤獲得を目的とする民間商事会社でないため、持株会社禁止原則に抵触しないとされた)。

 しかし、国鉄清算事業団は、JR7社の完全民営化が実現するまでの過渡期において株式を保有するための事業体とされたため、この間、国鉄清算事業団を通じたJR7社間の収益調整は一切行われなかった。

 現在では、持株会社の設立が認められており、NTTグループや日本郵政グループでは持株会社方式を採用している。JRホールディングス案は、持株会社をかつての国鉄清算事業団に模した改革案といえるが、持株会社に適切な収益調整を行わせるため、法律、政省令、持株会社の定款など何らかの形で収益調整の義務を課さなければ、実効性が伴わない改革案となる可能性がある。

 ②「日本鉄道保有公団」案

 鈴木善幸内閣時代の1982年、小坂徳三郎運輸相の「私案」として運輸省内で極秘に作成されたが、事前調整しないまま情報が漏れたため、実現しなかったとされる。2016年12月30日付北海道新聞の報道でその存在が明らかにされた(末尾の記事参照)。

 EU(欧州連合)では、1990年に発出された「共同体の鉄道の発展に関する閣僚理事会指令」によって上下分離が推奨されており、加盟国の多くでオープン・アクセス方式と組み合わせる形でこの方式が採用されている。

 ※オープン・アクセス方式とは、上下分離が導入された区間において、「上」すなわち列車運行に当たる事業者を外部からの公募によって選定する方式をいう。

 EU加盟国の多くでこれに類似した方式が採用されていることや、運輸省が実現可能な大臣私案として作成した経緯から、日本においても実現可能でかつ有効な案であると考える。しかし、実現した場合、以下の2つが論点として浮上する可能性がある。

 第1に、1990年のEU閣僚理事会指令は、上下分離の推奨を第一目的としていたものの、同時に「上」を担う列車運行事業者に対しては競争政策を導入しようと試みる新自由主義の一面をも併せ持っている。EU諸国とは比較にならないほど鉄道ダイヤが過密な日本の都市鉄道でこの政策を導入した場合、ダイヤ過密化に拍車がかかり、保線の質が劣化して重大な安全性の低下につながる恐れがある(この問題点は、オープン・アクセス制を導入した場合に限定され、日本鉄道保有公団設立案が検討されていた当時のように、「上」も独占状態に置く場合、この問題は生じない)。

 第2に、EU閣僚理事会が1990年指令を発出した背景に、加盟国間でばらばらだった鉄道線路や施設設備の規格の統一を目指す目的があった。欧州では国境を越えて線路がつながっているため、線路や施設設備の規格統一が行われない限り、効率的な輸送は不可能だからである。

 これに対し、島国である日本では、外国との線路連結の必要がないため、必ずしも欧州諸国と同一の上下分離政策にこだわらなくてもよい。運行上の安全を十分確保するとともに、JR時代に過少となった設備投資や災害復旧が十分に行われるよう、「下」に対する十分な財源措置を盛り込みさえすれば、上下一体か分離かの議論はそれほど重要ではない。

 当研究会は、以上のような論点も含んでいることから、類型②は類型④の日本鉄道公団設立案に比べて優れた方式ではないとの結論に達した。

 ③「公共輸送庁」案

 JRグループを、新設する国の行政組織「公共輸送庁」に再編統合し、道路行政と鉄道行政を一体運営することで、道路と鉄道の縦割り行政を打破、総合交通体系も実現できるとする。敗戦まで日本の鉄道は国が鉄道省~運輸省鉄道総局として直営していた。この案は事実上の鉄道省復活案であるともいえる。

 鉄道が官庁会計となり、独立採算制の完全な形での採用は不可能となるため、新自由主義を排除する上では最も効果が高い案と考えられる。JRグループ時代のような「赤字になれば廃止」の愚は避けられる可能性が高い。しかし、この案が実効性を持つためには、少なくとも次の2条件が必要であると考える。

 第1に、鉄道部門と道路部門の組織を別建てにしてきた過去の歴史が繰り返されないようにしなければならない。2000年、橋本行革による中央省庁再編時にも、鉄道を所管する運輸省と、道路を所管する建設省を一体化することで、縦割り行政打破への期待が高まったが、結局は国土交通省内に鉄道局と道路局が並び立つだけで、縦割りは打破されなかった。今回、公共輸送庁を設立しても、庁内に再び鉄道局と道路局が並び立つ事態になれば、同じ歴史の繰り返しになるだけである。

 一方、鉄道を国の行政組織に戻した場合、他の行政部門との責任・権限をめぐる関係が曖昧になる可能性がある。当研究会が目指している国民の代表による直接的かつ民主的な交通事業への統制という観点で検討すると、責任や権限の範囲が行政の都合で変更され、隣接または周辺部門との間で融合したり分離したりする状況の下では、国民の代表による直接的かつ民主的な統制ができなくなる恐れがある。

 総合的に見て、この案では縦割り打破に向けた道筋が明確であるとはいえず、また縦割り打破が実現した場合であっても、国民によって選任された代表者によって統制を及ぼすことのできる範囲が官僚の都合によって伸び縮みさせられるような制度では実効ある民主的統制が実現するとは考えられず、本案ではその点に対しても十分な検討がなされているとは言いがたい。

 現行のJRグループ民営分割7社体制よりは大幅な前進であるものの、以上の理由によって本案も類型④の日本鉄道公団設立案に比べて優れた方式ではないとの結論に達した。

 ④「日本鉄道公団」案

 今回、当研究会が提案する方式であり、旧国鉄の欠点を補うために必要な修正を加えつつ、より民主的な制度として再構築したものである。

 公団に合議制機関「管理委員会」を設け、意思決定と業務運営全体に関する指揮監督を併せ行わせる。管理委員会の委員の一部を公選で、一部を有識者からの任命で選出することにより「民主主義選挙」の欠点を補いつつ、公団が行う事業に対する国民代表による直接的かつ民主的統制をも可能とする。地方自治体レベルでは、公選制による委員制度は農業委員会や海区漁業調整委員会、東京都中野区の教育長準公選制などの例があるものの、全国組織としては我が国の歴史上初めての制度になるものと考えられる。

 管理委員会が統制を及ぼし、同時に責任を負うべき業務の範囲が公団という組織に区分されることで明確となり、効果的な統制が可能となる。

 独立した事業体となることで、官庁会計制度の採用の余地がなくなるため、経理は企業会計原則によらざるを得ないが、新自由主義の論理に支配され、「赤字になれば廃止」の愚を避けるための対策として、①経営委員会に自主的に財源措置を講じることが可能となるような高度の独立性を与えること、②路線の新設または改廃(特に廃止)の判断をするに当たって独立採算制原則によらないこと、③その運営する事業に欠損を生じた場合における国による補てん制度が法定されていたにもかかわらず、国鉄時代は任意規定だったため行われなかった歴史を踏まえ、国による公団への欠損補てんを強制規定に変更し、事実上義務とすること――を公団法に盛り込んだ。これにより、国鉄時代の失敗を避けることが期待できる。

 また、当研究会は今後、国会議員や関係省庁担当者、一般向けに本法案を提示・説明し、理解を得る必要があるが、その際に重要なのは単純明快であることである。制度設計が複雑すぎると理解を得られず、せっかくの改革も頓挫する恐れがある。
こうしたことから、上記類型④が、他の類型①~③と比較しても最も優れた方式であると当研究会は考えており、この案を採用することとする。

2.管理委員会制度のモデルについて

 今回、公団の事実上の「司令塔」となるべき合議制機関「管理委員会」については、旧帝都高速度交通営団(現「東京メトロ株式会社」)にかつて設けられていた管理委員会制度や、日本放送協会(NHK)、日本中央競馬会(JRA)に設けられている経営委員会をモデルとした。いずれも自ら事業を行うことで得た収益で自らの経費をまかなっているという意味で、自立的経営を達成している非公務員型の法人である。

 これらの管理委員会、経営委員会はいずれも国会の同意を得て、内閣がその委員を任命する制度となっているが、今回、公団では一部委員を国民による直接選挙で選出することとして、民主性を高めている。

3.管理委員会委員の公選制における推薦人制度のモデルについて

 管理委員会委員への公選制導入に当たっては、供託金制度を採用せず、自分自身を除く有権者100名以上の推薦があれば、誰でも委員の候補者になれることとした。年齢制限も設けなかったため、市町村の選挙人名簿に搭載されていれば18歳でも立候補できる。

 東京都中野区で1978年に制度化され、1995年に廃止されるまで数度に分けて実施された教育長準公選制度では、立候補の要件を区民20人による推薦としていた。今回提案する公団は全国組織であるため、とりあえず必要な推薦数を5倍に引き上げている。

4.管理委員会委員の選挙を参議院議員通常選挙と同時実施とした理由について

 最近10年ほどの状況を見ると、国政選挙でも投票率は50%をやや超える程度であり、有権者のおよそ半分は投票していない。日本鉄道公団の管理委員会委員の選挙を単独で実施した場合、そのためだけに投票所に出向く有権者がいるとは到底考えられない。

 実際、東京都中野区の教育長準公選制における投票率を見ると、第1回(1981年)こそ42.98%であったものの、第2回(1985年)27.37%、第3回(1989年)25.64%、第4回(1993年)23.83%と回を追うごとに低下した。これが準公選制廃止論を勢いづける結果となった。今回、管理委員会委員の選挙を参議院議員通常選挙と併せて実施することとした理由は、こうした過去の失敗を踏まえ一定の投票率を確保するためである。

5.「公社」と「公団」の名称が持つニュアンスの若干の相違及び日本国有鉄道の名称の復活案を採用しなかった理由について

 日本では、過去「公社」の名称は、いわゆる公共企業体(日本電信電話公社、日本専売公社)を代表するものとして使用された例があるほか、地方公共団体が運営にかかわっている公的事業体の中にも「○○市環境事業公社」などの例がある。これらの地方公社はほとんどが社団法人、財団法人など「公」と「民」の中間的形態であることがほとんどである。日本交通公社(現JTB)のように、純然たる私企業が公社を名乗った例もある。

 「公団」は、旧住宅都市整備公団(現「UR都市機構」)、日本道路公団(現「NEXCO」各社)のように、採算性に乗らない事業を効率的に経営するための事業体に使用されてきた名称であるが、職員に公務員の身分がなく、労働関係や年金制度などにいずれも民間と共通制度が導入されている点に公共企業体との大きな違いがあった。

 佐藤信之・亜細亜大講師は、帝都高速度交通営団の組織形態を詳しく分析し、「合議制の意思決定・執行機関を持つ事業体」に公団を名乗るケースが多いことを論述している。今回、当研究会が提案するJRグループ各社再編後の新事業体は合議制の管理委員会を持つこと、職員を公務員の身分としないことから、公社よりも公団の名称のほうがふさわしいと考え、日本鉄道公団の名称を与えた。

 新事業体の名称の検討に当たっては、かつての「日本国有鉄道」復活も考えたが、国鉄に失敗の印象を持っている人も中高年齢層を中心に多く、過去の組織と同じ名称とすることで過去の失敗も一緒に復活するとの印象を持たれた場合、優れた案であってもそれだけで実現しない可能性がある。そのような事態を避けるため、日本国民であれば誰でも一読によって容易に事業内容を理解できるとともに、過去において使用されたことのない新しい名称を与えることとした。

    (以  上)


<参考資料>2016年12月30日付「北海道新聞」記事より

 1982年、運輸省内で密かに小坂徳三郎運輸相(当時)の試案として「日本鉄道保有公団」設立による国鉄線の上下分離案が検討されたことを伝えている。

●「揺れる鉄路」第1部/民営化の幻想・第1回/消えた上下分離案

 JR北海道が鉄道網の半分を「単独では維持困難だ」と公表し、沿線の自治体や住民が不安を募らせている。JR7社の発足から来年4月で30年。「分割民営化」と呼ばれる国鉄改革をあらためて検証し、危機の源流を探った。(「揺れる鉄路」東京取材班が担当し、8回連載します)

 旧国鉄の鉄道施設は、国が恒久的に所有、管理する―。JR7社が発足する5年前の1982年、こんな発想を盛り込んだ国鉄改革案が、運輸省(現国土交通省)内で策定された。当時の小坂徳三郎運輸相は「国鉄再建方策」と題し、鈴木善幸首相(いずれも故人)に上申した。

 「あの案がまともに議論されていたら、国鉄改革は違う方向に進んだかもしれない」。当時、運輸政務次官だった鹿野道彦元衆院議員(74)は証言する。原本は失われたが、取材班は11月下旬、B5判9ページに手書きされた概要版を、茨城県・筑波山のふもとにある国立公文書館分館で見つけた。

 注目すべきは、国鉄路線のすべてを対象に全国一律型の「上下分離」を目指した点だ。新設する「日本鉄道運営会社」が列車の運行(上)を、国所管の「日本鉄道保有公団」がレールなど鉄道施設の所有・管理(下)を担う。不採算路線を沿線自治体などが所有する現在の上下分離方式とは、根本的に異なっていた。

 実現していれば、施設の安全対策などには国費が投じられ、地方路線の赤字は大都市圏や新幹線の収益で補えたことになる。当時39万人いた職員を24万人まで段階的に減らし、私鉄並みの経営効率を実現する工程表も盛り込まれていた。

 当時の報道によると、鈴木首相は当初、この案を支持した。ところが事態は急変する。報道先行で表面化した事に腹を立てた自民党の運輸族議員が、猛攻撃を始めたのだ。

 「党への根回しがない」「政党政治の否定だ」。批判の声を上げたのは福田赳夫元首相率いる「福田派」の一部議員たちだった。逆に、案を評価したのは小坂氏が所属する田中角栄元首相の「田中派」。国鉄改革はすでに党内権力闘争の具となっていた。

 事態の収拾に当たった、当時は福田派の鹿野氏は議員たちに頭を下げ、「小坂氏の私的な案だった」として、公式に撤回した。「中身ではなく、党内手続きの問題だった。経済界出身の小坂さんは、根回しが下手だったから」

 混乱の後、この上下分離案が国会や自民党内でまともに議論された記録は残っていない。国鉄改革論議を主導した第2次臨時行政調査会(第2臨調、81~83年)は当時、すでに「分割民営化」案に傾いており、上下分離案を「議論する価値もない」と切り捨てた。

 全国の鉄道網の安定維持を主張した勢力は「国体護持派」などとレッテルを貼られ、世論の支持も、急進的とされた分割民営化案へと一気に傾いていった。

●もう一つの改革案 欧州「国管理」で維持

 当時としては斬新な「上下分離案」を発案したのは誰だったのか。今となっては突き止めるすべはないが、できるだけ組織を温存したい国鉄幹部と一部の運輸官僚との合作だったという説が有力だ。だからといって、臨調が指摘したように「議論する価値もない」愚策だったのだろうか。

 答えは欧州にある。国鉄分割とJR7社発足の翌1988年、スウェーデン政府は、全国一律の上下分離を導入し、民間企業の活力も利用しながら鉄道事業の再建に成功した。90年代に入ると、その方式は欧州から世界各国へ広がった。

 「国が管理する上下分離は、現在では世界の標準となっている」。世界中で地方路線を見てきた関西大の宇都宮浄人教授(56)=交通経済学=は断言する。

 例えばオーストリアの連邦鉄道。国の面積は北海道とほぼ同じだが、政府は施設管理会社に公的資金を投入し、JR北海道の約2倍となる4846キロの鉄路を維持している。さらに運行会社が昨年計上した約1200億円の赤字は、政府の補助金で穴埋めされた。

 鉄道経営を州など地方自治体に移管し、地方自治体が鉄道やバス、道路などの公共交通のあり方を総合的に計画しているケースもあるが、その場合も中央政府が財政措置で支えている。負担を地方に丸投げするようなことはない。

 旅客鉄道会社が独立採算で線路を維持しているのは世界の例外だ。宇都宮教授は「日本の政府や住民、マスコミは『鉄道は黒字でなければいけない』という意識にとらわれている。世界の鉄道はほとんどが赤字路線で、JR北海道は世界から見れば『普通の鉄道会社』だ」と指摘する。

 「全線を維持すれば会社は5年で破綻します」「話し合いの入り口に立たせてほしい」。JR北海道は11月に維持困難路線を公表し、経営の窮状を訴えて路線維持の負担を求める沿線自治体回りを始めた。しかし、財政の苦しい自治体側に、それに応じる余裕はない。30年前には予想しなかった「鉄路消滅の危機」が、沿線住民の不安をかき立てている。

 鉄道政策に詳しい英リーズ大のクリス・ナッシュ教授は11月下旬、東京都内で開かれたシンポジウムで、JR北海道の危機的な状況を踏まえてこう述べた。「欧州で鉄道やバスの不採算は企業の責任ではない。政治の責任だ」

<証言> 謝罪して案を撤回 元衆院議員・鹿野道彦氏(74)

 小坂徳三郎元運輸相の改革案が報道されたときは驚きました。当時、私は運輸政務次官でしたが、何も知らされていなかった。いきなり出たから、議員たちが怒って収まらない。私が大臣の代理として謝り、案を撤回しました。

 田中派の議員は「検討に値する」と食い下がりましたが、その後、まともに議論されることはありませんでした。当時の運輸族は福田派が多く、中でも取りまとめ役の三塚博元運輸相(故人)は国鉄内の「改革派」と気脈を通じていたのです。

 私自身も、分割民営化しかないと思っていました。国鉄は組織が大きすぎた。でも、人口減少や地域格差がここまで進み、JR北海道の経営がこれほど悪化するとは読み切れなかった。

   ◆   ◆   ◆

 政府はJR東海のリニア中央新幹線の建設を財政投融資で支援しますが、「地方創生」を掲げるなら、地方路線こそ支援するべきではないかと思います。

トップページに戻る