JR留萌線 この区間は、2016年12月4日限り廃止となる
JR北海道は、島田修社長が11月18日に記者会見し、宗谷本線名寄~稚内間など計13区間について、同社単独では「維持が困難」になったことを公表した。対象区間のうち3区間(輸送密度200人未満)はバス転換が適当とし、残る10区間(輸送密度200人以上2000人未満)についても、上下分離方式などの地元負担が必要としている。
13区間の概要(2016.11.19付け「北海道新聞」)
国鉄分割民営化を目前に控え、国鉄再建法(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法)に基づいて特定地方交通線の整理が行われた際にも、廃止路線の多くは北海道と九州に集中した。札幌都市圏を除いて人口密集地域がほとんどない北海道は、このときにも多くのローカル線を失ったが、旧産炭地の路線や盲腸線が中心だった。今回の13区間には、根室線帯広~釧路~根室間、釧網線東釧路~網走間など、主要都市間輸送を担う基幹路線のほとんどが含まれており、営業キロで見てもJR北海道全体の半分に相当する。もしこのすべてが廃止や地元負担となった場合、地元の社会経済に与える打撃は壊滅的なものになるであろう。今回の発表を、当研究会はJR北海道の「破産宣言」と受け止める。
当研究会などによるこの間の独自調査の結果は、JR北海道が今日に至る破たんへの下り坂を転がり落ち始めたきっかけが、バブル崩壊による低金利時代の到来に伴う、経営安定基金の運用益の減少にあることを明らかにした。2009年、高速道路1000円乗り放題政策で鉄道から自動車へ多くの旅客が転移したことが、JR北海道の「転落」を加速させた。JR北海道の経営を支えていた長距離旅客は、1000円高速政策が終了後も今なお鉄道に戻らないままである。
長距離旅客減少による経営悪化は、初めに安全崩壊となって表面化した。2011年、石勝線トンネル内で起きた特急列車火災事故はJR北海道の終わりの始まりを告げるものであった。2013年、函館本線における貨物列車脱線事故と、その後のレール検査データの組織的な改ざんは、JR会社法に基づく初の監督命令の発出に加え、警察当局の強制捜査、起訴によって刑事事件に発展した。この間、2人の社長が自殺する事態まで起きた。
JR北海道社内に設けられたJR北海道再生推進会議は、同社が民営化以降の30年にわたって、本来であれば安全投資に回すべき費用を、高速バスや航空機との競争の中で高速化に充てていたという驚くべき事実を告白している。2011~13年にかけ相次いだ事故やトラブルは、30年にわたった安全軽視と怠慢の明らかな帰結であった。再生推進会議は、こうしたJR北海道の安全軽視と怠慢を棚に上げ「安全か路線かの二者択一」を会社に迫る提言をまとめたが、地域公共交通、住民の足が守られるよう願う地元の意思を無視したこのような提言は一方的であり、断じて認めることはできない。
国鉄分割民営化に当初から反対し、三島会社(北海道・四国・九州)と地方の切り捨て、国鉄労働組合(国労)など反対派組合への差別・選別などの実態を告発しながら、JR不採用者の職場復帰の支援を続けてきた当研究会にとって、JR北海道の経営の行き詰まりは「起きるかどうか」ではなく「いつ起きるか」の問題であった。民営化初年度(1987年度)決算で、JR7社の営業収入全体に占めるJR北海道の割合はわずかに2.5%、JR四国が1%、JR九州が3.6%に過ぎなかった。JR北海道全体の営業収入(919億円)は東京駅の収入(約1000億円)より少なく、JR東日本1社だけでJR7社の営業収入の43.1%を占めていた。経営格差は歴然としており、この決算を見た当時の運輸省幹部が「羊羹の切り方を間違えた」と発言したことが伝えられている。
儲かる路線で儲からない路線を支えていた国鉄時代の内部補助制が分割で崩壊、儲かる路線の利益はJR本州3社の経営者が分捕り、北海道、四国、九州の損失は地元自治体・住民に押しつけられる――国鉄「改革」によって発足したJR体制とは最初から既にこのようなものであった。国鉄を葬った者、1047名の国鉄労働者を路頭に迷わせ、それ以外の多くの国鉄労働者を自殺に追い込んだ者、東京駅より少ない収入のJR北海道にできもしない「自立」を迫り、経営破たんに追い込んだ者の責任を追及しなければならない。
同時に、緊急課題として、北海道の鉄道路線の廃止を阻止するためのあらゆる行動を起こすことが求められている。当研究会は、この間の歴史的経緯や、再国有化・上下分離の必要性などについての世論形成に資するため、地元で6回にわたってJR問題学習会の講師を務めるなどの行動を続けてきた。この9月には、JR北海道の自力再建はもはや不可能と判断し、独自のJR北海道組織体制改革私案も公表した(別紙資料参照)。この私案は、旧国鉄を継承した独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構に北海道内の線路・施設を保有させるもの、上下一体のままJR北海道を国鉄に戻すものなど、複数の案を併記する内容となっている。当研究会は、これまでの活動に加え、今後はこの改革私案を関係国会議員や国土交通省に示すなどの政治・行政対策を通じて、今日の事態を引き起こした原因である国鉄「改革」の抜本的検証と見直しを求めていく。
この夏、北海道を相次いで襲った台風は、JR北海道にとってとどめの一撃となった。だがそれは同時に、首都圏を中心とした農産物の高騰を通じて、食糧供給拠点としての北海道の重要性を改めて浮き彫りにした。北海道で生産された農産物が、全国津々浦々に鉄路で運ばれ消費されていることは、いくら強調してもし過ぎることはない。北海道産農産物の鉄道輸送の陰には、保線や除雪などの莫大な経費を、北海道民が本州より高い運賃を通じて負担している事実がある。北海道民に一方的に負担を押しつけ、自分たちは「食べるだけ」でいいのか。道内外の市民ひとりひとりがこの事実と向き合うとともに、これを全員の問題として認識し、声を上げ、必要な行動を起こすよう、当研究会は改めて訴える。
北海道内では、廃止阻止を掲げる勢力、バス転換やむなしとする勢力、中間的勢力が入り乱れ、すでに激しいせめぎ合いが始まっている。当研究会は地域、とりわけ高齢者や高校生など交通弱者の足を守ること、地域経済や社会的活動の崩壊を阻止すること、公共交通を中心とした地域の将来展望を示すことを軸に、引き続き路線廃止阻止を基本として行動を続ける。当事者能力を失ったJR北海道を清算し、地元の鉄路の維持発展に責任の持てる新たな事業体への再編が不可避との認識のもと、10年後、20年後を踏まえた大局的見地に立って、公共交通・鉄路の維持に全力を尽くす決意である。
2016年11月20日
安全問題研究会