<安全問題研究会コメント>
公共交通の未曾有の危機の中で迎えた福知山線脱線事故15年
風化許さぬ遺族・被害者と連帯し公共サービス再建の闘いを

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1.乗客・運転士107名が死亡し、国鉄分割民営化以降では最悪となったJR福知山線脱線事故から4月25日で15年を迎えた。安全問題研究会は、公共交通の事故とその被害者をなくすことを目指して発足したみずからの原点を改めて確認するとともに、事故犠牲者、すべての被害者に改めて哀悼とお見舞いを申し上げる。

2.事故から15年の春を、被害者たちもまた異例の形で迎えることになった。節目であるとともに、JR西日本が毎年、事故日直前の土曜日に開催してきた慰霊の集いが、従来通りの開催であれば事故当日の4月25日に重なる今年は、単なる通過点の意味を超えた1日となるはずであった。だが新型コロナウィルス感染拡大で慰霊の集いを含む関連行事はほとんどが中止に追い込まれた。

3.関連行事が中止に追い込まれる中で、今年もほとんどのメディアが全国ニュースで報道を続けたことは、事故被害者にとって数少ない希望である。福島第1原発事故など、これより後に起きた出来事の多くが、責任追及を恐れる支配層の意を受ける形で全国ニュースから消し去られているが、この事故は1985年の日航機事故と並んで今なお全国ニュースでの報道が続く。

4.この背景に、遺族をはじめとする被害者たちの粘り強い闘いがあることはいくら強調してもしすぎることはない。JR西日本歴代3社長の刑事裁判は無罪となったが、被害者は事故企業に高額の罰金刑を科することができる組織罰制度の法制化を求めていまも取り組みを続けている。日航機事故の被害者団体である「8.12連絡会」は、その後に起きた大事故の被害者団体の多くが休眠状態となる中で、事故から35年目の今なお活動を続ける。事故被害者同士が互いの交流を通じて横の連帯を作り出し、先に起きた事故の被害者が後から発生した別の事故の被害者をケアする取り組みも広がる。事故被害者のケア、サポートに対する経験が市民社会に蓄積されてきている。

5.一方で、政府や加害企業の取り組み、意識改革は遅々として進んでいない。政府は被害者が強く求める組織罰法制化の願いを見捨てて顧みず、100年前に作られた個人中心の刑事罰制度を改める気配も見られない。2017年12月の新幹線「のぞみ」台車亀裂事故に関しては、直ちに列車の運行を中止しなかったJR西日本において「列車の走行に支障がないとありがたい」という心理状態(確証バイアス)が作用していたことが事故の原因であるとする運輸安全委員会の調査報告書がまとめられた。「何が起きているのかが分からない場合や判断に迷う場合は、列車を停止させて安全の確認を行う」(報告書)という当たり前のことを運輸安全委が改めて求めなければならない事態が続いている。

6.事故から15年を迎えた今年、JR西日本の労働者のうち事故後に入社した人が初めて過半数となった。同社労働組合が事故15年に当たり、社内327職場を対象に実施したアンケート調査でも、会社による事故風化防止対策が「十分できている」との回答は80職場(全体の24%)にとどまる。現場労働者を納得させることもできない会社が一般市民・利用客を納得させることはできない。

7.ローカル線問題に関しても、JR四国が路線維持を目指して努力を続け、JR北海道も「自社単独で維持困難」10路線13線区公表後も地元との協議を続ける中、両社に比べて圧倒的に経営体力のあるJR西日本が、2019年に三江線廃止に踏み切ったことは、地域公共交通を担う事業者としての責任を放棄するものと言わざるを得ない。

8.一方、新型コロナウィルスの感染拡大を防止するため人の移動が控えられた結果、経営規模を問わず公共交通を担う企業に大きな打撃となりつつある。海外の航空会社にはすでに経営破たんの例も出ている。JR北海道や航空会社は労働者の一時帰休に追い込まれた。通学、通院などの生活輸送を持たない航空会社に対して救済を求める声が一部で上がり始めているが、地方で人々の生活の足を担う鉄道やバス事業者こそ真っ先に救済すべきである。

9.新型コロナウィルスが先行してまん延した東アジアでは、すでに制圧に成功しつつある国や地域も見られる。日本だけいつまでも感染拡大を止められないのは、中曽根政権以来本格化し、30年以上途切れることなく続けられてきた新自由主義政策により、医療、教育、福祉などの公共サービスが徹底的に破壊されたからである。当研究会は内外すべての新自由主義者に対し、過去の自分たちの罪を悔い改め、誤った考えを捨てるようこの機会に強く警告する。

10.自民党と安倍政権は、新自由主義的「財政再建」路線に固執し、市民への支援はおろか、みずからの支持基盤であるはずの中小自営業者さえ「補償なき自粛」によって切り捨てている。100年に一度の危機は市民社会の連帯、そして健康や生活など「人間」に予算を振り向ける「大きく優しい政府」によってしか打開できない。その意味を理解せず、ピント外れの政策を場当たり的に打ち出すだけの自民党はすでに歴史的使命を終えた。日本の市民は今こそ新たな情勢認識の下、分断を超えて連帯し、新自由主義を悔い改めない自民党と安倍政権を歴史のゴミ箱に投げ捨てなければならない。

11.当研究会は、公共交通や医療、教育、福祉などすべての公共サービスの切り捨て、民営化に反対し、その公有化とともに人員と予算を大幅に増やすよう求める。1人でも多くの市民を危機から救い、新自由主義を完全かつ最終的に葬り去るため、今まで以上の決意をもって最後まで闘い抜く。

 2020年5月6日
 安全問題研究会

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