<安全問題研究会コメント>
法令違反高速バスへの罰則強化する改正道路運送法成立
~実効ある規制と監査体制の充実求める~

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1.法令違反を犯した悪質な高速バス会社に対する罰則強化を盛り込んだ道路運送法改正案が、12月2日、参院本会議において全会一致で可決、成立した。この改正法では、国が行った改善命令に違反した場合にバス会社に課せられる罰金を、これまでの100万円から1億円に引き上げたほか、バス会社の経営者に対し、初めて懲役刑も新設。また、これまで無期限であったバス事業の免許を5年ごとの更新制とし、定期的に悪質業者を排除できる体制を整備した。安全問題研究会は、今回の法改正を高速バス事業の安全強化への第1歩として歓迎する。

2.今回のバス制度見直しは、今年1月、長野県で起きたスキーバス事故を踏まえたもので、遺族から厳罰化を求める声が高まったことを受けたものである。従来、国交省は「支払能力の低い中小業者への配慮」として罰金を100万円としてきたが、相次ぐバス事故の原因となった2000年の道路運送法「改正」(バス車両を5台所有していれば誰でもバス事業に参入できる)に合わせた実効性を欠くものであり、また鉄道や航空機における安全配慮義務違反の罰金1億円と比べてもあまりに低額であった。

3.人命を預かる公共交通の分野から法令違反を繰り返す悪質業者を排除するためには、一度の違反行為で会社が倒産するほどの厳しい罰則でなければならない。今回の罰金上限の引き上げは、悪質バス会社の大半を占める中小業者にとっては厳しいリスクを伴うものになろう。同時に、法令を守っていては運行ができないほどの無理な旅行計画を押しつけてくる旅行業者に対し、バス会社が罰則を理由に拒否しやすくなることが期待される。さらに、中小業者の淘汰が進んでバス会社の数が減れば、旅行業界に対するバス業界の発言力が増すことにつながる。

4.国土交通省に設置された「バス事業のあり方研究会」の報告を受け、2013年、国は「新高速バス制度」に移行。(1)ツアーバスにも道路運送法を適用し、旅行業者が責任主体となって貸切バス事業者に運行を委託するツアーバスの業態を廃止、(2)自社でのバス車両保有、バス停の設置、運行の事前届出を義務づけ、(3)ワンマン運転について上限規制を導入――などの対策を講じたにもかかわらず、2014年の北陸道バス事故と今回のスキーバス事故が発生している。あずみ野観光バス事故(2007年2月、27人死傷)、関越道バス事故(2012年4月、7人死亡)が発生した2013年の規制強化直前の5年間と比べても、死亡事故の発生ペースに変化はほとんど見られない。

5.原因として、国による規制強化の実効性が担保されていないことを指摘しなければならない。国交省には、全国に約12万社もあるバス・タクシー・トラック業者の監査官をわずか330人しか置いていない。今回の法改正では、バス会社を巡回指導する民間機関を設立するとしているが、国交省の監査官を増員しないまま、民間機関への「業務丸投げ」で実効性あるバス事業の監督ができるわけがない。当研究会は、引き続き、国に対し、国交省監査官の増員など抜本的な安全対策を強く求めてゆく。

6.また、相次ぐバス事故の背景に、旅行業者による無理な運行計画の押しつけがあるにもかかわらず、旅行業者に対する規制措置が盛り込まれなかったことに対して、当研究会は強い不満を表明する。事故原因を作った旅行業者にも、一定期間、業務停止や旅行業免許取り消しを行えるような強い罰則を設けなければ、せっかくの規制強化も中途半端なものに終わりかねない。

7.悲劇的なバス事故が相次ぐ中で、今回の法改正を後押ししたのは、抜本的な対策を求める事故遺族やこれを支援する市民の声と闘いの力である。当研究会は、「闘いなくして安全なし」との教訓を改めて心に刻み、公共交通の安全向上のため、今後もあらゆる努力を続ける。

 2016年12月5日
 安全問題研究会

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