<安全問題研究会コメント>
高速バス新制度への移行を歓迎する〜国交省は規制緩和と人柱行政の反省を〜

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1.8月1日、乗合バス事業の見直しに伴って、新たな高速バス制度が発足した。これにより、従来の高速ツアーバス制度は廃止され、高速乗合バスに 一本化されたことになる。安全問題研究会は、新制度への移行を歓迎する。

2.今回のバス制度見直しは、昨年5月、関越自動車道で7人が死亡した悲惨な事故を契機とするものである。国交省は、この間、バス事業労使、旅行業界などの利害関係者および有識者、バス趣味雑誌編集長等からなる「バス事業のあり方検討会」を設置。事故が多発する情勢の中、新たな規制の方向性について、各界各層を代表する委員による真摯な議論が続いてきた。今回、検討会が一定の結論を得て、バス事業者間の際限のない競争に歯止めをかける新たな規制制度が発足したことは、検討会各委員の多大なる努力によるものである。当研究会は検討会各委員に対し敬意を表する。

3.新制度では、旅行業法の適用を受け、旅行業者が責任主体となって貸切バス事業者に運行を委託するツアーバスの業態を廃止。高速バスを運行するすべての業者に道路運送法を適用し、自社でのバス車両保有、バス停の設置、運行の事前届出を義務づけた。ワンマン運転についても、実車距離400km、運転時間9時間(夜間)、実車距離500km、運転時間9時間(昼間)をワンマン運行の上限とし、これを超える場合には乗務員2人以上による運行を義務づけた。また、乗務員の連続乗務も4夜までに制限された。

4.今回の規制強化により、ツアーバス事業者の大半が撤退を余儀なくされたが、この程度の規制で撤退せざるを得ないようなバス事業者は初めから参入させるべきでなかったものと当研究会は考える。乱立していたバス事業者が整理されることは、バス事業者の旅行業者に対する発言力を強化することにつながる。顧客としての優越的地位を利用して、旅行業者が常識では考えられない過密スケジュールでの運転をバス事業者に強いていた従来の悪慣行が大きく是正されるものとみられる。ワンマン運行の上限の強化も、乗務員が極度の疲労を抱えたまま乗務せざるを得ない状況に一定の改善をもたらすと予想される。

5.しかしながら、過当競争の中、バス事業者は間断のないコスト削減圧力にさらされている。この機会に、当研究会は国交省に対し、バス事業者に対する不断の検査、チェックの徹底を期するよう改めて求める。もしこの検査、チェックが有効に実施されなければ、今回のせっかくの規制強化も画餅に終わるであろう。

6.国交省が今回、バス事業の規制強化に踏み切ったこと自体は評価すべきものだが、関越道事故に先立つ2007年2月、大阪府吹田市で27名が死傷するあずみ野観光バス事故が起きている。本来であれば、そのとき速やかに対策を講じるべきだったにもかかわらず、国交省は有効な対策を取らなかった。その後、2010年9月に総務省行政評価局による「貸切バスの安全確保対策に関する行政評価」が行われ、バス事業者に対する指導監督の徹底が求められたにもかかわらず、ここでも有効な対策を取らなかった。こうした国交省の姿勢こそが関越道事故を引き起こしたのである。当研究会は、犠牲者が出なければ抜本的対策を講じない国交省の「人柱行政」の責任を問うべきと考える。

7.また、今回の関越道事故が明らかにしたことは規制緩和の失敗であり破たんである。2000年の道路運送法の改正により、バスを5台所有するな どの条件を満たせば誰でもバス事業に参入できるようになった。このことが過当競争を生み、バス業界のモラル崩壊につながった。ツアーバスに至っては、利用客に対する契約上の責任はバス事業者でなく旅行業者が負うこととした。しかし、バス車両を保有せず、運転手を雇用もしていない旅行業者が利用客に対する安全上の責任など負えるはずがなく、このような無責任体制を作り出した規制緩和の責任は重大である。

8.責任を取るべき立場にある国交省は、反省も遺族への謝罪もなく、なし崩し的に規制強化に梶を切っている。当研究会は、関越道事故で犠牲となっ た7名の無念に応えるためにも、上記の事実について国交省の責任を追及していく。そして、JR北海道のたび重なる事故、ボーイング787の発火などにより、全面崩壊の危機に瀕している公共交通の安全を再建するため、今後も奮闘する決意である。

 2013年8月4日
 安全問題研究会

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