山崎正夫・JR西日本前社長への「無罪」判決に抗議する
〜判決は免罪ではない、闘いはこれからだ〜


 2005年4月25日、JR福知山線で快速列車が脱線・転覆、107名が死亡した尼崎事故に関し、2012年1月11日、神戸地裁は、業務上過失致死傷 罪で起訴されていた山崎正夫被告(JR西日本前社長)に無罪の判決を言い渡した。安全問題研究会は、国策企業におもねり、企業犯罪をことごとく免罪にして きたこれまでの日本の恥ずべき歴史を上塗りするこの判決に強く抗議する。

 判決には数え上げればきりがないほどの事実誤認があるが、最も深刻なあやまりは、事故当時、速度照査型ATSの設置義務がなかったことを理由にJR西日 本の犯罪を免責したことにある。当研究会がすでに独自調査で明らかにしているように、速度照査型ATSは1967年の運輸省通達で私鉄に対して設置が義務 づけられ、大手私鉄ではこの間、速度照査型ATSの整備が完了した。1987年、分割民営化により国鉄が「私鉄」となる際、本来なら速度照査型ATSの設 置義務を課すべきところ、運輸省は1967年通達を廃止して速度照査型ATSがないままのJRを放任したのである。

 たとえ、速度照査型ATSの設置が義務でなかったとしても、福知山線事故当時、JR東日本・東海では主要幹線での速度照査型ATSの設置をほぼ終了して いたのであり、この両社と比較してもJR西日本の安全対策は大きく立ち後れていた。判決も指摘しているとおり、JR西日本の安全対策が「大規模鉄道事業者 として期待される水準になかった」ことは明らかである。今回の判決がJR西日本を免罪するものでないことは改めて強調しておかなければならない。

 すでに当研究会は何度も指摘してきたが、今回の判決で企業犯罪に対する法の不備が改めて明らかになった。日本の法制は「法人は犯罪をなし得ない」との考 えから法人に対する刑事罰を設けていないが、日本の主要企業はそれをいいことに責任の所在を曖昧にして犯罪責任を免れ続けてきた。「幹部には権限はあるが 情報がなく、現場には情報はあるが権限がなく、だからみんなが少しずつ悪くて、結局は誰の責任も問うことができない」という愚かな企業統治のあり方が放置 された結果、被害者はいつも泣き寝入りさせられてきた。野放しにされた企業は誰の統制を受けることもなく国民の上に君臨し、原発事故など深刻な犯罪によっ てこの社会を崩壊寸前にまで追い込んでいる。このままでは、遠くない将来、日本社会は破滅する。

 尼 崎事故関係者に対して新聞社が行ったアンケートによれば、回答者の実に8割が法人への刑事罰を望んでいることが示される一方、法人の責任を問うべ きで ないとの回答はわずか1人にとどまった。犯罪企業に対して厳正な刑事罰を課せるような法制度を作ることはいまや国民的合意であり、ただちに実行しなければ ならない。

 経営幹部の責任を法廷の場で追及し続けることは引き続き重要である。JRに対して速度照査型ATSの設置義務を課さず放置した政府、企業・権力追従どこ ろか冤罪製造にまで手を染め、暗黒司法と化した裁判所の責任も追及する必要がある。事故原因をいっそう深く究明し再発防止を期していくことも、貴い犠牲に 報いるために私たちのなすべき課題である。

 2011年、東日本大震災を契機として、原発事故を引き起こした東京電力を監視し追及する市民社会はかつてない広がりを見せた。女性を中心とした全く新 しいスタイルの闘いは大きな共感を呼び起こし、支配層を直接激しく揺さぶっている。尼崎事故の遺族たちもまた、かけがえのない人を奪った犯罪企業を不断に 監視し追及する中から新たな前進を勝ち取ってきた。JRと東京電力――犯罪企業と闘う市民たちの目標は同じである。

 当研究会は、原発事故最前線の福島でかつてない困難に直面しながらも、癒えることのない喪失感に苛まれ続ける尼崎事故遺族の苦悩に寄り添う者のひとりで ありたいと常に意識し続けてきた。今後ともその思いが変わることはないであろう。JRと闘う遺族、東京電力と闘う市民と支え合い、励まし合いながら、当研 究会は、みずからに課せられた役割を果たすため今後も奮闘する決意である。

 2012年1月12日
 安全問題研究会

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