尼崎事故を巡るJR西日本歴代3社長への「起訴議決」を歓迎する
〜今こそJR史上最大の事故の真相究明を〜
2005年4月25日、JR福知山線塚口〜尼崎間において、速度超過を主因として列車が脱線・転覆し、乗客・運転士107名が死亡したいわゆる「尼崎事
故」について、本日、神戸第1検察審査会は、JR西日本の井手正敬氏、南谷昌二郎氏、垣内剛氏の歴代3社長に対し再び「起訴相当」の議決をした。この結
果、改正検察審査会法の規定に基づき、3社長は自動的に起訴されることになる。安全問題研究会は、神戸第1検察審査会の勇気ある決定を歓迎する。
起訴は刑事訴訟の入口であり、始まりに過ぎないが、この巨大な成果は、理不尽な死に直面した遺族、事故に人生を狂わされた負傷者たちによる粘り強い闘い
によってもたらされたものである。また、この事故に先行して起訴議決制度適用第1号事件となった明石歩道橋事故関係者の10年近い闘いによって作り出され
た起訴議決の先例が、尼崎事故への起訴議決適用に大きく道を開いたことは明らかであり、当研究会は、明石歩道橋事故関係者に最大級の謝意を表明する。明石
歩道橋事故と尼崎事故の両遺族らが連携して闘い、この結果を勝ち取ったことは、今後のモデルケースともなるだろう。
「社長だった3人が、現場カーブを急角度に変更し、高速走行できる新型車両を大量投入したために特に危険性が高まっていたことを知っていた」「安全対策
の基本方針を実行すべき最高責任者として、自動列車停止装置(ATS)を整備するよう職員に指示すべき注意義務があったのに放置した」(議決要旨)と検察
審査会は断罪した。これこそが、現在までに明らかにされている3社長の罪状である。
昨年秋、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会委員による尼崎事故調査報告書の漏えい事件が発覚したが、この際、事故の最高責任者である井手氏は、遺族への
漏えい問題の説明会にも出席せず逃げ回り続けた。南谷氏は、社長時代、政府が保有していたJR西日本株の売却に力を注ぎ、「株式会社としてきちんとした経
営をやった方が利用者や株主のためになるというあるべき姿を示す」(1997年7月14日付「京都新聞」)と述べるなど、利益最優先・安全軽視の「完全民
営化」に突き進んでいった。彼らのこうした姿勢こそが事故を引き起こしたのであり、尼崎事故はまさに民営化が生んだ犯罪である。
今回の起訴議決は、有罪立証の見込みが立たなければ起訴しない代わりに、起訴したからには100%有罪を目指すという、硬直した起訴制度のあり方を大きく
変えるものとなった。それはまた、検察による公訴権の独占に阻まれ、硬直的で画一的な運用が行われてきた結果、有罪の確証が得られない事件は法廷での真相
解明の機会すら得られずに来たこれまでの刑事訴訟のあり方にも大きな変化をもたらした。今後、3社長の裁判は、裁判所が指定する弁護士による論告求刑とい
う前例のない事態を迎えることになるが、私たちは、先行する明石歩道橋事故裁判の関係者とも連携しながら、法廷において事故の真相を究明し、再発防止につ
なげていかなければならない。
尼崎事故の真相究明と責任追及を巡る闘いは、3社長の強制起訴という重大な局面を迎えたが、商業メディアのこの問題に関する扱いは不当とも言えるほどに
小さい。それは、遺族・被害者の闘いが国鉄民営化体制の心臓部に近づき始めたことに対する支配層の恐れの反映である。遺族・被害者の闘いは、ついに国鉄
「解体」当時、総裁室長として民営化反対派組合員らの解雇を強行した井手氏を刑事被告人とするまでに追い詰めたのである。
支配層が最も恐れているのは、この闘いが1047名の解雇撤回闘争と結びつくことである。すでに郵政民営化見直しによって、新自由主義的経済政策の大幅
な後退を強いられた支配層は、20年にわたる新自由主義的経済政策の「源泉」である国鉄民営化体制だけはなんとか守り抜こうと、安全も安定輸送も崩壊した
無残なJR体制にしがみついている。しかし、この体制の先が長くないことは、2日前に起きた埼京線・山手線の長時間に及ぶ不通騒ぎが証明している。
私たちは、過重労働に苦しむ若者、低賃金と貧困に苦しむ1700万人非正規労働者を生み出した新自由主義的経済政策を葬り去るために、国鉄民営化体制と
JRを主戦場にしなければならない。そして、法廷にその場を移す新たな闘いの局面でも、これまで以上に遺族・被害者と手を取り合い、安全・安定輸送の確立
と被解雇者の職場復帰、そして国民のために働く鉄道の再生を目指していかなければならない。
安全問題研究会は、そのために今後も奮闘することを表明する。
2010年3月26日
安全問題研究会