JR不採用問題解決案に関する声明


  1987年の国鉄分割・民営化の際に国鉄清算事業団に移され、1990年、清算事業団からも解雇された国労組合員らの不採用問題を巡って、 2010年3月18日、国土交通省は、与党3党(民主党、社民党、国民新党)及び公明党から提示された解決案を受け入れることを表明した。報道されている 解決案の内容は、(1)不採用者のうち、55歳以下の希望者から約200人のJR各社への雇用要請、(2)和解金として1人平均約2400万円の支払い、(3)不採用 者が設立した18の事業会社に対する支援金10億円の支払い−−を主な内容とするものである。被解雇者の大半を組織してきた4者・4団体(国労闘争団全国 連絡会議、鉄建公団訴訟原告団、鉄道運輸機構訴訟原告団、全動労争議団鉄道運輸機構訴訟原告団、国鉄労働組合、全日本建設交運一般労働組合、国鉄闘争支援 中央共闘会議、国鉄闘争に勝利する共闘会議)は、この解決案を受け入れるとしている。

 国鉄「改革」以来23年間にわたって続いてきたJR不採用問題を一気に動かすことになった背景には、2009年夏の政権交代がある。国鉄を解体した自民 党と財界は、1980年代から一貫して新自由主義的経済政策を進め、雇用と生活、社会保障の破壊・解体を推し進めてきた。国鉄解体が閣議決定された 1985年に、労働者派遣法が制定され、国民を未曾有のバブル経済で踊らせながら、労働者の非正規化が進められた。政権交代は労働者と国民を顧みない自民 党政治への決別であった。

 国鉄内部においては、国是に従わない労働者をたたき出すために、国鉄改革法23条が形作られた。それは、鉄道業務を行わず、国鉄の清算業務だけを行う法 人・国鉄清算事業団を旧国鉄の継承組織とし、国鉄の鉄道業務を引き継ぐJR各社は、法人格が国鉄から継承されない新規設立企業として取り扱われるという擬 制的なものであった。この枠組みが、自民党300議席の数の力で可決させられた結果、国家的不当労働行為の法的基盤が整った。国鉄改革法は「解雇合法化 法」として国鉄職員のみならず全労働者の上に君臨し、その偽装倒産−解雇方式は、後に発足する民事再生制度によって民間企業にも波及していった。若者に限 れば、全労働者の4割を非正規雇用が占める今日の姿は、新自由主義的経済政策の明らかな帰結である。

 1700万人の非正規労働者がどん底の貧困で苦しみ続ける日本社会を象徴する闘いとして、闘う若者に希望の火を灯し続けてきた国鉄闘争が、後世から一定 の評価を受けるためには、なお越えなければならないハードルがある。今回の和解案が200名のJRへの復帰を約束するものではなく、JR各社に復帰を「要 請」するものに過ぎないからである。「解雇合法化法」を破綻に追い込むためには、実際に被解雇者をJRに復帰させるのみならず、1人でも多くをJRに帰す ことが必要であり、指導部は、被解雇者らの復帰が実現するまで、死力を尽くさなければならない。利益最優先となったJRの 現場で、尼崎事故の発生など安全性が崩壊させられているときに、安全に対しては大きなこだわりを持った元国労組合員たちの一群がJRに戻ることができるな ら、それには大きな意味があるといえよう。

 折しも、尼崎事故を巡って、神戸第1検察審査会が井手正敬・元JR西日本社長(元国鉄総裁室長)の起訴の是非を判断するため、遺族らから意見を聴いてい る。再び起訴相当の議決が出れば、改正検察審査会法に基づき、井手氏らは自動的に起訴されることになる。23年前、解雇された元国鉄職員たちが職場に戻 り、一方で、元国鉄総裁室長として彼らの首切りを先導した井手氏が刑事被告人となるならば、そこから歴史は逆転を始める。「従業員のために経費節減に努め るメザシの土光こそが正しく、国民の迷惑も顧みずストで列車を止める怠け者集団の国労は国賊」という価値観から「国民のために安全・安定輸送に尽くしてき た労働者たちこそが正しく、企業を私物化し107人を殺した井手こそが真の国賊」という価値観への、それは文字通りコペルニクス的転換となるのだ。

 当研究会はこれまで、国労組合員らの解雇問題と、尼崎事故に代表される安全問題を根底でつながったひとつの問題として、すなわち鉄道の持つ「公共性」を 破壊した民営化に起因する問題として捉え、それに対する闘いを常に提起してきた。民営化によって発生した問題は民営化の見直しによってしか解決することは できない。少なくとも、利益最優先と化したJRの民営化見直しに一定の見通しがつき、旧国鉄の全国ネットワークを引き継いだこの鉄道に新たな「公共性」復活の一歩が記されるまで、当研究会は今後も「国鉄を壊した者」への告発を続ける。

  2010年3月21日
  安全問題研究会

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