郵政事業崩壊の実態

●ある呆れた光景

 当研究会では、毎年、安全問題やローカル線問題を写真にした鉄道カレンダーを製作、限定発売している。2010年も年の瀬になり、2011年版の注文を 受けた私は、カレンダーを郵送するため自宅近くの福島県内S郵便局に出かけた。今日は2010年12月23日(祝)。営業しているのは特定集配局(今もこ ういう言い方をするのかわからないが)であるこの局くらいだから、ここに来たのだが、郵政事業は本当に大丈夫なのかと思わされる出来事に遭遇したのはこの ときのことである。

 郵便局に着くとすぐ、普段と様子が違うと思ったら、なんと「ゆうゆう窓口」待ちの行列が外まで延びている。東北地方の中でもここは関東に近いとはいうも のの、やはり東北である。行列の中には子どもたちの姿もあり、5度を下回る気温の中、寒風に小さな身体を震わせながら順番を待っている。

 その列の一番後ろに回り、並ぶこと十数分。ようやく外から中に入れたと思ったら、そこには呆れた光景が展開していた。休日でも郵便や切手を取り扱っても らえる「ゆうゆう窓口」には非正規従業員とおぼしき職員1人だけ。その1人が、行列に並んだ客の切手購入、不在中に届けられたゆうパックの受け取り、書留 の差し出しといった様々な注文に応えながら、油で揚げられる天ぷらのように跳ね回っているのだ。

 たかだか切手ひとつ取り出して販売するのに2分も3分もかかる窓口職員の力量に問題があることはすぐに理解できたが、私はそれを問題にしたいのではな い。行列となっている客のすぐ横に設置された年賀はがき販売ブースには、2人の局員(制服から判断する限りでは正規職員)が手持ち無沙汰で突っ立っている にもかかわらず、救いの手を差し伸べるでもなく事態を傍観している。そのうちの1人に至っては、私が行列に並んでいた30分ほどの間に二度も携帯電話の呼 び出し音が鳴り、社用か私用かわからない電話をしている始末である。

 そのうち、待ちくたびれて業を煮やした行列の男性客が「2人で対応することはできないんですか!」と年賀はがきコーナーの局員に声を荒らげる場面があっ た。だが、年賀はがきコーナーの局員は悪びれる様子もなく「すみません、会社が違うんで」と弁解しただけ。その後も行列は延々と続いた。

 郵政民営化がこの事態を招いたなどと今さら説明するまでもない。3事業(郵便・貯金・保険)が一体運営だった公社時代なら、年賀はがきコーナーの職員は 迷うことなく窓口職員を助けただろう。郵政がはじめから在野で創業された純然たる民間企業であったなら、「自分の仕事でなくても、同じ郵政グループの社員 の手際が悪いせいで企業イメージが悪くなったら結局は自分たちの誇りにも傷がつく」と考え、年賀はがきコーナーの職員はやはり窓口職員を助けたに違いな い。官のようなセクショナリズム・非効率と、民のようなコスト削減ありきの非正規化。目の前に展開されているのは、官と民の悪いところだけ貼り合わせたよ うな、民営化企業によくある最悪の事態だった。

 この郵便局は、公社時代、週末・祝日は午後5時までゆうゆう窓口が開いていた。それが民営化後は午後1時までに短縮されてしまった。それ以降、窓口が営 業しているわずかな時間に多くの利用客が集中するようになった。郵便局の窓口営業時間の短縮がこうした事態を招いた原因であることも指摘しておかなければ ならない。

 会津地方にある別の特定集配郵便局では、公社時代、郵便貯金のATMが週末は午後5時まで開いていたが今では午後3時で閉まってしまう。この地方では、 郵便貯金と農協以外、ほとんど金融機関がないにもかかわらず、過疎地のお年寄りや社会的弱者へのインフラとしての郵便局の役割は投げ捨てられてしまった。

●崩壊する郵政は日本の縮図

 郵政は、2011年1月7日に開いた斉藤社長の記者会見で、社員の給与カットの方針を明らかにした。2010年9月期決算が928億円もの営業赤字と なったというのだ。そのうち約400億円は、2010年7月の「ゆうパック大遅配騒動」で生じたものだという。

 ゆうパックはきちんと届かず、切手を買うのでさえ寒風吹きすさぶ東北の空の下、30分近くも待たされる。文句を言っても「会社が違いますから」と言われ るだけ…。まともな神経を持った人間なら、二度と郵政なんて使うものかと思うだろう。現に、遅配騒動以降、我が家でも荷物の発送はすべてヤマト運輸を使っ ている。

 非正規職員がボロ雑巾のようになり、能力の何倍もの仕事を抱えて悲鳴を上げているのに正規職員が手持ち無沙汰にしている矛盾。会社分割、正規と非正規、 コスト削減ありきの労働強化がもたらす矛盾。それにもかかわらず、「経営努力」をあざ笑うように顧客は流出していく。

 郵政の職場は今、労働者の権利と「ゲンバの力」が崩壊していく日本の縮図といえる。このままでは「郵政倒産」さえ現実になりかねない。多くの読者は一笑 に付されるかもしれないが、JRや電力など、倒産しても他に受け皿がない独占事業と異なり、郵政にはヤマト運輸などのライバルがいて、いざとなれば郵政事 業の受け皿になることもできる。金融事業だって受け皿はいくらでもある。倒産は決して絵空事ではないのだ。

 この悲劇は一体、いつになったら終わるのか。

 (郵政労 働者ユニオン機関誌「伝送便」2011年2月号掲載)

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