京福電鉄列車正面衝突事故について(分析と原因推測)
 

2001.6.25(月)発表

 
1.事故の概要(新聞報道から)
 6月24日午後6時過ぎ、京福電鉄越前本線発坂(ほっさか)駅から西約300mの地点の単線上で、勝山発福井行き上り普通電車(1両編成)と、福井発勝山行き下り急行電車(1両編成)が正面衝突した。この事故で、双方の列車の運転士・乗客計25人が重軽傷を負い、付近の5病院で手当を受けている。福井県警は勝山警察署に捜査本部を設置、国土交通省中部運輸局も現地に職員を派遣、警察と合同で捜査を始める見込み。
 京福電鉄では、昨年12月にも越前本線の単線上でブレーキ故障が原因の正面衝突事故が起き、26人が死傷する惨事となった。それから半年あまりで再び引き起こされた事故に対し、関係者からは同社の安全意識に疑問を投げかける声が相次いでいる。
 なお、中部運輸局は京福電鉄に対し当分の間、福井県内全線の運行を休止しバス代行輸送を行うよう指示。これを受け同社は事故翌日の25日からバス代行輸送を行っている。

2.3つの根拠
 この事故に関しては、まだ警察・運輸局による捜査が始まっておらず、事故原因を見極めるには今後の捜査を待たねばならないが、各種報道及び乗客の証言等を総合すれば、おおむね事故原因は信号故障運転士過失(運転士の信号見落とし)の2つに絞り込まれたと考えてよい。筆者がそのように考える根拠として、3つの点を指摘しておく。

(1)発坂駅が「無人駅」であるとの報道
(2)発坂駅で「列車がいったん停車した」との乗客証言
(3)(衝突の際)「ブレーキをかけた形跡が見られなかった」との普通列車乗客の証言

3.事故原因に関する推測
 上記(2)の乗客証言から、昨年12月のようなブレーキ故障の線は考えにくい。また、マスコミ報道の中には上り普通列車の運転士の運転経験が4ヶ月であることをしきりに強調するものも見られるが、運転士の経験がどれほどであろうと、信号及び安全に関する規程を遵守している限りにおいて事故はあり得ず、この点は事故原因とは無関係である。
 上記のうちきわめて重要なのは(1)の報道である。筆者は3年ほど前、テキ6型電動車復活運転の際に京福電鉄には1度乗りに出かけているが、京福電鉄を訪れたことがなくとも、この報道からは、同線が最も近代化された自動閉塞か、または少なくとも特殊自動閉塞は導入されている路線であると断定して差し支えない。
 さて、自動閉塞/特殊自動閉塞導入区間であることから、次のような推測が成り立つ。すなわち、下り急行が発坂駅へ向かう単線上を走っているのであるから、信号故障でない限り、上り普通電車に対する発坂駅の出発信号は当然、赤が現示されているはずである。にもかかわらず、上り普通列車がなぜ発坂駅を発車したのかは謎であり、この点が事故原因を究明する上で最大の鍵であろう。
 ところで、京福電鉄のような地方私鉄の場合、JR等の大会社と異なり、単線区間でも遠方信号機(駅間に設置され、前方の停車場の場内信号の現示を予告する)が設置されていることはほとんどない。従って、下り急行列車の運転士にとっては、手前の駅(より正確に言えば信号取扱が行われる直前の停車場)を発車する際に信号を確認すれば、次は発坂駅の場内信号まで信号は設置されていないのだから、発車時に青信号を確認して発車している以上、対向列車の存在を予想することはきわめて困難であり、その場合下り急行列車運転士には何らの過失もない(下り急行列車が手前の駅を発車する時点では上り普通列車は発坂をまだ発車していないので、信号故障でなければ下り急行列車が発車する際、出発信号機は青が現示されていたと推測される。仮に下り急行列車が赤信号を無視して前の停車場を発車していた場合でも、急行が本線上に進み出た時点で発坂駅の上り普通列車に対する出発信号が赤に変わるため、結果的には同じである)。
 以上により、筆者は事故原因として、信号故障か上り普通列車運転士による信号見落としにあると推測している。

4.原因究明と京福の今後について
 事故原因の究明は、福井県警と中部運輸局が中心となって進められる模様である。中部運輸局の指示により、京福電鉄の運転は中止されており、今後の捜査の進め方としては、まず現場を保存した上で、信号故障の可能性を調べるため事故当時と同じ状況を再現する形で列車の走行試験を行い、信号機の作動状況を確認することになると思われる。その上で、信号が正常に作動すれば運転士による信号見落としを、信号機が誤作動した場合には信号系統の故障を主因として立件されることになるだろう。
 いずれにしても、半年で2度の正面衝突事故を起こした京福電鉄に対する信用はこれで完全に地に墜ちた。そうでなくとも経営状況が芳しくなく、地元では廃止問題もくすぶり続ける同線だけに、今後の動向からは目が離せない。とりわけ京福のようなローカル私鉄の場合、その存廃は地元の意向にすべてがかかっており、今回の事故は京福電鉄にとって深刻な打撃になりかねない。
 信頼を失うことは簡単でも、その信頼を回復することはきわめて困難である。京福電鉄にはもはや後がない。しかし、今度こそ今回の事故を教訓とし、失われた信頼の回復のためあらゆる努力を惜しまぬよう、京福電鉄には要望したいと思う。

5.結び・・・もしもATSがあったなら
 報道によれば、京福電鉄にはATS(Automatic Train Stop〜自動列車停止装置の略。赤信号を無視して列車が冒進した場合に強制的に列車を停車させるシステム)がなかったとされる。確かに筆者も、かつて京福電鉄を訪れたとき、「ジリリリリ」という独特のあの音色を聞いた記憶がない。
 このような路線では、赤信号を見落として発車してしまったら最後、運転士に信号見落としを知らせてくれるシステムはない。そして、遠方信号機も設置されていない以上、対向列車もまた危険を予測する術を持たないのである。最も近代化された自動閉塞/特殊自動閉塞も、ATSによる補完を受けて初めて完全なシステムになるのである。今回の事故は、ATSがあれば防げた可能性が非常に高い。それだけに、その未整備が事実とすればきわめて残念なことである。
 しかし、ATSの整備は、軌道回路をあちこちに引き回さねばならないなど手間も時間も資金もかかる。とりわけ、列車を走らせるだけでも青息吐息のローカル私鉄にはそのような資金的余裕もない。
 今こそ政府・国土交通省当局は全鉄道事業者にATS設置を義務づけるべき時ではないだろうか。そのための資金がない鉄道事業者には、予算措置を講じてでも導入を後押しすべきである。乗客の安全には代えられないし、何よりも税金とはこうしたことのために使うべきものだということを主張しつつ、本稿を閉じたい。

 
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