気候講演会「地球温暖化と異常気象」レポート
もともと気象・台風・地震などの地球物理学全般に興味のある私だが、2006年1月21日に東京・科学技術館で開かれた標記講演会に参加したので
概要をレ
ポートする。
気候講演会「地球温暖化と異常気象」
主催:気象庁
後援:文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、東京都、神奈川県、全国地球温暖化防止活動推進センター、(社)日本気象学会、
(財)日本気象協会、(財)気象業務支援センター
講演会開始に当たり、まず長坂メ一・気象庁長官が挨拶。「今年の冬は数十年に1度の記録的寒波となっているが、2005年の平均気温は平年に比べ
て2〜3
度高くなっている。2004年は台風ラッシュがあり、都市では局地的な大雨も増えた。また海外では2005年、アメリカを大型ハリケーン「カト
リーナ」が
襲うといった出来事があり、気象への関心が高まっている。このような中で、2005年2月に(地球温暖化防止)京都議定書が発効した。温暖化対策
は全地球
的課題であり、力強く進めていかなければならない」と述べた。
続いて、「地球温暖化と都市の高温化」と題して首都大学東京・都市環境学部教授の三上岳彦さんが講演。主に都市のヒートアイランド現象を分析しな
がら温室
効果ガスが増加の一途をたどっていること、温暖化は太陽活動の周期と一致すること、また温暖化による影響は夏よりも冬、最高気温より最低気温に大
きく表れ
ていることを指摘。最低気温の著しい上昇を図表によって説明した。私が子供だったころに比べ、夏は寝苦しい夜が増え、冬は昔ほど雪が降らなくなっ
たような
気がしていたが、それが数字によって裏付けられたのである。
三上教授はさらに、都市化の進展によって陸地の温度が下がらないため、東京では夜になっても(昼間と同じ)海から陸への風が吹くようになってい
る、とした
上で「東京湾からの海風によって暖気が北へ押し上げられた結果、埼玉など関東北部で気温の著しい上昇が起こるようになった」と指摘した。そういえ
ば、関東
地方で夏に最高気温の記録が出るのはいつも決まって埼玉県熊谷市だが、この熊谷という都市はちょうど海風で東京都心部の暖気が運ばれる地点に当た
る。熊谷
が暑くなったのは東京のヒートアイランド現象と深く関係していたのである。高速道路を取り壊して川に変えた韓国・ソウル市の清渓川沿岸で夏の気温
が下がっ
た例も紹介しながら、三上さんは緑地保全の大切さも訴えていた。
2番手は「地球温暖化は異常気象にどのような影響を与えるのか」と題して気象庁地球環境・海洋部の栗原弘一・気候情報課長が講演。「世界全体の平
均気温が
100年あたり0.7度、世界では1.06度上昇している」とし、異常高温、異常小雨の一方で局地的集中豪雨が相次いで発生していることを指摘。
2004
年の「杉並豪雨」も温暖化による影響が大きいと述べた。
3番手は全国地球温暖化防止活動推進センター職員の桃井貴子さんが「地球温暖化防止のためにわたしたちができること」と題して講演。「97年の地
球温暖化
防止京都会議。国のほぼ全域が海抜0メートル地帯である太平洋の島国、ツバルの代表が『私たちの国はこのままではいずれ海中に水没してしまう。温
室効果ガ
スなど出していない私たちの国が、先進国の経済活動のための温暖化で水没していくことを先進国はどう思っているのか』と語っていたことが忘れられ
ない」と
述べた。桃井さんは、先の栗原課長と同様、地球の平均気温が100年で0.7度上昇していることに触れ、「たかが0.7度と言わないでほしい。人
間に例え
るなら、平熱が36.2度の人が36.9度の熱を出している状態であり、普通の人なら体調不良を訴えるだろう。それと同じことが地球で起きている
わけであ
り、地球は現在微熱を出して体調不良状態にあると考えてもらいたい」。
さらに、オゾン層を破壊するとして使用禁止となったフロンガスに代わって導入されたHFCなどの代替フロンの濃度も増え続けている。京都議定書を
批准した
日本は、1990年の排出量を基準として二酸化炭素排出量を6%減らすことが義務づけられているが、その後も二酸化炭素排出量は減るどころか増え
続けてお
り、現在では15%近く削減しなければ京都議定書の水準を満たせないとされている。桃井さんは、この削減目標が日本にとって実現困難な数字である
ことを認
めながらも、「日本の二酸化炭素排出量の3割を電気、3割を自動車が占めており、さしあたり自動車利用を極力控えて公共交通機関を使うだけでも大
幅な排出
量削減が可能である、とした(ちなみに車での1人あたり二酸化炭素排出量は、公共交通機関を使った場合の9倍にもなるとのこと)。
桃井さんの講演資料にもあるとおりだが、もはや日本国民が現在のライフスタイルを変えることなしに二酸化炭素の削減は無理だろう。国策として、大
量生産・
大量消費・大量廃棄のシステムを変えるため、企業の経済活動の規制などを行う必要があると思うが、現在日本の権力の中枢にいる人たちにとってそれ
は受け入
れがたい要求といえるのではないだろうか。
結局、温暖化問題を解決するためには現在の政治も、経済も改革しなければならないということだろう。
最後に質疑応答のコーナーがあったが、参加者のレベルの高さを反映してか、客席からは結構キツイ質問・意見なども出ていた。一部紹介しよう。
質問(栗原課長に対して)「気象庁が秋頃出した長期予報では今年の冬は暖冬だったはず。大外れもいいところだ。なぜこれほど長期予報が外れたのか
原因をお
聞かせ願いたい」
栗原課長「寒冬となった原因は北極からの気流が蛇行して日本付近に寒気が入りやすくなる、いわゆる“北極振動”が主な原因と考えているが、北極振
動は過去にも数年ごとに起きており、なぜ今年だけが数十年ぶりの寒冬になったのか北極振動だけでは説明しきれない。フィリピン沖の海水温が例年に
比べて高いことな
ど、複合的な要因が考えられるところであり、今後さらに原因を突き止めていきたい」
意見(桃井さんに対して)「温室効果ガスを減らし、温暖化を防止することが桃井さんの講演資料では“究極の目的”と書かれているが、温室効果ガス
を減らす
ことは目的ではなく手段であり、究極の目的は環境保護ではないのか。学校で子どもたちに温室効果ガスを減らすことの意義を教えることに異論はない
が、目的
意識を持たせずにただ二酸化炭素を減らせと教えるだけでは押しつけと受け止められ、教育としては実効性が上がらない恐れがある。子どもたちには、
人類が生
きていくために必要なのだという目的性をもっと重視した内容で教えたほうがいいと考える」
桃井「貴重な意見として承わりたいと思います」
わざわざ聞きに行った甲斐があると納得させてくれる、内容の濃い講演会だった。
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