ビデオ「リスト
ラとたたかう男」感想
この映画は陳腐な人間ドラマでもなければ、「ただの労働運動」映画でもない。もちろん、下を向けばどこにで も転がっているようなありきたりのドキュメンタリーでもない。やや大げさな言い方をするならば、「人間にとってほんとうの強さとは何か」を問わず語りして くれる教育映画であると私は思う。
この映画の主人公・松沢弘さんは、排外主義と先制攻撃戦争をあおり立てる反動メディアの先兵・フジサンケイ グループにあって、御用組合と決別し戦闘的労働組合を結成した人である。かつて数々のスクープを生んだ名記者であるにもかかわらず、会社の彼への仕打ちは 解雇。彼はたったひとりで巨大資本に闘いを挑み、そして今も闘い続ける。その瞳の輝き、強さと危なっかしさが同居する彼の不思議な魅力は、見る者を魅了し て離さない。
カメラは終始、彼に密着する。フジテレビ会長 の豪邸の前に押し掛ける。株主総会へ出席し、ここでも彼は押しまくる。勇ましい闘い。その陰で、心の闇を抱え苦悩する姿もまた容赦なく暴露する。マイクの 前から離れると、何事もなかったかのように穏やかに語る彼の顔には、いつしか人なつっこい笑顔が戻っている。
この映画を見終わったとき、視聴者はきっと気付くだろう。優しさこそが本当の強さなのだということに。弱者 の側に立ち、思いやる。虐げられる者の尊厳を守るために闘う。これこそがほんとうの強さつまり優しさである。自分より弱い者を見つけだしては血祭りに上 げ、「シナ人、チョーセン人、カエレー」などとイキがっている都知事ごときに、この松沢さんの美学は10万年経っても分かるまい!
吹き荒れるリストラの嵐の中で荒んでいく労働者の心に希望の灯をともす映画である。主人公の闘いの前途は必
ずしも明るくないはずなのに、見終わった後なぜか爽やかな気分になる。みなさんにもぜひ見てほしいお勧めの作品である。