本会報読者のみなさんは2012年5月5日のあの感動を覚えているだろうか。3.11以降、最後まで営業運転を続けていた北海道電力泊原発3号機が「定期検査」入りのため停止した。茨城県東海村で初めて灯って以来約半世紀、1日も消えたことがなかった原子力の火がすべて消えた記念の日。全国の子どもたちに「原発のない日本」という最高のプレゼントができ、経産省前で市民一同、踊って喜びを爆発させた。
早いもので、北海道ではそれ以降、1日も原発が動かないまま13年以上過ぎた。だが、その幸せが今、終わろうとしている。鈴木直道北海道知事が師走の喧噪に紛れるように泊3号機の再稼働に同意したのだ。
泊原発に隣接する岩内町では、毎年9月に反原発集会が開かれてきた。2013年9月の集会では、泊原発すぐ隣の公園から参加者全員で風船を飛ばした。事故が起きた場合、放射能がどの方向に飛ぶかのシミュレーションだ。風船のうち1個は、札幌市中心部にある道庁の屋上に落ちた。
道都・札幌市の人口は、増えに増えて今や190万人。北海道人口の4割に迫っており、福島県の人口にほぼ匹敵する。その札幌市は泊原発から見てちょうど東にある。西寄りの季節風が吹く冬には風下になる。
泊原発から札幌までは約70km。福島第一原発から福島市とほぼ同じ距離になる。福島市渡利や大波地区が、住民避難をめぐって揺れたことは多くの方がご記憶だろう。
いったん事が起きれば、3.11の際の飯舘村や浪江町、渡利や大波と同じ状態に陥ることは十分予想できる。北海道庁も札幌市役所も強制避難レベルの汚染になり、おそらく機能しないと思う(もっとも、道庁や札幌市役所に関しては、平時の現在でも機能しているのか疑わしいとの道民の声も多いが、今回、それはとりあえず置く)。
もうひとつ指摘しておきたいことがある。福島県とも共通するが、農業地帯としての北海道の重要性である。1等米の比率が最も高いのは北海道産米だ。道内産牛肉は、道外で○○牛などと呼ばれているブランド牛と比べても決して引けを取らない。
牛乳・乳製品の原料となる生乳に至っては、今や全国生産量の半分以上を北海道が占める。原材料高で北海道の酪農家も苦境にあるが、道外での酪農家の廃業が道内を上回るペースで進んだため、相対的に北海道の比率が上がり「過半数」となったのだ。
泊原発で事故が起き、全国屈指の農業地帯・北海道を失えばどうなるか。食料自給率38%(カロリーベース)の日本は直ちに飢えることになる。年間コメ生産量が、たかだか50万トン減った程度で「令和のコメ騒動」がもう1年半も続いていることを思うと、これは決して誇張や脅しではない。
長年住み慣れたふるさとを高濃度放射能汚染で追われ、見ず知らずの避難先で、数か月(場合によっては数年)間、食料さえ届かないまま、3.11を思わせる計画停電の中、寒さに震える――泊原発再稼働は、定住外国人を含む1億2千万の日本列島住民を、このような厳しく過酷な未来にさらす。取り返しのつかない愚行である。
3.11における避難指示区域が日本の国土面積に占める割合は2%だった。北海道の面積はその10倍、2割に当たると言えば、その重大性がご理解いただけるだろう。
不幸中の幸いだが、再稼働の条件になっている防潮堤の完成は2027年。この愚行を止めるチャンスはまだ2年ある。2012年のあの日の感動を再現すること、「原発のない日本」をもう一度、全国の子どもたちにプレゼントすることが現在の私の目標だ。
(2026年1月10日 脱原発福島ネットワーク会報「アサツユ」第412号掲載)