10月4日~5日の1泊2日にわたって、山口県岩国市で開催された「第5回全国鉄道資源活性化サミット」に参加した。
 そんなイベント、聞いたことがないという人がほとんどだろう。それもそのはず、このイベントが2017年、奈良県五條市で初開催されたときは「全国未成線サミット」を名乗っていた。2018年に第2回を福岡県赤村、2021年に第3回を島根県浜田市で開催。2023年、宮崎県高千穂町で開催された第4回から「全国未成線・廃線サミット」に名称変更。そして、今回から「全国鉄道資源活性化サミット」に名称変更しての開催となった。
 未成線とは、計画あるいは建設工事段階で開業しないことが決定し未開業のまま終わった路線を指す。そのほとんどが1980年の国鉄再建法施行に伴うもので、「これからローカル線の整理を進めていくのに、従来のローカル新線の計画・建設をそのまま推進するのはおかしい」というのが理由だった。第1回~第3回までは、このような未成線の沿線地域だけがこのサミットの開催権を持つ形だったため「未成線サミット」と呼ばれた。
 第4回を開催した高千穂町は、旧国鉄高千穂線(その後の高千穂鉄道)高千穂駅と、旧国鉄高森線(現・南阿蘇鉄道)高森駅を結ぶ路線が途中で建設中止となった経緯があり、未成線サミットの開催権を持っていた。しかし、高千穂鉄道も2005年の台風災害から復旧できないまま廃線となってしまう。未成線と廃線の活性化を一体的に進めたい高千穂町の意向で、廃線もサミットの対象に加えることができるようになった。
 そして今回の開催地となった岩国市は、錦川鉄道(旧国鉄岩日線)錦町駅から、JR山口線・日原駅までを結ぶ計画が中止となったため、こちらも未成線サミットの開催資格を持つが、錦川鉄道は現役のローカル鉄道だ。未成線と、現役のローカル線の活性化を一体で進めたい岩国市の意向で現在の名称に変更となった。
 こうなると、今年が第4回となる「全国ローカル鉄道サポーターズサミット」と何が違うのかという話になるが、「全国鉄道資源活性化サミット」は未成線や廃線の沿線地域も開催地になれるという点に尽きる。
 今回のサミットでは、未成線・廃線を抱える地域に加え、初めて現役ローカル線の活性化事例についての報告があった。2020年7月の大雨災害により一部区間で不通が続くくま川鉄道(熊本県・旧国鉄湯前線)は、2026年度中の全面復旧に向けた工事が行われているが、ローカル線にありがちな「災害廃線」ではなく復旧を選んだ理由に感銘を受けた。
 『くま川鉄道が不通になった後、沿線の4つの高校の生徒(850人)のために代行スクールバス13台を運行しているが、朝夕の通学時間帯だけなのに6億円もかかる。下校時刻が変更になってもスクールバスの運行時刻は通常と変わらないため、学校が午後1時で終わる試験の日、通常通り午後4時にならなければ来ないバスを、生徒たちが3時間もバス停で待つ姿を見て、これで6億円は割に合わないと思った。くま川鉄道が走っていれば、列車は1時間に1本あるので、下校時間が変わっても、生徒たちは1時間待てば列車で帰宅できる。ローカル線の本当の価値に気づいたのはこのときだった』。
 鉄道と道路のどちらも走行できるように、マイクロバス車両をDMV(Dual Mode Vehicle=鉄陸両用車)に改造し、投入した阿佐海岸鉄道(高知県)からも報告があった。阿佐海岸鉄道は、ほぼ同時期に開業した土佐くろしお鉄道阿佐線(後免~奈半利)とともに、旧国鉄「阿佐線」として計画されたが中止となった経緯があり、未成線サミット時代でも開催資格を持っていた地域である。工事凍結となった路線であっても、国鉄以外の営業主体が現れた場合には工事再開を認めるとした国鉄再建法14条の規定に基づき、後免~奈半利と海部~甲浦(阿佐海岸鉄道)の2区間のみが1990年代に入って相次ぎ開業した。だが、奈半利~甲浦の両駅間は鉄道でつながらないまま終わったため、そこをDMVで結ぶ構想が具体化。2021年12月にDMV運行が開始された。
 DMVはマイクロバス車両の改造で、通常の鉄道車両と比べて車体が小さく軽い。通常の鉄道用信号設備では走行位置を検知できないため、通常列車とは同時走行できない。通常列車の運行をあきらめ、DMVに特化して生き残りを図る背水の陣だった。
 DMV運行開始からまもなく4年を迎えるが、結論から言えばこの「賭け」は吉と出た。通常の鉄道車両と比べ、DMVの乗車定員は3分の1程度に過ぎないにもかかわらず、導入後、利用客は逆に増えたという。沿線から少し離れた地域には顕著な影響は見られなかったものの、沿線地域に限れば「以前より利用客、売上が増えた」と回答した観光関係者が全体の実に9割を占めた。こちらも嬉しい報告となった。
 輸送密度の低下や赤字幅の拡大を理由に、ローカル線の廃止を提案する鉄道事業者に対し、これまでの廃止反対運動が「鉄道路線地図から自分の町が消えれば、この町はないことにされ、寂れる」「高校生が通学できなくなる」といった情緒的な議論中心だったことは否めない。このため廃線反対派は、常に廃線容認派から「ノスタルジー」との批判にさらされる一方、これに対する対抗手段をなかなか持ち得なかった。
 風向きが変わってきたのは、地域公共交通活性化再生法「改正」案が国会で審議された2023年頃からである。クロスセクター分析(交通事業者の収支にとどまらず、公共交通が持つ多面的価値や、地域に与える様々な影響まで含めた総合的な収支分析)を行うことの重要性が議論された。今回のサミットでくま川鉄道、阿佐海岸鉄道が行った事例報告は、クロスセクター分析という単語こそ使っていないが「子どもたちが3時間も待たされる代行スクールバスに6億円。鉄道復旧なら1時間で帰宅できる」「沿線地域の観光関係者の9割が、DMVで利用者、売り上げが増えたと回答した」等の事実やデータをきちんと収集し、鉄道の災害復旧やDMV導入の根拠としていることを、私は大変心強く感じた。
 余談だが、今回のサミットには、過去4回の会場にはほとんど見られなかった若い女性参加者が目立った。ゲスト招請されていた鉄道系人気Youtuber、西園寺氏、ZAKI氏の「推し活」らしいとわかった。夕方の交流会で同じテーブルになった「推し活」参加者に、鉄道が地域に様々なプラスの影響をもたらしていることを話すと「それって(鉄道の)多面的価値って話ですよね」という反応があって驚いた。一般市民にもわかりやすい形で、人気Youtuberがそのような情報発信をしてくれているのであればこんなありがたい話はない。「赤字なら廃止」一択だったローカル線に、一筋の光が見えた気がする。
(2025年10月12日)