<地方交通に未来を(19)>有意義だったJR北海道「運賃改定公聴会」

 9月3日、札幌で開かれた「北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案に関する公聴会」(運輸審議会主催)に出席して意見公述した。

 運輸審議会は、国土交通大臣の諮問機関として、公共交通をめぐる重要政策について答申を行う権限を持っており、運賃改定などの重要事項は必ず運輸審議会の審議に付さなければならない。厳密に言うと、現在の制度では運賃改定のたびに認可を受ける必要はなく、値上げの「上限額」についてあらかじめ認可を受けておけば、上限の範囲で運賃を改定するときは国交省への届出のみ。改定したい運賃がこの上限を超えるときに限り、新しい運賃の「上限」を決め、認可を受け直す制度になっている。上限運賃制またはプライス・キャップ制と呼ばれるもので、鉄道には1999年から導入されている。

 意見公述したい人はみずから応募し、その中から運輸審議会が公述人を選定する。とはいえ、ふるいにかけられるのは応募者が10人を超えた場合に限られ、それ以下の場合、応募者全員が公述人になれる。今回は私を含め4人が応募。運賃改定に賛成が1人、反対が私を含む3人という構成だった。公述人1人当たりの持ち時間は15分だ。制限時間を超えないようにしてほしいという要請はあるが、広く世間一般の意見を聴くための公聴会という建前上、公述内容について運輸審議会としては一切、制限をしないことになっている。 私は、2019年に運賃改定をしたばかりのJR北海道が、コロナ禍という特殊事情があったとはいえ、わずか5年で再び運賃改定をせざるを得ない事態に疑問と怒りを抱いていたので、早速応募した。

 当日は、(1)通学定期の1割近い値上げは、最も弱い立場の子どもたちに過大な負担を強いる、(2)島田修社長(当時)が5年前の運賃値上げの際の公聴会で「通学定期の割引率(5割)を維持するので運賃改定の認可をお願いしたい」と発言し、これを条件に認可されたにもかかわらず、今回、通学定期の割引率圧縮に踏み切ることは5年前の約束を覆すことになる――として反対を表明した。

 前々号(40号)掲載の本コラム「国鉄末期に似てきたJR~断末魔が聞こえる」でも触れたように、JR北海道はこの間、路線や駅の廃止ばかり進め、道内特急列車の全席指定席化の一方で、みどりの窓口も削減し、使い勝手の悪い「えきねっとトクだ値」サービスへ強引に誘導するなど、急坂を転がり落ちるようにサービスを低下させてきた。

 とりわけ全席指定席化によって、まずまずの乗車率だった特急「すずらん」(札幌~室蘭)はガラガラの「空気輸送」状態に追い込まれた。明らかな失敗であるにもかかわらず、JR北海道はその現実を直視せず、綿貫泰之社長が記者会見で「安くご利用というニーズが強いのであれば、特急でなくてもいい」と不用意に発言した結果、道内メディアを中心に、すずらんの「快速格下げも」と報道されるなど、騒ぎがさらに広がった。

 こうした一連の事態に対し『すべてが行き当たりばったりのその場しのぎです。JR北海道が鉄道会社として、自分たちの鉄道事業をどうしたいのかという将来展望もビジョンもまったく見えず、これでは会社の将来を悲観して多くの社員が辞めていくのももっともだと思います。綿貫社長就任からわずか2年なのに、これだけ短期間に失態が続いているのは、島田会長-綿貫社長体制が経営能力を欠いていることの最も象徴的な現れです。私は、サービス低下と負担を一方的に押しつけられる全道民・利用者を代表して、島田会長と綿貫社長に対し、今すぐこの場で出処進退を明らかにするよう望みます』と公述した。

 運輸審議会主催の公聴会で運賃改定が審議される際には、それを申請した鉄道事業者のトップが申請内容を説明するため出席することになっている。つまり、綿貫社長本人が出席している目の前での「退場宣告」ということになる。この過激なパフォーマンスは、JR北海道問題にマスコミの目を引きつけるために仕組んだ「作戦」だった。

 インパクトは大きかった。ただ、反応は大手マスコミではなく別の所から現れた。運輸審議会ホームページで、公述人決定とともに公述書の内容が公表された直後の8月21日、「JR北海道の島田会長・綿貫社長の辞任要求へ!国交省主催の公聴会で異例の展開へ」という動画がYoutubeで何の前触れもなく公開された。JR北海道問題に特化した内容で最近注目度がアップし、アクセスも稼いでいる「鉄道大好きチャンネル」だった。

 安全問題研究会のホームページ上で意見公述内容を公表するのは公聴会終了後にしようと考えていた私にとって完全な不意打ちだった。事ここに至った以上、事前公表やむなしと判断。公聴会で意見公述することを、安全問題研究会ブログで事前公表した。

 「鉄道大好きチャンネル」の動画に対して書き込まれたコメントを見る限り、公述内容は高い評価を得た。道民生活に大きな影響を与える定期運賃値上げなど、まず身近な話題から入り、共感を得た上で、国鉄分割民営化など「大文字の問題」へ昇っていく――国の政策批判に当たって、これが最も有効な手法であることは、すでに私自身が何度も行ってきた講演などを通じて証明されている。

 大手マスコミで「会長・社長に辞任要求が出された」ことを伝えたところは、地元紙・北海道新聞を含め皆無だった。それでも私たちの主張は大きく報道された。4人の公述人のうち唯一、賛成を表明した人も「えきねっとの改善」「特急すずらんへのテコ入れ」「北海道新幹線札幌延伸に伴って予定されている函館本線(小樽~長万部、通称「山線」)廃止の再検討」を求めるなど、内容は反対の3人とほとんど変わらないほど厳しいものだった。「サービスを低下させておいて値上げは容認できない」と考えるか、「これ以上のサービス低下は到底容認できないので、運賃改定による増収分をサービス改善に充てることを条件に賛成」と考えるかの違いに過ぎず、その差は紙一重だったといえよう。

 運輸審議会は10月4日、JR北海道が申請した運賃上限改定を「申請通り実施すべき」と答申した。公聴会など茶番に過ぎず意味がないという「雑音」も私の耳には聞こえているが、そのような国民の無気力な姿勢こそが自民「長期一党独裁」を招いたのだ。

 有権者がきちんと怒れば政治は変えられることが、図らずも今回の衆院選で証明された。野党が多数となった衆議院で何をすべきか。私は、JR6社分割体制を抜本的に改める法案を2種類用意し、これから政党・議員対策に全力をあげたいと考えている。ただし、本当の意味での勝負は、おそらく来年7月の参院選以降になると思う。

(2024年11月15日)


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