北陸地方を襲った「元旦大地震」では北陸各地の原発立地地域も大きな揺れに見舞われ、石川県志賀(しか)町では震度7を記録した。同町に立地する北陸電力志賀原発1、2号機の変圧器からは2万リットルもの油が流出。この影響で変圧器が故障し、外部電源841kv(キロボルト)のうち6割に当たる500kvが使えなくなっている。復旧には最短でも半年かかる見込みだ。
2010年1月から、福島原発事故を挟んで2014年3月まで内閣府原子力委員会委員を務めた鈴木達治郞・長崎大教授は「2011年の福島第1原発事故以降、原発にこれほどの危機が差し迫ったのは、間違いなく初めてのこと」(2024年1月18日付け「週刊文春」)だとコメントしている。原発推進側に身を置いていた学者ですらこのようなコメントをせざるを得ないほど、志賀原発の危機は深刻だ。
社民党石川県連が原発敷地内の視察調査を求めているが、北陸電力が頑なに拒否しているという。よほど見られなくない「何か」があると勘ぐられても仕方がないだろう。電力会社の情報隠し、ごまかし体質も「福島」からまったく変わっていない。
衝撃的な情報も伝わってきた。今回の地震では、揺れの強さの目安となる「最大加速度」2828ガルを志賀町富来観測点で記録した。東日本大震災(11年)の2933ガルに匹敵するものだが、建築物の地震対策が専門の境有紀・京都大防災研究所教授によれば、周期0.5秒以下の極短周期の加速度では実に11760ガルに達したという。人体には感じないほどの極短周期の揺れでも建築物には確実なダメージになる。震度7の志賀町でも「思ったほど揺れなかった」と証言する住民がいる割に大きな建物被害が出ている原因として、このような極短周期の強い揺れの存在を指摘しておくことは重要だろう。
志賀町富来観測点は志賀原発からわずか10km程度しか離れていないが、11760ガルの揺れが志賀原発の真下で起きていたら……と考えると背筋が凍る。使用済み燃料プールや重要免震棟、さらには原子炉そのものも完全倒壊していただろう。福島をも上回り、全人類を巻き込むチェルノブイリ級の惨事を免れたのは、今回も紙一重の偶然に過ぎないのだ。
ウクライナ戦争の開始と急激な円安進行によって、エネルギーのほとんどを輸入に頼る日本ではエネルギー価格が高騰した。原発再稼働率が最も高い関西電力・九州電力の2社が値上げをする一方、原発を動かしていない中部電力がこの間、値上げをしていないことからも「原発が再稼働すれば電気代が下がる」という政府・電力会社の説明はまったくでたらめである。電力料金は原料価格だけでなく、その他のさまざまな要因が絡み合うもっと複雑なものだ。それに、原発の燃料となるウランも大半が輸入であり、原発を推進したところでエネルギー自給率の向上にはならない。だが、そのような重要な情報が隠されたまま、この2年あまり原発再稼働論が勢いを増していた。
福島では事故の直接的原因が津波による全電源喪失だった経緯もあり、地震が事故原因だとする有識者もいるのにそれらの声は封じ込められた。津波対策さえ強化すれば再稼働してもいいのだとする議論が堂々とまかり通り、この間、何度悔しさを覚えたかわからない。
だが今回の能登地震では、15mの高さ(標高11m+防潮堤4m)に建つ志賀原発に最大3mの津波しか来なかったのに施設が壊れた。地震で原発が壊れるという事実を隠しようがなくなったことで原発推進派が受ける打撃は、おそらく福島を上回ることになるだろう。
「一年の計は元旦にあり」というが、その元旦に地震が起きたことは「地震国・日本は原発をやめよ」という天からの警告である。まもなく事故から13年を迎える。3・11の初心を忘れず、全原発即時廃炉を高く掲げる2024年にしたいと思っている。
(2024年2月4日 「平和と生活をむすぶ会」会報「むすぶ」2023年2月号掲載)