<地方交通に未来を(14)>今後の地域交通のあり方示す2つの路面電車

 2023年も残り3週間という年の瀬にこの原稿を書いている。今年はコロナ禍明けということもあり例年になく鉄道に乗った年だった。その中で印象深かった2つの事例について述べておきたい。どちらも地域公共交通の今後のモデルケースとなり得るからだ。

 富山ライトレールには7月に乗車した。JR西日本・富山港線時代に一度乗っているが、一部区間は道路上に付け替えられるなどして旧富山港線とまったく同じではない。少なくともルートが変わった区間には乗っておかなければならなかった。

 富山駅は、もともと駅南側を走っている市内電車と、北側を岩瀬浜まで走っていた旧富山港線転換路面電車を直通運転できるようにするため、富山駅をぶち抜き、線路を駅構内でつなげるという大胆なものだ。

 市内線からやってきた車両(鉄道は「列車」だが軌道では正式には「車両」と呼ぶ)に乗る。道路信号に従いしばらく路面区間を走る。「奥田中学校前」電停付近で車両が大きく左折して道路を外れると、旧富山港線のレールに乗る。ここで右側を見ると、道路の向かいに遊歩道のような細い道があり、これが旧富山港線の跡地だとすぐにわかった。

 旧富山港線区間に入ると車両は急にスピードアップする。60~80km/hくらいは出していることが速度計からわかる。停留所の数は旧富山港線時代より大幅に増えた。国鉄系気動車から床面の低い路面電車車両に変わったため、JR時代のプラットホームは廃棄され、新たに電停が作られている。

 岩瀬浜に到着すると、駅前のロータリー付近で待機していた「フィーダーバス」がロータリー内に進入してくる。列車とバスの乗換待ち時間をなくすためで、全駅ではないものの、主要駅では行われている。正直、「ここまでやるのか!」と驚かされるが、冷静に考えれば、列車の到着に合わせてバスを運行するというのは、乗客目線で考えれば当たり前のことだ。この「当たり前」が日本ではなかなか実現せず、近年ではできなくて当たり前というある種のあきらめムードが支配的だった。富山港線時代は乗れば必ず座れるほど空いていたのが、いまや始発駅でも座れないのが当たり前なほど車内は混んでおり、しかも休日のせいか、明らかに中高生とわかる若年層が多いことも特筆すべきだろう。

 国が地域公共交通活性化再生「優良事例」に挙げたくなるのもわかる。「当たり前」のことを当たり前にやることが実は最も難しいのだ。その当たり前のことを、当たり前に実現した富山市の努力を多としたい。

 同時に指摘しておかなければならないのは、日本中、どこでも富山市のようにできるわけではないということである。もともと、富山地鉄という地元に広く定着した有力な私鉄が長大な路線網を持っており、その会社にJRのローカル線を引き受けてもらうことができた。このような好条件が重なっている場所はほとんどない。国が、地域公共交通活性化再生の旗を振ることに反対はしないが、同じような条件が揃っているのかどうかを見極めてからでないと、単なる公共交通のコンパクト化、縮小だけに終わりかねない。そんな危惧も同時に感じた。

 宇都宮ライトレールには10月に乗車した。宇都宮市自体、訪れるのは十数年ぶりだ。「平石」電停から「清陵高校前」電停までは専用軌道区間。「清陵高校前」から「芳賀・高根沢工業団地」電停までの区間は道路上を走るが、道路と線路は区切られている。

 富山の路面電車と大きく違うのは、信号のコントロールが路面電車優先であることだ。富山は電車の前を横切って右折する自動車を含め通常信号と変わらないが、宇都宮では道路側の信号を「赤」+「直進・左折矢印」表示にして、自動車が電車の前を横切って右折できないようにし、定時運転を確保している。

 小さな子どもを連れた母親が、子どもの分の運賃もまとめて払うのではなく、子ども自身に現金を持たせ、払い方を覚えさせていたことが印象に残った。親がまとめて払うやり方だと、子どもは親と一緒のときしか公共交通に乗れない。だが自分で払えるようにきちんと教えれば、子どもが自分1人だけでも乗車できるようになる。次世代の公共交通の担い手をみずからの手で積極的に育てていこうという市民意識は、富山よりも宇都宮のほうが強いと感じた。

 気になる点もあった。家族連れが下車する際、大人はICカードで支払うが、子どもの分の半額運賃は現金でしか支払えないことだ。にもかかわらず、運賃箱に表示されている運賃が、大人表示のまま子どもに切り替えられない。たとえば150円区間の場合、子どもが現金払いをする際も表示は150円のまま、運転士が目視で80円(端数の5円は切り上げ)の投入を確認していた。これだと、大人2人に子ども1人がまとめて下車するような場合、いくら払えばいいのかわからなくなる。子どもが1人でも乗れるように育てようという意識がせっかく市民の側に生まれているのだから、せめて運賃表示が子ども用に切り替えられるよう、早急にシステムを改修すべきだ。

 富山も宇都宮も、私が乗りに行ったのが休日という点は考慮する必要があるものの、乗客に若年層が多かったのが特徴だ。2017年に内閣府が行った「公共交通に関する世論調査」で「あなたは、鉄道やバスがもっと利用しやすければ、出かける回数が今より増えると思いますか」という質問に対し、「増えると思う」「少しは増えると思う」と答えた人の比率が18~29歳までで最も高かった結果と符合する。いわゆる交通弱者といえば高齢者問題だと思う人が多いが、本当の交通弱者は運転免許を取れない若年層なのだ。

 路面を走る大都市中心部と、専用軌道を走る郊外区間を連結するという点では、富山も宇都宮も共通しており、今後のトレンドになる予感がする。既存の鉄道でこの形態を取るものには広島電鉄(市内線(路面)と宮島線(専用軌道)の直通)や筑豊電鉄などがある。特に筑豊電鉄は、乗り入れしていた西鉄北九州市内線の路面電車が1992年に廃止されている。どちらも現状維持が精一杯の状況の中、なんとか生き延びてきたのが実態だろう。そうしているうちにぐるりと時代が1周し、「都心~郊外直通運転」が脚光を浴びる時代が再び来たのだから、世の中わからないものだ。

 2つの路面電車の事例は、今後、地域公共交通を衰退から発展に転換するために何が必要かを示唆している。自治体が前面に出て住民の声を吸い上げ、どのような公共交通にしたいか、それをまちづくりにどう組み込むかのグランドデザインを描く必要がある。地域住民もどんどん自治体や鉄道会社に意見する。乗って支えるだけでなく、子どもにも乗り方を教え次世代の担い手を育てる。「住民参加と対話」がキーワードだという印象だ。

 (2023年12月10日)

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