政府が今国会に提出、衆院での審議が続く原発推進5法案。「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」の名で、電気事業法など性格も性質も異なる法案を審議も採決も一括強行突破するいつもの手口だ。5法案どれも問題だらけで廃案以外にない。
◎原発「推進基本法」に
5法案の中でも最悪なのは原子力基本法の改悪だ。同法は日本が原子力の開発に乗り出す際、軍事転用(核開発)を防止するため、研究の基本的方向性を示す目的で制定された。原子力開発に「自主・民主・公開」の原則を盛り込み、原子力の憲法と呼ばれてきた。
改定案で、政府は原子力開発の目的として「産業の振興」「地球温暖化の防止」の追加を盛り込む。経済のためなら原発事故で市民が死んでもいいという究極の「命よりカネ」政策だ。
原発を通じたエネルギー安定供給を「国の責務」とする露骨きわまりない規定も盛り込まれている。再生エネルギーなどへの投資を妨げ、危険で未来のない原発依存を半永久的に固定化する。日本社会の未来さえも閉ざしてしまう。
「エネルギーとしての原子力利用」は「福島第一原発事故を防げなかったことを『真摯に反省』した上で『原子力事故の発生を常に想定』し『防止に最善かつ最大の努力』が必要との認識に立って行う」と謳う。原発事故が起きることを前提とする、このどこが「真摯な反省」なのか。反省というなら原発は即時全機廃炉以外にない。
あまりに恥知らずな法案に、かつて原発推進だった〝識者〟からさえ強い批判の声が上がる。鈴木達二郎・元内閣府原子力委員会委員長は「基本法は原子力利用の基本的な哲学や方向性を示すもの。なぜ改正するのか理解に苦しむ。推進側を後押しするための強引な基本法改正」だと批判する。
北村俊郎・元日本原子力発電(原電)理事も「事故の教訓を忘れている。原発推進は経済的にも不合理な判断」と疑問を呈する。会社から「原発は安全。事故は絶対に起きない」と言われて購入した富岡町(福島第二原発の地元)の自宅は避難区域になり、帰還できないまま解体となった。
◎「40年」には根拠
原発運転期間を原則40年、例外60年とする規定も、停止期間を運転期間に上乗せできる改悪でさらに骨抜きになる。「原則40年は目安であり根拠はない」という政府の説明は間違っている。
東京電力が、福島第一原発3号機を設置する際に国に提出した「原子炉設置変更許可申請(三号炉増設)」資料には原子炉の「寿命末期、つまり四十年後」とする記述がある。東海第二原発建設時に原電が提出した設置許可申請にも「メーカーは(中略)主要機器の設計耐用年数を四十年としている」と記載されている。原発メーカーも電力会社も、寿命40年を前提に設計したことがわかる。
法案は「耐用年数が切れても電化製品を使い続けろ」と要求するものだ。断じて許されない。
◎脱原発を果たすには
原発推進「啓発」団体である日本原子力文化財団が毎年実施する世論調査がある。ウクライナ戦争後のエネルギー事情も影響した2022年調査では、再稼働容認の意見が増えた。だが詳細を見ると、再稼働に「国民の理解が得られていない」が46%。高レベル放射性廃棄物の最終処分場は51%が「しばらく決まらない」と回答している。
今後日本が利活用すべきエネルギー源は太陽光73%、風力64%、水力55%に対し、原発は26%にとどまる。再稼働容認の理由では「電力の安定供給」35%以外、3割を超える項目はなかった。
原発事故の危険を感じつつ「エネルギー不足」の宣伝の間で揺れる市民の意識が調査からうかがえる。
ウクライナ戦争以降、エネルギー不足に苦しむドイツは、それでもメルケル前政権の公約通り4月15日限りで脱原発を実現させる。
日本でも脱原発を実現するために、原発の実態が基本法と正反対の〝非民主・隠蔽〟であること、核ごみや健康被害、避難の問題を徹底して訴えよう。同時に、再生エネルギー安定供給の道筋を示すことも必要だ。
◎G7環境大臣会合に合わせ汚染水放出反対のアピール行動
G7環境大臣会合が4月15~16日、札幌市で開催されるのに合わせ、札幌の市民団体・環境運動団体などが汚染水海洋放出反対やGX法案反対などのアピール行動を行った。このうち札幌駅南口広場では、「これ以上海を汚すな!市民会議」(福島)、「新宿御苑への放射能汚染土の持ち込みに反対する会」(東京)、「平和と民主主義をめざす全国交歓会(ZENKO)北海道」の3団体共同行動として、2日間で述べ約20人の市民が駅前を行く人に福島第一原発からの汚染水放出反対を訴えた。
「新宿御苑への放射能汚染土の持ち込みに反対する会」は、東京都民の憩いの場である新宿御苑内の環境省施設に、福島県内の除染で出た汚染土のうち8,000bq/kg以下のものを持ち込む計画が浮上したことをきっかけに結成された。今年2月24日には、汚染土持ち込みの撤回を環境省に申し入れた。環境省は、文部科学省が事故当初、2011年に行った環境モニタリング調査の結果を繰り返すだけで、市民からの質問にもまともに答えなかったが、当初は2022年度中に行うとしていた持ち込みを3月中には行わないと回答してきた。本稿執筆時点では持ち込みはまだ行われていない。
G7環境大臣会合に先立つ4月13日には、シュテフィ・レムケ独環境相(緑の党)が福島入りし、原発事故被害者の意見を聴く場が設定された。ドイツは、メルケル政権当時「2022年末までの脱原発」を公約。その後、ウクライナ戦争によるエネルギー事情悪化で実施を半年延期していたが、稼働中の3基の原発を4月15日限りで停止させ、公約通りの脱原発に踏み切った。G7環境大臣会合開催期間中のドイツの脱原発は、最近逆風続きの反原発運動にとって貴重な追い風といえる。
レムケ環境相は、福島第一原発現地を視察、福島県が設置した「東日本大震災・原子力災害伝承館」も訪問した。この「伝承館」は、津波襲来時刻のまま止まってしまった時計、津波で流されたランドセルなど的外れのものばかりを展示。「誰も経験したことのない事態に(中略)対策に奔走しました」と関係者の頑張りをただ賛美し、「放射線に対する正しい理解の欠如や誤解」により「風評」が広がったと堂々と書かれているなど、国、県、東京電力の加害責任を徹底的に否定する。原発事故も津波同様「天から降ってきた」とでも言わんばかりの展示内容に、「原発事故の原因にまったく触れておらず、福島は復興に向けて頑張っているという美談だけが並べられている」(元福島原発作業員で県内在住の今野寿美雄さん)と怒りを買った代物だ。
レムケ氏に展示内容を説明したのは、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーも務める高村昇館長だ。事故直後の福島で、山下俊一・福島県立医科大学副学長とともに「年100㍉シーベルト以下の被ばくなら安全」と触れ回った人物である。
だが、こうした数々の欺瞞にもかかわらず、レムケ氏は「震災と原発事故が人々にいかに苦しみを与えたか明確に知ることができた」と表明。本当に事態を知ろうとする姿勢があれば、どのような状況の下でも真実を知りうることを示した。
◎汚染水「放出支持」の共同声明盛り込みを阻止
日本政府は、汚染水の海洋放出を「歓迎する」との文言をG7環境大臣会合の共同声明に盛り込み、お墨付きを得ることを狙っていた。会合終了後の共同記者会見では、西村康稔経済産業相が「処理水の海洋放出を含む廃炉の着実な進展、そして、科学的根拠に基づく我が国の透明性のある取り組みが歓迎される」と説明したのに対し、レムケ氏が「原発事故後、東電や日本政府が努力してきたことには敬意を払う。しかし、処理水の放出を歓迎するということはできない」と反発。西村経産省が会見後、「私のちょっと言い間違えで、『歓迎』に全部含めてしまった」と釈明。処理水の放出については「IAEA(国際原子力機関)の独立したレビューが支持された」と訂正する一幕があった。
実際に、発表された声明は『我々は、(福島第一原子力)発電所の廃炉及び福島の復興に不可欠である多核種除去システム(ALPS)処理水の放出が、IAEA安全基準及び国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するためのIAEAによる独立したレビューを支持する(以下略)』(下線:筆者)となっている。「我々」が支持しているのは「汚染水放出の安全性確保のために行われるIAEAのレビュー」であり「放出」そのものではないことは何度でも強調しておきたい。レムケ独環境相が抗議しなければ、「放出」そのものが支持されたと受け止められるように意図的に誤認させる西村環境相の説明が既成事実となっていたことは確実だ。
G7環境大臣会合に向けた市民のアピール行動と、レムケ独環境相への福島原発事故被害者による真摯な訴えが功を奏し、G7による汚染水海洋放出承認という最悪の事態だけは阻止することができた。
この6~7月にも予定されている汚染水海洋放出を阻止できるかどうかは予断を許さない。だが、日本政府によるこの「同意取り付け失敗」により、仮に海洋放出が行われたとしても、同盟国であるG7各国の支持さえ取り付けられないまま、国際的孤立の中での強行という事実が残ることになる。
世界の海は1つにつながっている。日本政府を国際的に包囲し、海洋放出を防ぐぎりぎりの攻防は今後も続く。
(2023年4月25日 「地域と労働運動」第272号掲載)