原発への「全面回帰」決めた経産省「GX基本方針」
それでも原発は死滅に向かう

 岸田政権は2月10日、国会でのまともな審議もないまま「GX基本方針」を閣議決定した。GXとはグリーン・トランスフォーメーションのことで、脱炭素をめざす経済社会システム全体の変革だと政府は説明する。この「GX基本方針」に原発の全面復活を目指す方針を書き込んだのだ。

 ◎建て替えに制限

 政府は、当初「まずは廃止決定した炉の建て替え」とする原案を与党に提示した。この建て替え場所を明示しない表現には隠れた狙いがあった。

 たとえば九州電力の中で、老朽原子炉である佐賀・玄海原発の廃炉を決定すれば、鹿児島・川内原発で「建て替え」と称して事実上の新増設を可能にできる。原発推進派は、このような〝原発ロンダリング〟とでも呼ぶべき手法による建て替えをGX基本方針に潜り込ませ、老朽原発の建て替えへと一気に突破することを狙っていた。

 ところが公明党から「抑制的な活用の範囲内になるように表現を変えてほしい」と強い要求があった(1/29朝日)。その結果、原発の建て替えは「廃炉を決定した原発の敷地内での建て替えに限り」認めるという表現に変更された。

 表向きは単なる表現の修正に見えるが、建て替えが廃炉となる原子炉と同一原発の敷地内に限定されたことには重要な意味がある。
 建て替え場所を確保するには、廃炉とした原子炉敷地をいったん更地に戻す必要がある。だが原子炉の高レベル放射性廃棄物から強い放射線が出る。撤去しないと作業員が立入りできないため、結局廃炉作業もできず、同一原発の敷地内で建て替える場所もつくれない。

 ◎トイレなきマンション

 現状では、廃炉作業で出る高レベル放射性廃棄物を敷地外に持ち出したくても、処理方法も場所も決まっていない。廃棄物処理候補地とされる北海道寿都町、神恵内村で進む文献調査は、2020年8月の受け入れ表明から2年で終了し、概要調査へ移るとみられていたが、2年半経過した現在も終わっていない。概要調査移行後も紆余曲折は必至で、政府計画でも受け入れまで20年を見込んでいるが、さらに遅れる可能性が高い。



 新たに原発を誘致する地域が現れれば、廃炉作業を伴わないため「建て替え」に名を借りた新増設が可能になるが、そもそも福島原発事故以降、新規誘致に動く地域が現れないことから「建て替え」に方針転換されたのが実情だ。すでに原発が立地している場所での新増設であれば、用地買収、地元同意など面倒な手続きが不要となるからだ。

 こうした現状で建て替えを「廃炉を決定した原発の敷地内」に限定されることは、実質的には建て替えが当面、止まる可能性が大きくなったことを意味する。背景には原発全面活用への強い世論の反発がある。

 だが決して安心はできない。建て替えが容易に進まないことで、今後は「老朽原発の稼働期間延長」だけに絞られ、一層危険になったとの見方もできるからだ。運転期間延長阻止は極めて重要な課題となっている。

 ◎廃棄物の行き場なし

 高速増殖炉「もんじゅ」は廃炉が決まっている。六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物再処理施設も昨年、26回目の操業延期が決定。2024年までは稼働できないことがすでに決まっている。使用済み核燃料の行き先も失われつつある。

 一部原発では、プール内の燃料の間隔を狭めて貯蔵容量を増やす「リラッキング」を実施しているが、現状のままでは川内原発1号機はあと約12年、川内原発2号機はあと約5年で貯蔵量が限界に達する。政府方針の一方で、使用済み核燃料が取り出せないため、原発が次々と停止していく。そんな〝不都合な未来〟も次第に見えてきている。



 原発全面活用に向け安全規制を骨抜きにする案には、原子力規制委員会の論議で石渡明委員が反対し、異例の多数決決定となった。かつてない事態だ。政府が強引に復権を狙ったとしても原発の未来は暗い。闘いで原発廃止に追い込む展望は開けている。

 ◎原発回帰は許さない 経産省・資源エネルギー庁、原子力規制庁に要請行動

 こうした中、福島みずほ参院議員の協力も得て、2月24日、オンライン参加を含め約50人で中央省庁要請行動を実施。原発回帰政策をめぐっては、経産省・資源エネルギー庁、原子力規制庁に対する要請行動を実施した。

 経産省・資源エネルギー庁は「資源エネルギー庁に対し、誹謗中傷のメールが続いている」との理由で入場者を5人に制限する不当な扱い。福島原発かながわ賠償訴訟原告・村田弘さんとともに原発運転期間延長撤回を求めた。

 経産省は「閣議決定された方針は遂行する義務がある」と国策強行の意思をあらわにした。現在国会に提出されている法案は、原発の運転期間に関する規定を原子炉等規制法から電気事業法に移管することを内容としている。成立すれば原発の運転期間は安全規制から利用を前提とした規制に変わる。運転期間や継続、停止の判断は「原子力規制委の判断」と逃げの態度だ。

 続いて要請した原子力規制庁は「原発の利用面より科学的・技術的安全性を優先する姿勢に変わりない」としながらも「運転期間をどうするかは利用規制の観点から経産省・エネ庁が決める」とこちらも逃げに終始した。

 停止期間を運転可能期間に上乗せすれば、より老朽化した状態での原発の運転になることは明確だ。それを認めようとしない原子力規制庁に対し、福島議員が「人間は寝ている間は歳を取らないと言っているのと同じだ」と撤回を迫る場面もあった。

 事故やトラブルが起きても停止命令などの責任を果たす姿勢は、経産省・原子力規制庁のどちらにもない。第2の事故を防ぐには原発即時全面廃炉以外にないとの確信が深まる。経産省と原子力規制庁との間で発言が矛盾し、この点の追及も今後の課題として浮かび上がった。

 (2023年3月20日 「地域と労働運動」第271号掲載)

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