「避難者が賠償金で豪遊」という物語

 原発事故発生以降、インターネットを中心に語られてきた「物語」がある。避難者らが東京電力からの賠償金で「パチンコに行っている」「高級外車を何度も乗り換えた」「家を建てた」等々。私が見た中で最も酷いのは「家を10軒建てた」というものだ。こうした避難者への攻撃は、それこそこの12年、1日も休むことなく続けられてきた。

 これらが無根拠なデマであることはこの会報読者なら言うまでもないだろう。相手をするのも面倒だが、デマを吹聴している連中にはひとことだけ言っておく。「賠償金で豪遊する避難者」がそんなにうらやましいなら、ぜひあなた自身が原発のそばに住みなさい、と。それもできるだけ事故の起きそうな危険な原発であるほど願いがかなう日は早く来る。今ごろ各地の原発立地自治体は賠償金を当て込んで、事故を心待ちにする移住者でごった返しているはずだ。

 もちろんそんなことがあるはずもない。大飯原発の地元・福井県おおい町出身のお笑い芸人、村本大輔(ウーマンラッシュアワー)は2019年末の漫才グランプリで「おおい町は原発だらけなのに、夜になったら人も歩かず、街灯もなく真っ暗。こんなに原発で電気を作っているのに、電気はどこ行った!」と会場を笑わせている。

 悲しいことに、人には誰しも自分の信じたいものだけを信じるという習性がある。世間には、避難者は賠償金で遊んでいるはず、いや遊んでいなければならないのだという「確固たる信仰心」が存在する。その心の隙間につけ込み、カルト新興宗教「避難者は遊んでいなきゃいけない教」の布教活動で小金を稼ぐ連中も見てきた。

 原子力ムラ界隈には、これ以外にも「放射能は飲んでも安全教」「汚染水は垂れ流しても安全教」など様々なカルト宗教が存在する。福島原発刑事訴訟支援団が闘っているのも「津波は予見できない教」というカルト宗教一派である。それを信じたくて仕方ない連中がいて、裁判官までが信者になっている。病気が治ると吹聴し、高額な壺を売りつける連中と変わらないが、信者でない人にまで被害を及ぼしてしまうだけ「原発安全教」の悪質さは際立っている。

 カルトを信じやすいお人好しの日本人を「原発安全教」から解脱させる手段はあるのだろうか。今、元首相殺害事件を契機に、壺を売りつける宗教団体に解散請求をする方向で遅まきながら政府が動き出している。危険なカルトを布教している原子力ムラにも解散請求が必要だ。

 こうした「邪教の布教活動」の場となっているインターネット(特に素人が誰でも書き込めるSNS)にも規制を考えるときだろう。ヤフーニュースのコメント欄やツイッターは原発事故避難者に限らず、貧困層、女性、性的マイノリティなどの弱者をバッシングする場と化している。「ネットは悪くない。おかしな使い方をする人間が悪いだけだ」と、時折これらを擁護する連中が現れるが、こうした主張は「悪いのは殺人をする人間であって銃に罪はない」と銃規制に反対する全米ライフル協会と同じだ。銃と同じく、建設的な使用方法を想像するのが難しい道具であれば、もはや「それ自体」を規制対象としていく議論も開始すべきだと考えている。

 ヤフー日本語版は2022年4月以降、英国とEU域内からは接続拒否の処分を受け見られなくなっている。EU一般データ保護規則違反に当たると再三の警告を受けたが従わなかったことが理由とされる。ルールも守れない企業に同情など不要である。

 (脱原発福島ネットワーク会報「アサツユ」 2023年2月10日号掲載)

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