「電力ひっ迫」のうそ 岸田政権の〝惨事便乗型〟原発新増設許すな

 岸田首相は8月24日、原発17基の再稼働を打ち出すとともに、福島原発事故以降、どの政権も言い出せなかった原発の新増設を推進する意向を示した。ウクライナ戦争による世界的なエネルギー危機という〝惨事〟に便乗する最悪のものだ。

 3月22日、首都圏が大雪に見舞われる季節外れの寒波で電力需要が大幅に増大。直前の3月16日、東北で震度6強を記録した福島県沖地震で東日本の多くの火力発電所が故障で停止していたことも重なり、首都圏が停電寸前の「電力ひっ迫状況」と大きく報じられた。

 6月にも、各地で40度を超える異常な猛暑が襲来。首都圏では再び停電寸前に追い込まれた。


岸田政権が再稼働を表明した7基(読売新聞から)

 ◎原発停止でひっ迫?!

 こうした事態を原発再稼働への千載一遇のチャンスと見た政府は、電力不足の原因が原発停止にあるかのようなキャンペーンをメディア総動員で展開し始めた。だが、度重なる「停電寸前」の原因は原発停止ではない。

 その証拠に、3月の寒波、6月の熱波がいずれも従来の常識を超えるものだったにもかかわらず、「電力不足」は東京電力・東北電力エリアだけ。中部電力エリア以西では、電力供給の余裕を表す「予備率」は低下したものの停電寸前の事態には至らなかった。もちろん原発のない沖縄や、全原発が停止している北海道電力、北陸電力、中部電力、中国電力でも電力不足は起きていない。

 「電力不足」が特定の地域に偏っている原因は周波数の異なる東西間(東日本50ヘルツ/西日本60ヘルツ)で十分な電力融通ができないこと、電力に余裕のある北海道から東北・首都圏への電力融通を担う電力線の能力が小さいことだ。以前から指摘されていたが政府は放置してきた。

 電力各社が公表している電力需給予測を見ると、東京電力管内の電力需要は関西電力・中部電力の合計を上回っている。首都圏にこれだけ需要が集中すれば電力が不足するのも当然だ。だが、人口・産業の首都圏一極集中を進めてきた政府には何の反省も対策もない。

 人類史に残る福島原発事故を起こした政府が、こうした失策のツケを原発再稼働・新増設でまかなおうとすること自体、言語道断だ。

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本稿執筆時点での電力会社別電力需給状況(注)。
昼間電力(上段)のピーク時で見ると、中部電力18,090+関西電力21,420=39,510(MW)<東京電力39,940(MW)であり、東電だけで関電+中部電を上回る。


 ◎再稼働で問題解決せず

 今年3月、6月のように、想定外の時期に電力需要のピークが来た場合、需給が厳しいことは事実だ。しかし、それは年間にすればせいぜい十数時間に過ぎない。福島原発事故ではいまだに3万人を超える人びとがふるさとを追われたままだ。たった十数時間のため数万人の避難者を再び生むのか。

 仮に再稼働を強行したとしても、今度は春秋の低需要期に電力が余ってしまう。他の電源と異なり出力調整ができない原発は電力余剰期には止めざるを得ない。もちろんピーク時だけ需給調整に使うこともできない。電力問題は原発ではまったく解決できないのである。

 ◎広がる抗議の声

 今回の転換に対する抗議の声が広がっている。福島県内の復興住宅に住む女性は「事故はまだ終わっていない。福島の現状をよく見てほしい」と怒りの声を上げた。核ごみ誘致に向け文献調査が進む北海道寿都町民も「新しいごみを生み出す原発新増設はありえない」と憤る。当然の批判だ。

 放射能汚染、健康被害、汚染土・汚染水処理問題など、福島原発事故が引き起こした問題は11年後の現在もまったく解決していない。危機に便乗し、命より電力会社、原子力産業、金融資本らの利権のみを優先する最悪の再稼働・新増設方針は直ちに撤回しかない。

注)電力会社・電力使用状況(電力需給)グラフ(エレクトリカル・ジャパン)

 (2022年9月25日 「地域と労働運動」第265号掲載)

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