日本の後進性を余すところなく暴露した東京五輪「万歳」!
強行開催すれば「先進国・日本」の墓場だ

 ●暴かれた後進性

 冗談だと思っていた東京五輪の強行開催が現実のものになってきた。世論調査で8割の国民が反対し、海外メディア、それも日頃は同盟国の立場である英米メディアからも再三にわたって中止勧告を受けながら、それらをすべて無視しての開催だ。菅義偉首相は先のG7(先進7カ国首脳会議)で「すべての首脳から開催支持を取り付けた」と主張するが、各国首脳が表明したのは日本の「開催に向けた努力」への支持であり、開催そのものへの支持ではないことは何度でも強調しておかなければならないだろう。

 もっとも、こうなるかもしれないという予感はなかったわけではない。1936年ベルリン五輪はナチスドイツ支配下で開催され、開会宣言はアドルフ・ヒトラーが行った。一部の超優秀なユダヤ人選手が国威発揚のためドイツ選手団に加えられる一方、「その他大勢のユダヤ人」が毎日大量にガス室送りとなっているすぐ隣で、五輪旗がスタジアムに平然と翻り続けた歴史を持つ。そんな悪魔の祭典としての五輪が「たかがコロナごとき」で止まる合理的な理由が思いつかないからである。加えて、日本と日本人の底流を支配する、一度決めたことからは何があろうと撤退できない心性は、退却ができないまま各地で「玉砕」を続けた旧日本軍以来変わっていないからだ。

 東京五輪に1つだけ評価すべき点があるとすれば、日本の後進性を世界に向けて徹底的に暴露したことだろう。2020年1月に始まった新型コロナ感染拡大と五輪をめぐる一連の騒動で、もはや日本を先進国だと思っている市民はほとんどいなくなったように思える。仮にも世界3位の経済大国が自国でワクチン生産もできず、接種率は5月18日時点で3.8%。OECD(経済協力開発機構)加盟国で最低レベルであり、OECD外に広げても、インド(10.4%)やインドネシア(5.1%)にも及ばない。世界では110位前後であり、ミャンマーやマレーシア、ナミビアなどアジア・アフリカの途上国と同水準である。

 五輪準備過程では森喜朗・前東京五輪組織委会長の「女性が会議室にいると会議が長い」という差別発言があった。お笑い芸人・渡辺直美さんを豚に見立てて「オリンピッグ」などと侮蔑する演出案を、演出担当者が冗談半分とはいえグループ通信用スマホアプリ「LINE」に残る形で発言し、辞任に追い込まれたことも記憶に新しい。

 世界経済フォーラムが毎年公表しているジェンダーギャップ指数は、最近は日本国内でも一般報道される機会が増え、認知されてきたが、今年3月に公表された2021年版によれば、日本は世界156カ国中120位。とりわけ「政治」部門は惨憺たるもので、147位とついにワースト10入りした。当然、日本より下は9カ国だけ。限られた本誌の紙幅の中でも列挙できるので並べておくことにしよう。カタール、ナイジェリア、オマーン、イラン、ブルネイ、クウェート、イエメン、パプアニューギニア、バヌアツ。ほぼすべてが中東・アフリカのイスラム圏か、部族主義政治体制が続く南太平洋諸国である(注1)

 この間、一律10万円の給付金をめぐって自治体窓口に長蛇の列ができたり、ワクチン接種のためのスマホアプリが機能せず混乱が続いたりするなど、日本のIT後進国ぶりも浮き彫りになった。ジェンダーもITもワクチンも後進国となる一方で、日本が先進国と呼べる分野がどこかにあるだろうか。少なくとも筆者にはまったく思い当たらない。

 ●海外メディアから「独裁国家」認定された日本

 そもそも日本はなぜこんな惨状に陥ってしまったのか。スウェーデン・ルンド大学のある日本研究者は「仮に私がオリンピック選手だったらまだトレーニングをやめることは絶対にないだろう。なぜなら、大会を中止するか続行するかの判断は、感染率という単純な問題ではないからだ。ここで疑問に思うのは、世論が本当に重要なのかということだ」と前置きした上で、次のように指摘する(注2)。「日本は投票率が極めて低い国だ。選挙制度の特殊性もあり、自民党は政権を維持するのに有権者の過半数に近い数字を獲得する必要がない。前回の総選挙では、わずか25%の有権者しか自民党に投票しなかったにもかかわらず、自民党は60%の議席を獲得した。つまり、世論は重要だが、決定的なものではないということだ。一部の野党リーダーはオリンピックに反対しているが、全体的に野党は弱く、分裂している。自民党は過去65年間のうち61年間政権を維持しており、国内の主要な問題について世論を無視しても再選を果たしてきた長い歴史がある。菅首相の視点では、国内の世論というのは複雑な方程式の中の1つの要素に過ぎない」。特殊な選挙制度のために国民の4分の1の支持だけで1党優位を維持できる自民党にとっては、民主主義国家なら本来最も重視されるべき「民意」もせいぜいチェスの駒の1つに過ぎないということである。

 東京五輪が日本社会の抱える危機を象徴しているという、もっと端的な指摘は日本国内からも出ている。近現代史研究家の辻田真佐憲さんは「五輪開催に固執すればするほど、日本は先進国としての威厳を失い、世界に恥部をさらし続けています。こうした状況の国を、先進国と呼んでいいのか疑問です。日本は五輪という名前の「先進国としてのお葬式」を執り行う段階にまで突き進んだのです」として、五輪が「先進国としての日本」のお葬式になると痛烈に批判する(注3)。確かに、新型コロナ感染拡大以降の日本には「終末感」「絶望感」「閉塞感」が漂っていて、打開の道もなかなか見えてこない。

 東京五輪の開催強行がどうしても避けられないなら、辻田さんの指摘を受け、筆者からひとつだけ提案がある。開会式の演出を「先進国・日本の葬儀」に変更してほしいのだ。「先進国・日本」と書いたシャツを着た日本人とおぼしき人形をみんなで納棺し、僧侶が読経する。その後は彼(彼女かもしれない)をみんなで荼毘に付す。BGMはもちろん「葬送行進曲」にして、厳かに執り行う。そして、「この大会の閉会後、日本は先進国ではなくなるので、先進国としての経済援助や政治的立ち振る舞いを我が国に期待しないでほしい」と宣言するのだ。

 1964年の東京五輪が、戦災から「復興」した日本が先進国の仲間入りをする歴史的地点に立っていたとするならば、今回の東京五輪はそれとは逆に日本が先進国としての終わりを告げる歴史的地点に立っていることの象徴として開催されるべきである。東京五輪に反対していた人たちを含め、開催強行を前提とするなら国民の「総意」を得られるほとんど唯一の方法だろう。

 ●独裁国家と五輪をめぐる奇妙な「法則」

 自民党が全有権者のわずか25%の票で議席の6割を独占する「特殊な選挙制度」を持つ日本を半独裁国家であるとする海外メディアの論評が出ていることはすでに述べたが、独裁国家と五輪をめぐっては奇妙な「法則」がある。1党独裁国家が五輪を開くと、少なくない確率でその国家と独裁政党は概ね10年後に崩壊、消滅しているのだ。

 冒頭に紹介したナチスドイツは開催から9年後の1945年に敗戦で滅亡した。ソ連によるアフガニスタン侵攻に抗議する西側諸国のボイコットの中でモスクワ五輪が開催されたのは1980年だが、国力を衰退させたソ連は11年後の1991年に解体する。1984年、ユーゴスラビアは、連邦を構成する6共和国の1つであるボスニア・ヘルツェゴビナ共和国の首都サラエボで冬季五輪を開催したが、その後、国家は民族主義の台頭で激しく動揺。血で血を洗う凄惨な内戦の末、1995年までに解体。独裁政党・ユーゴスラビア共産主義者同盟も運命を共にした。ナチスドイツに占領されながらも、外国勢力の手を借りず、独力で対独パルチザンを組織し国土を解放、戦後はソ連による乱暴な政治的干渉をはねのけ、コミンフォルム(欧州共産党・労働者党会議)からの除名という処分を受けながらも、第3世界の旗手として存在感を発揮したチトー大統領に率いられたユーゴスラビア共産主義者同盟ですら、五輪による国力衰退に屈したのである。

 もちろん、2008年に北京五輪を開催した中国共産党は10年後の2018年を過ぎても残存しており、すべての独裁政党がこの法則に当てはまるわけではない。だが、歴史を「総合的、俯瞰的」に眺めると、五輪開催で滅亡した1党独裁政党には共通点があることに気づく。破竹の勢いだったヒトラーに陰りが見え始めた段階で五輪を開催したナチスドイツ、ブレジネフ時代の長い政治的・社会的・経済的低迷の時代を経て国力に陰りが見え始めた状態で五輪を開催したソ連、チトー亡き後の長い混乱と低迷が続いた後で五輪を開催したユーゴスラビア。いずれにも共通しているのは、国力が衰退し始めてから五輪を開催しているという点である。したがって筆者は「衰退に入った1党独裁国家が五輪を開催すると、概ね10年後にその独裁政党は滅亡する」に一部修正の上、この法則が適用できるのではないかと思っている。

 この「法則」は日本と自民党には当てはまるだろうか。「失われた20年」と呼ばれる長い社会的低迷の後の開催であること、過去30年で労働者の賃金が上がっていないほとんど唯一の国であること、老人支配が横行し、若者や女性が希望を失っていることなどを考えると、どうやら適用できそうな気配が濃厚だ。

 本誌読者を初め、日本の市民のみなさんは、東京五輪が強行開催されても「また負けた」「結局いつもと同じ」「何も変わらなかった」と落胆しないでほしい。私の見立てたこの法則通りなら、10年後、自民党もナチスドイツ、ソ連共産党、ユーゴスラビア共産主義者同盟と同じ運命をたどる。今までどんなに歯を食いしばって頑張っても自民党に邪魔されて実現できなかった政策を、そのとき思い切りやろう。だから読者のみなさんもあと10年長生きし、「自民党のない日本」が到来したら実現したいことを、ぜひ政策集にまとめておいてほしい。

注1)日本はいよいよ「後進国」に…世界が驚いた「男女格差の深刻実態」「156ヵ国中120位」を考える(「現代ビジネス」2021年4月9日付記事)
注2)海外メディアが指摘「選挙に負けない自民党は『国民の声』を聞いて、五輪を中止する理由がない」(「クーリエ・ジャポン」2021年5月29日付記事)
注3)「辻田真佐憲「日本の『後進国』ぶりが世界中に暴露される五輪になる(「週刊朝日」2021年3月26日付記事)

 (2021年6月20日 「地域と労働運動」第250号掲載)

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