「ノーモア尼崎事故! 生命と安全を守る集会」が7月4日、尼崎市内で開催された。例年であれば事故の起きた4月に合わせて開催されるが、今年は新型コロナの影響で延期。ソーシャルディスタンスの確保に配慮しながら、それでも例年の約半分の100人が集まった。例年行われるデモ、事故現場での献花も中止された。
●JR西日本・北海道~安全崩壊とデータ改ざんの実態報告
集会では、「鉄道業務における業務外注化と労働問題」と題し、桐生隆文さん(JRに安全と人権を!株主・市民の会)が記念講演。JRが基幹業務の外注化を次々推し進めた結果、技術継承に失敗し、労働条件低下や技術不足、交通弱者へのしわ寄せ、偽装請負などの違法行為が続発している状況が報告された。
JR現場からは、平田尚さん(国労西日本)がこの間、継続して取り組んでいる片町線・鴫野駅でのホームからの乗客転落事故について報告した。危険な急カーブ上のホームが設置された鴫野駅ではホーム要員が削減される一方、ホームドアなど安全設備の設置は進んでいない。だが全国から9294筆の署名を集めるなど粘り強い闘いで、JR西日本も転落事故の多さと対策の必要性を認めた。今年4月、衆院決算行政監視委員会でも取り上げられるなど、JRを追い詰めている。
JR東日本では、鴫野駅と同じような構造を持つ駅として長年の懸案だった中央本線・飯田橋駅の大カーブ上のホームが直線上に移転されることで解消した。恥ずかしい話だが、かつて本稿筆者も懇親会後の飯田橋駅で、乗車中に足を踏み外し、停車中の列車とホームとの隙間に片足を落とした経験を持つ。このときは自力で乗車できたが、隙間の空いたホームを恨めしく思ったものだ。
JR北海道に関しては、筆者もこの間の道内の動きと、2019年のレール検査データ改ざん問題の裁判について報告を行った。2013年、函館本線大沼駅で起きた貨物列車脱線事故をめぐって、保線管理労働者がレール検査データを改ざんしたのではなく、JR北海道が曲線半径を実際より大きく見せる改ざんを行っていたのではないかとの指摘に会場から驚きの声が上がった。
その他、水道民営化反対の闘い、JAL争議団、全日建連帯関生支部から闘いの報告があった。「関生支部が600日を超える不当勾留から委員長、副委員長を取り戻せたのは一般市民が黒川検事長の定年延長を阻止する闘いに立ち上がったから。市民と労働組合の連帯が大切」との指摘は重要だ。「大阪府警から『お前らは国家権力と闘うんやろ。だからわしらもお前らには何をやってもいいんや』と言われた」と生々しい弾圧の実態が暴露されると、再び会場から驚きの声が上がった。
●リニア、計画とん挫
一方、JR東海が2027年の開業を目指して工事を進めてきたリニア中央新幹線は、静岡県でのトンネル建設で大井川の流量が毎秒2トンも減少するとの試算がまとめられて以降、静岡県が工事を認めず暗礁に乗り上げている。
大井川は1級河川であり、開発許可の権限は国にある。だが静岡県自然環境保全条例では、自然環境に重大な影響を与える事業が行われる場合、事業主体と県との間で自然環境保全協定を締結する必要があることを定めている。対象となる事業の選定権は知事にある。こうした県の権限を背景に、川勝平太静岡県知事は、中央リニア新幹線についても保全協定締結の対象になるとの考えを示してきている。6月中に静岡県内のトンネル工事の「準備工事」を始めなければ2027年の開業に間に合わないとして、金子慎JR東海社長が川勝知事に2人によるトップ会談を申し入れた。だが、6月26日の会談も物別れに終わった。川勝知事は「JR東海が行おうとしているのは本体工事と別個の準備工事ではなくトンネル本体工事そのもの」であり、認めることはできないとの考えを崩していない。
あまり知られていない事実だが、静岡県の抵抗がなくてもリニア中央新幹線はもともと2027年の開業は絶望的な状況にあった。名古屋駅周辺地域ではいまだ用地買収すら終わっておらず、予定通りの開業が絶望的であることは関係者の間では公然の秘密だったが、JR東海による巧妙な情報操作で隠されてきた。今回、静岡県の抵抗でいよいよ隠しきれなくなり、メディアが一斉に報道する事態となったのだ。
川勝知事は、トップ会談「決裂」後の記者会見で、静岡県内だけで事業が遅れているわけではないにもかかわらず「静岡県だけが悪者にされている」と不快感を示した。メディアが数字を取る(=視聴率を上げる)ためには、詳細を知らない視聴者にとってわかりやすい構図に落とし込む必要がある。「中央と静岡県の対立」という構図ならわかりやすく数字も取れる。旧国鉄職員局長として、国労組合員など1047名首切りに関与しながら、分割民営化後のJR東海に君臨、自分の存命中にリニア中央新幹線開業のテープカットを見ることだけを目的に老醜をさらし続ける「アベ友右翼」葛西敬之前代表取締役会長が6月の株主総会以降、代表権のない取締役名誉会長に退いたこと、安倍政権が新型コロナ対策で失態を繰り返し、レイムダック化しつつあることも見逃せない。
静岡県では、1980年代にも中部電力による取水によって大井川が涸れるなどの被害を受け、県民による水返せ運動が闘われた歴史を持つ。島田市など大井川沿線10自治体も、水問題が解決しない状況での工事着工は認めない方針だ。
静岡県民の6割が、水問題をめぐる県の方針を支持しているとの世論調査結果も出ている。静岡県内でほぼ唯一の水源である大井川の流量減少に対しては、住民のみならず医療機関、特産品であるお茶農家、ウナギ産業従事者など県内経済界にも懸念の声がある。政府が力任せに推進する国策に対し、不利益を押しつけられる地元が自治体、経済界、住民一体となって闘っている。当事者、関係者にとってはいささか失礼な表現になるが、沖縄の基地問題同様、事態は面白く、目が離せない状況になってきた。
(2020年7月24日 「地域と労働運動」第239号掲載)