JR北海道による「自社単独で維持困難」線区公表から3年 北海道JR鉄道路線の現状

 JR北海道が、宗谷本線名寄~稚内間など計10路線13区間について、同社単独では「維持が困難」になったことを公表(2016年11月)してから3年が経過した。今月は、JR北海道の現状を報告したい。

 ●抜本的解決にならない「利用促進と豪華列車運行」

 2018年7月、国は、JR会社法(旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律)に基づいて「経営改善に関する監督命令」を出した。「徹底した経営努力によって収支を改善して、 経営自立を図る必要」があり、「関係者による相互の連携及び協力の下で、将来にわたって持続可能な交通体系を構築するとともに、他の輸送機関とも適切に役割を分担して、必要な輸送力の確保に努め」ることを求めるものだ。「特に経営状態の悪い5線区(深川~留萌、北海道医療大学~新十津川、富良野~新得、新夕張~夕張、鵡川~様似)は早急に切り捨てて経営自立せよ」を意味しているが、鉄道はレールがつながっていてこそ意味がある。北海道全体のネットワーク維持を展望せず、短期的な経営自立だけを求めているところにこの監督命令の根本的問題がある。そもそもJRグループが発足した初年度(1987年度)決算において、JR7社の営業収入全体に占めるJR北海道の割合はわずかに2.5%、JR北海道の営業収入は919億円で、この数字は当時の東京駅の収入より少なかったというデータもある。こんな状態の会社に自立を求めることは、事実上、儲からない鉄道事業からの全面撤退を求めるに等しい。

 2018年12月には「公共交通の利用促進のための道民キックオフフォーラム」が道庁主催で開催された。道と道内経済界一体となったJR北海道の利用促進運動だ。注目すべき動きだが、国鉄末期、特定地方交通線整理の際の「乗って残そう○○線」運動で実際にはほとんどの路線が残せなかったことを考えると、鉄道を道路、空港、港湾など他の交通と同じ公共財として位置づけ、赤字でも維持するという根本的政策転換が必要だ。しかし結局、このフォーラムでは最も重要なこの点が提起されなかった。

 豪華列車運行の動きも始まった。東急電鉄の観光専用車両「THE ROYAL EXPRESS」を道内で運行、JR北海道が運行会社から線路使用料を徴収する増収策である。この列車の運行はメディアでも取り上げられ話題になったが、もともとは「観光戦略実行タスクフォース」会議(2018年2月、首相官邸)で国交省が「豪華観光列車で増収」として提案したものである。その意味では国策といえるが、やはり線路使用料だけでは抜本的解決とはいえない。

 このように、現在、国・道・JR北海道から提起されている対策は、その場しのぎの弥縫策ばかりで鉄道政策を抜本的に見直すものとはなっていない。国のJR北海道に対する支援策も、資金ショートの危険が起きる都度、追加的に資金投入を行うにとどまっている。公共事業に対する融資審査に長年従事してきたある政府系金融機関OBは「戦力の逐次投入で犠牲者を増やすだけに終わった旧日本軍のインパール作戦と同じだ」と指摘する。

 ●値上げは運命の分かれ道か

 JR北海道は、2019年10月の消費増税に合わせ平均11%(増税2%分含む)もの大幅な運賃値上げを行った。7月1日、札幌で開催された公聴会では安全問題研究会代表を初め3人の公述人全員が値上げに反対したが、その意見はまったく考慮されず、申請通り認可された。

 値上げ後の新運賃を少し詳しく見よう。「幹線」の7~10km帯ではJR本州3社の200円に対し、JR北海道は290円で45%も高くなった。91~100km帯では本州3社1,690円に対し北海道2,100円(24%割高)。481~500km帯では本州3社8,030円に対し北海道8,800円(9%割高)。乗車距離が長くなるほど1km当たり運賃が低下する「遠距離逓減制」自体は旧国鉄からJR各社に継承されており、逓減率が同じならJR各社間の同じ距離帯を比較して差が出ることはあり得ないから、JR北海道では本州3社と比べ、乗車距離に応じた運賃逓減率が拡大していることを意味する。要するに「乗車距離の長い人ほど安く、短い人ほど高い」運賃体系がいっそうひどくなったということである。一概には言えないが、道外からの出張者や旅行者には乗車距離が長い人が多く、通勤通学の一般道民には乗車距離の短い人が多いことを考慮すると、JR北海道にとって最も大切にすべき一般道民に対し懲罰的な運賃体系ということになる。

 公聴会に出席した島田修JR北海道社長は、値上げに対する批判に対し、驚くことに「通学定期の割引率は今までと同様、高いままに維持している」と反論し理解を求めた。しかし、これは例えるならケーキ1個を500円、2個を1,000円で販売していた店が、1個を1,000円、2個を2,000円に値上げした後、「値上げ後も1個が2個の半額であることに変わりないのだから値上げではない」と言っているのと同じであり、詭弁に過ぎない。

 今回の値上げでは、区間によっては3割も値上げされた区間もある。筆者の知る限り、鉄道運賃でこれほどの大幅引き上げは、国鉄末期の1976年に行われた5割値上げ以来であろう。この前年、国労・動労に結集した労働者がみずからのスト権を賭けて実施したスト権ストでは、国鉄全線で丸8日間にわたってほぼ全線がストップ。その後、貨物部門での深刻な荷主離れに危機感を抱いた国鉄当局は5割値上げに踏み切った。「首都圏のすし詰め状態の国電で通勤しているサラリーマンは交通機関の選択権がない人たちだから、5割くらい値上げしてもどうせ国鉄に乗るだろう」との読みが当時はあったとされるが、結果的にこの読みは外れた。競合私鉄、営団(現在のメトロ)や都営地下鉄、都営バスに乗客は大幅に流れた。その後の国鉄がどのような運命をたどったかは改めて説明するまでもなかろう。分割民営化による国鉄消滅は1987年。5割値上げから11年後のことである。

 もしも歴史が繰り返すなら、今回のJR北海道による最大3割にも及ぶ値上げがこの会社の「命取り」になる可能性は十分にある。北海道には首都圏と違って競合交通機関は地下鉄とバスくらいだから心配がないという声もあるが、それは北海道の地域事情を知らないからである。北海道で鉄道の最大のライバルは「自家用車」だ。ただでさえ有利な車に乗客を奪われる可能性を甘く見てはならない。そう遠くない将来、JR北海道の経営破綻のニュースが流れたとき「今思えばあの大幅値上げが運命の分かれ道だった」との歴史的検証を受けるような転換点になるかもしれないのだ。

 現在、JR北海道は「令和12(注:2030)年度の北海道新幹線の札幌開業を機に……経営自立」を図るという到底実現不可能な目標を「グループ長期経営ビジョン」として掲げている。確かに新幹線自体は間接的なものまで含めると莫大な経済効果を生むかもしれない。しかしその大半は東京~新青森間を持つJR東日本のものになる。新青森~札幌の末端区間しか持たないJR北海道に落ちる効果は限定的なものにとどまらざるを得ない。にもかかわらず、JR北海道の現経営陣がこんな夢物語を平然と開陳できるのは、いざその時を迎えて責任を問われるのが彼ら自身でないから関係がないと考えているか、あるいはその時までにJR北海道という会社が存続している可能性を彼ら自身が信じていないかのどちらかだろう(あるいはその両方かもしれない)。筆者は後者の可能性も十分あると考えている。彼らも自分の後任者が「JR北海道幹部として」札幌駅新幹線ホームでのテープカットに臨めるとはもはや考えていないのではないだろうか。

 ●粘り強い闘いが続く日高、根室本線沿線

 JRが廃線を提案したいわゆる5線区のうち石勝線支線(新夕張~夕張)は今年春にバス転換された。札沼線一部区間(北海道医療大学~新十津川)も来年5月のバス転換が決まっている。札沼線はもともと札幌~石狩沼田を結んでいた(札沼線の名称は当時の名残である)が、1968年、国鉄諮問委員会が「歴史的使命を終えた」として廃止を勧告した83路線のひとつだった(この問題は、後の国鉄再建法につながる前哨戦として「赤字83線問題」と呼ばれるようになる)。これを受ける形で1972年に石狩沼田~新十津川が部分廃止され現在の形になった。今回の部分廃止で残る区間は札幌近郊の桑園~北海道医療大学のみとなる。廃止区間沿線の月形高校が「いじめが原因で札幌の高校に進学できない中学生の受け皿になっているのに、廃止で月形高校への進学の選択肢がなくなる」(地元の教育関係者)との証言もある。路線廃止は最も底辺の弱者にしわ寄せされる。

 日高本線に関してはつい先日、大きな動きがあった。日高町村会加盟沿線7町(日高、平取、新冠、新ひだか、浦河、様似、えりもの各町)の町長会議が11月12日に開催。(1)全線鉄道で災害復旧、(2)被災していない区間(鵡川~日高門別)を先行して運転再開し残り区間は継続協議、(3)鵡川~様似の全区間バス転換――のうちから1案に絞ることを「多数決ででも決める」としてきた坂下一幸会長(様似町長)の「予告」通り、採決に持ち込まれたのだ。結果は(1)が浦河町(池田拓町長)のみ、(2)がなく(3)が残り6町となり、バス転換同意が決められた。前回(2)を主張していた日高町、(1)を主張していた浦河町に対しては、坂下会長から「バス転換に同意しなかった自治体の区域内には、転換後はバス停を設けない」との執拗な恫喝が加えられたとの証言もある。それでも浦河町長は最後まで反対を貫いた。町長会議直前に安全問題研究会、JR日高線を守る会、JR北海道研究会が連名で行った緊急要請交渉では、池田町長は「針のむしろも長く座り続けていれば痛くなくなる」と孤立をまったく恐れていなかった。

 今後はJR北海道と各町との個別協議に入るが、バス転換や支援金などの提案に全町が合意後、初めて鉄道の廃止届が提出されるというのが過去の廃線手続の前例であり、札沼線でもこうした慎重な手続が行われた。バス転換にそもそも反対の浦河町に加え、「鉄道時代より良くなったと実感できるバス転換案でなければ同意しない」(大鷹千秋・日高町長)と明言している自治体もある。転換後にバス路線を担うとされる道南バスが、乗車率が高い路線まで「運転手不足」を理由に続々と休廃止している現状を見ると、転換バス事業者が見つからない可能性さえあり得る。この意味では、国鉄末期の特定地方交通線整理の時と異なり、鉄道維持を求める側に有利な情勢といえよう。

 「強行採決」後、坂下会長は実質的にはバス転換同意以外の何物でもない(3)を採択しながら、記者会見では「手続を後戻りさせてはならない」が「必ずしも鉄道廃止を容認したものではない」という苦しい説明に終始。メディアからは「矛盾していて意味がわからない」との追及を受けた。地元で鉄路存続運動を続ける「JR日高線を守る会」が発表した声明は、「(坂下会長が)廃止容認でないとしたのは、私たちJR日高線を守る会や、各地の全線復旧を要求するたたかいが影響」「全線復旧の主張を続ける池田町長のブレない姿勢の影響も大きい」とした上で「JR日高線を守る会は全道全国の仲間とともに、鉄路を守り抜くたたかいに引き続き力を注ぎます」としている。JR北海道による「自社単独では維持困難」10路線13線区公表から3年。公共交通としての鉄道維持を求める地元の闘いは、ついに最後まで廃線反対を貫く自治体を生み出すという新しい局面を作り出した。

 鉄道事業法が2002年に改悪された結果、鉄道路線の廃止は国の許可を経ることなく、鉄道会社による届出だけで1年後に可能となった。沿線自治体との間でどのような協議、同意の手続を経るべきかについて同法は何も定めていないが、これはそもそも沿線自治体の同意自体が廃線の要件とされていないためである。しかし実際には、鉄道が持つ公共性や、沿線同意なく廃線を強行した場合において、沿線との関係が悪化することを恐れる鉄道事業者によって改悪前とほぼ同様の手続が行われてきた。一方で、整備新幹線の建設に当たって、いわゆる並行在来線をJRの経営から分離し、第三セクター鉄道へ移行させる場合には、経営分離する区間について「当該区間に関する工事実施計画の認可前に、沿線地方公共団体及びJRの同意を得て確定する」と定めた政府与党合意が存在する。JRから第三セクターへ、単なる線路の譲渡に過ぎない「経営分離」に沿線自治体の同意を必要としながら、それより重大な結果を招く路線廃止に沿線自治体の同意が不要というのは交通政策として整合性も道理も欠いている。九州新幹線長崎ルートの建設認可に先立って、並行在来線の経営分離に同意しない自治体があったため、国とJR九州が並行在来線の事実上の切り捨てに失敗した例もある。こうしたことを考えると、今回、日高本線をめぐって最後まで廃線反対を貫く自治体が現れたことが今後に与える影響は大きいとみられる。

 5線区のうち残る2つ(根室本線・東鹿越~新得、留萌本線・深川~留萌)については協議入りさえしておらず、日高本線もバス転換に向かうため協議のテーブルが用意されると決まったに過ぎない。地元住民にとって死活問題である公共交通をめぐって、廃止を求める国、道、JR北海道と沿線自治体・住民の激しい闘いは今後も続く。当研究会も引き続き当事者として、積極的にこの問題に関わっていくことになる。

(2019年11月25日 「地域と労働運動」第231号掲載)

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