JR北海道が5月に行った平均11%、最大3割にも及ぶ鉄道旅客運賃・料金の上限変更認可申請に関し、国土交通省運輸審議会が7月1日に実施した公聴会で、安全問題研究会代表が一般公述人の1人として反対の公述を行った。公述内容は、本誌前号に掲載した公述書のとおりであり、当研究会代表は、JRグループ各社間に巨大な格差が存在し、その格差が拡大するままに放置され、何らの是正措置も講じられないまま北海道民だけに負担が押しつけられようとしていること、北海道産農産物の輸送に鉄道が大きな役割を果たしていることを中心に現状のままの値上げは認められないことを表明した。他に2名の一般公述人も値上げ反対を表明。公述人全員が値上げに反対する異例の事態となった。
●「鉄道再生のための改革」と強弁する島田社長
「JR北海道の経営が苦境に追い込まれた根本原因は、そもそも旧国鉄を地域ごとのJRグループ各社に分割した際の切り分け方にある。JRグループ各社の企業努力を超える格差が厳然と存在し、またその拡大が続いているこの間の社会経済情勢の変化を踏まえると、企業努力の範囲を超える格差に関してはその是正のための制度を導入することこそ国として、今行うべき政策である」とした当研究会代表の公述に対し、島田社長は「国鉄という全国1社の巨大組織が非効率を生み経営破綻につながった。適正な経営規模の下、地域ごとの自立的経営を行い、鉄道の再生をめざすのが国鉄改革の精神だった」と色をなして反論してきた。しかし、島田社長のこの苦し紛れの強弁にこそ国とJR北海道の最大の弱点が現れている。国鉄改革の失敗を指摘されることを彼らは何よりも恐れているのだ。
32年前に国民の強い反対を受けながら、分割民営化推進派が根拠なく繰り返してきた空虚な主張を一字一句なぞっただけの強弁で、JR北海道は実際、この日の会場を埋め尽くした報道関係者や傍聴者を納得させることができなかった。ほとんどの報道機関が公聴会後、値上げに対し批判的な論調だったことは、当研究会の主張の正しさを裏付けるとともに公述の成功を物語っている。
32年の時を経て、JRグループをめぐる情勢は根本的に変化している。新幹線が新潟、盛岡、博多までしか走っていなかった時代の認識のまま、JR北海道の危機をその場しのぎの対処で乗り切ることなど不可能だ。実際、新幹線のダイヤに余裕のある北海道・九州でほぼ同時に「貨物新幹線」の運転構想が表面化した。既存のJR旅客6社+貨物という枠組みの中では対応が難しく、JR再編の呼び水になりそうな動きも出始めている。
日本の鉄道の歴史を俯瞰すると、見えてくる事実がある。1872年、資本家が資金を集め、民間主導で開通した日本の鉄道は、1906年に国有化。戦後に入り、1949年に公共企業体(国鉄)となり、1987年に現在のJRグループとして民営化した。民間による開業から国有化までが34年、国有化から公共企業体化するまでが43年、公共企業体化から民営化までに38年。おおむね35~40年で経営形態を変えている。制度を小幅に手直ししながら、鉄道の経営形態を維持できる期間としてはこのくらいが限界なのだろう。JRグループも発足から32年を迎え、そろそろこの限界に差し掛かりつつある。JRグループも経営形態の変更を議論すべき時期に来ている。その議論は分割された会社の統一が中心となるべきだ。
ところが、こうしたJR再編の主張に対し、反対している人物がいる。葛西敬之JR東海会長だ。1年近く前になるが、「日経ビジネス」誌でのインタビューで葛西会長は「日本中に道路ができた今、鉄道を道路に転換しなければならない」と廃線を公然と容認。「経済原則に反するから全国を1本に戻そうということにはならない」とし、北海道を救済しないのかとする同誌記者の質問を「愚問」と決めつけた。
葛西会長は、安倍首相と昵懇の関係で知られる「アベ友」だ。国から3兆円もの資金援助を受け、環境破壊、税金垂れ流しのリニア新幹線を推進しながら、JR北海道はおろか、自社の在来線すら「お荷物」扱いし見向きもしない。
JR北海道の鉄道を廃線から守るためには葛西社長の打倒が必要だ。それは、1人もJR職場に戻れなかった被解雇者1047名への責任を果たすことでもある。
●変化の兆し出始めた世論
当研究会は、JR北海道による「維持困難線区」公表後も、ぶれることなく一貫してJRグループの再編を訴えてきた。国鉄「改革」で3分の1の路線を失った北海道が、このまま何の手も打たれずさらに半分の路線を失うことなど断じてあってはならない。その信念の下、5線区(廃止対象)に位置づけられた日高本線沿線を中心に講演回数は8回に及んだ。国土交通省、総務省に対する要請・申し入れ3回、国会議員を通じた質問主意書提出3回に加え、「JR日高線を守る会」「JR問題を考える苫小牧の会」などと連携した署名や駅清掃、キャラバンなどあらゆる行動を続けてきた。この春からは、代表のメディア出演(インターネットラジオ、コミュニティFM放送)によって市民に直接政策を訴える活動も行った。
当研究会代表を初めとする一般公述人の奮闘によって、次第に世論の風向きにも変化が現れ始めた。野放図な廃線・値上げ容認論はなお残るものの一時の勢いを失い、新自由主義者らは焦りを深めつつある。代わって国鉄分割の不当性や北海道単独での経営の困難さを指摘し、JR再編や再国有化、上下分離の導入を求める声が強まっている。巨大な利益を上げながら人員削減を強行し、年末年始や大型連休など繁忙期のたびにトラブルを引き起こすJR東日本、新幹線車内で犯罪が相次いでいるのに抜本的な対策もしないままリニア建設に突き進むJR東海、尼崎事故現場を一般市民の目から隠しつつ、加害の歴史を抹殺するJR西日本――彼らにこれ以上私たちの公共交通を委ね続けることはもはやできない。
当研究会は、国鉄改革の失敗を認め、直ちにJR再編に着手するよう、国に対して強く求める。粘り強くあるべき交通政策を訴え続け、いよいよ世論を動かし始めたみずからの活動に自信を持ち、公共交通の復権というあるべき道を、ぶれることなく、まっしぐらに進む決意をこの機に改めて表明する。
(2019年7月25日 「地域と労働運動」第227号掲載)