ノーモア尼崎事故集会、JR北海道運賃値上げに反対する市民公聴会相次いで開催
安全問題研究会が報告行う

 ●JR西日本への怒り相次いだノーモア尼崎事故集会

 「ノーモア尼崎事故 生命と安全を守る6・8集会」が兵庫県尼崎市で開催された。今年は統一地方選との重複を避けるため、事故のあった4月でなく6月開催となった。

 「組織罰とは何か~安全な社会を確立するために」と題し、「組織罰を実現する会」事務局の津久井進弁護士が記念講演。「尼崎事故裁判は無罪となり、同じ強制起訴の刑事裁判として東電の福島原発事故訴訟が進行中だ。企業の刑事責任の追及が困難な予見可能性に固執せず、企業として最低限講じるべき安全対策のラインを設定し、経営陣がそれを果たしているかで企業責任を判断する新しい考え方への転換が必要」と指摘。一方で「疑わしきは白の原則のある刑事訴訟には独特の難しさがあるが、組織内部にグレーの人がたくさんいる場合には、グレーもたくさん重ねれば黒になる。事実と闘いで突破することが有罪獲得に重要」として、福島原発事故刑事訴訟にも一定の配慮を示した。組織罰を実現する会は、国・自治体には500万円を、企業には純資産額を上限とする罰金刑を科せるようにする組織罰法制の実現を目指し活動している。国・自治体に対する罰金刑の上限を500万円に設定した理由について、津久井弁護士からは「国・自治体の財源が納税者の税金であり、罰金を引き上げても納税者の負担が増えるだけ。むしろ罰金刑が科されることにより国や自治体が再発防止策をしっかり取ることを期待してのもの」との説明が行われた。

 安全問題研究会からは北海道のローカル線をめぐる状況について報告。この1年間で新たに地元が廃線に同意したのは札沼線(北海道医療大学~新十津川)だけにとどまった。また、道庁や道内経済界によるJR利用促進運動が始まったが、国鉄末期の「乗って残そう運動」が成功しなかった経験から、路線存続には収支でなく鉄道を公共財として維持する政策が必要であることが示された。新幹線「のぞみ」台車亀裂事故(2017年)に関する国の事故調査報告書が公表されたことにも触れ「台車を納入した川崎重工業との取引を漫然と続けるなど、JR西日本には反省が見られない」と指摘した。

 尼崎事故遺族の藤崎光子さんも参加。「なぜ私は死ななければならなかったの、という娘の声が今も聞こえる。国鉄時代の安全綱領をやめ「稼ぐ」を大阪支社長方針のトップに掲げるようなJR西日本の企業体質が事故原因。もうJRは再国有化すべき」と例年よりも踏み込んだ形で思いを語った。

 集会終了後は事故現場までデモ行進。事故で列車が突っ込んだマンションは大部分が解体され、公園の一部として再整備された。だが隣接する道路からは見えないように覆われ、記念碑の記述も事故発生の経過だけ。何よりもJR西日本の加害責任に一切触れないという不当なものだ。公園内の撮影すら禁止するJR西日本の姿勢に、参加者から「事故風化を許さないぞ!」と怒りの声が上がった。

 企業犯罪をできるだけ風化させようと狙う政府・JRと企業の刑事責任追及に向け新たな考え方を提起し闘う市民。今年の集会は例年以上に両者の本質的で根本的な対立を浮き彫りにした。

 ●JR北海道の運賃値上げに関する「市民公聴会」開催 値上げに怒りの声

 一方、JR北海道は今年10月の消費税率改定に合わせて運賃を平均11%(増税分含む)も引き上げる方針を決め、国交省に申請した。その是非を審議する運輸審議会主催の公聴会が7月1日に行われるのを前に、運賃引き上げに反対する集会(市民公聴会)が6月21日、札幌市内で開催。当研究会代表も「市民公述人」として意見を述べた。

 今回の値上げは、JR北海道という企業の息の根を止めることになると思う。何年後になるかわからないが、そう遠くない将来にJR北海道の経営破綻のニュースが流れたときに「今思えば、あのときの大幅な値上げが運命の分かれ道だった」と振り返られることになる歴史的ターニングポイント。そんな値上げだと思っている。旧国鉄が1976年に行った「運賃5割値上げ」が、最終的に国鉄の息の根を止めた先例があるからだ。

 歴史的に見ると、国鉄ではこの前年、1975年にあの「スト権スト」があり、全国で8日間にわたり列車が止まった。このストの影響は大きく、特に貨物で荷主の国鉄離れを決定的にした。この大幅減収局面に慌てふためいた国鉄が、翌年に行ったのがこの5割という大幅値上げだった。

 当時の国鉄も今のJR北海道経営陣と同じで「満員列車で都心の企業に通勤しているサラリーマンたちは、どうせ他の交通機関の選択肢を持たないのだから、大幅に値上げしても結局は今まで通り国鉄に乗るだろう」と考え、高を括っていた。しかし値上げの結果は悲劇的で、競合私鉄、地下鉄にどんどん客を取られていった。値上げする→客が離れる→さらに赤字がひどくなる→また値上げする……という死のスパイラルに入っていった国鉄は、その11年後にJRとなり姿を消した。

 当時の国鉄は赤字と言われながらも、高騰する建設費と不当に高い利払いを除けばそれほど財務状態は悪くなかった。単に国鉄という組織が列車を動かして得た利益で自分たちの生活費をまかなうという部分のみに着目すれば、赤字ではあっても国が救済できないと絶望視するような状況にはなかったのである。それなのに、5割の値上げが打撃となり、国鉄は以後、急坂を転がり落ちるように破局へ向かって突き進んでいった。

 今回、JR北海道の値上げは最大3割にも及ぶもので、これほどの大幅なものはこのときの国鉄以来だろう。このときの5割値上げの大失敗を思えば、JR北海道が同じ道をたどるであろうことは容易に想像できる。JR北海道が出している赤字額の7~10倍も稼いでいる会社が同じJRグループ内にあるのになぜその格差を埋める努力もせずに値上げなのか。首都圏の人たちも北海道産農産物を食べているのに、なぜそれを輸送するための除雪費も保線費用もJR北海道と道民の負担なのか。「鉄道を残したいなら残したいと思っている道民が金を出せ」という意見も目立つが、それなら「北海道産のジャガイモやタマネギを首都圏に輸送するための費用は首都圏の食べたいと思っている者が払え」というのが当研究会の主張である。

 当研究会代表は、7月1日、国の運輸審議会が行うJR値上げに関する公聴会でも公述人として意見を述べることになっている。公述書の内容を全文公開するので、是非皆さんもこの「格差」問題を考えていただきたいと思っている。

(2019年6月25日 「地域と労働運動」第226号掲載)

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