九州電力が、電力の供給過剰を理由に再生可能エネルギーで発電された電力の送電網への接続を制限する事態になっている。圧倒的多数の市民が脱原発を望む中、4基も再稼働させた原発にはまったく手をつけないままの暴挙。見えてきたのは何重にも積み重なった日本の電力政策の失敗だ。
●再エネ、最大8割
九州電力による再エネの「出力制御」は10月13日、大規模に実施された。離島などでは例があるが、電力会社の営業エリアの広域で実施されたのは初めてだ。
タンクで貯蔵できるガスやダムで貯蔵できる水と異なり、電力は大規模に蓄えることができない。需要に対して発電量が多すぎても少なすぎても周波数が維持できなくなり、不安定化や電気器具・設備の故障、最悪の場合は大規模停電を引き起こす。9月の北海道胆振東部地震では、道内発電量の4割をまかなっていた苫東厚真火力発電所が停止したため供給不足となり大停電が引き起こされた。
福島第1原発事故後、太陽光や風力などの再エネを普及させるため、FIT(再生エネルギー固定価格買取り)制度が導入。気候が温暖で日照にも恵まれている九州では太陽光発電が急速に普及した。その結果、冷暖房も不要な春秋の好天に恵まれた日の昼間には、電力使用量の8割まで太陽光発電でまかなえるようになった。送電網に流れ込む電力を制御しなければ発電量が需要を大幅に上回り、大停電を引き起こす。「電力余り」を防止するための出力制御だと九州電力は説明する。電力不足で大停電となった北海道と真逆だ。
●電力政策の失敗露呈
そもそもこの狭い日本で電力不足で節電を強いられる地域と電力過剰で発電をやめなければならない地域がほとんど同時発生していること自体、電力政策の失敗だ。電力の生産量・消費量とも圧倒的に大きい本州から見て「離島」であり地続きでない北海道・四国・九州はもともと電力融通ができにくく不利な条件にある。これに電力会社の地域分割、2種類の周波数(西日本60ヘルツ/東日本50ヘルツ)の並立などの悪条件がさらに電力融通を困難にしている。これらは日本の電力黎明期から積み重なってきた問題だが、福島原発事故はこれらの問題を一気に噴出させた。
川内、玄海原発で4つの原子炉をフル稼働させながら再生エネルギーを制限する九州電力の不当性が真っ先に問われるべきなのは当然だ。熊本地震が起き、火山活動も常時活発な状態が続く。南海トラフ大地震が近いと指摘する学者もいる。他のどの地域よりも再エネ普及が進み、好条件が揃う九州こそ今すぐ原発を全廃すべきだ。
国が7月に決定した新エネルギー基本計画は原発をベースロード電源とする一方、再エネ拡大も盛り込むなど方向性が定まらないものとなった。だがこの間、安倍政権と電力会社が進めてきた政策を見れば、再エネ拡大など口先だけで、再エネ潰しの動きはむしろ福島原発事故直後より露骨になっている。日本の「原発国家回帰」を目論んでいるのは明らかだ。
再エネは発電量の変動が大きく安定電源になり得ないとして、国、電力会社、御用学者は総力を挙げて原発継続を主張する。確かに太陽光は悪天候の日や夜間には発電できないが、風力や水力は悪天候でも日照不足でも発電できる。人類に処理できない放射性廃棄物を生み出す原発に対し、再エネは処理不可能なゴミは出さず燃料費も不要だ。福島原発事故以降、原発は長くゼロが続き、再稼働後も全発電量に占める比率は5%程度。未曾有の大事故で日本の国土の2%を使用不能にし、住民の生活も健康も奪う最悪の「危険、不安定電源」だ。
北海道や九州と本州との電力融通対策は脆弱で、停電の危険性は以前から国も認識していた。そうした実態を放置し、原発再稼働で事態を乗り切ろうとする電力政策に未来はない。
九州電力本社前では、「テントひろば」による行動の他、毎週金曜日には市民による反原発行動も続く。10月26日の行動でも集まった市民が「再エネ止めるな、原発止めろ」と原発廃止を訴えた。
(2018年11月25日 「地域と労働運動」第219号掲載)