アサツユリレーエッセーに初めて寄稿させていただきます。福島第1原発事故当時は福島県西郷村に住んでおり、その後も2年間を過ごしました。よろしくお願いいたします。
福島県内では、今なお地元メディアを中心に福島県産農産物が安く買い叩かれている、風評被害を払拭しなければならない、という報道が行われています。正確に定義もされないまま独り歩きし、生産者と消費者、また県民同士でも分断の原因となってきた「風評」問題ですが、そろそろ真剣に検証すべき時期でしょう。
2018年3月、農林水産省が公表した「平成29年度福島県産農産物等流通実態調査」はこの問題にある程度答える内容になっています。消費者に対する、福島県産農産物のイメージに関する質問では「特にイメージはない」が3~4割を占める一方「安全性に不安がある」は2割弱との結果です。首都圏での消費者アンケートで福島産を「避ける」と答えた人は15~20%で、今回の調査結果とおおむね一致しています。
流通業者に対する調査では、福島産を取り扱わない理由として「他産地のもので間に合っている」「他産地を撤去してまで福島産に変える理由がない」が大勢を占めました。産地表示の不要な外食・給食に限れば、原発事故以降も福島産の販売量は減っておらず、産地表示の不要なところ、食材を自分で選択できない人のところに福島産が回っている、という事故直後の「町の噂」を裏付ける結果が示されました。価格に関しては、震災前の水準へは依然として回復していないものの、2014年を境に急速に回復に向かっている様子がわかります。やはり震災後「3年」がひとつの転換点のようです。他産地のもので間に合っているのに、わざわざそれを撤去して、売れなくなるリスクのある福島産に変える積極的な動機がない、というのが流通・販売業者の偽らざる本音でしょう。
むしろ、売ってほしいのに売ってもらえないのは福島県の努力不足にあることを示す別のデータもあります。やや古いですが、原発事故前、2005年の農業センサス(農水省)によれば、人口200万人の福島県には約8万戸の販売農家があり、その農業生産額は2500億円です。お隣の山形県が5万戸の農家で2千億円の生産をあげているのと比べると、農家1戸当たりの生産額は明らかに少ないといえます。愛知県に至っては、農家戸数は5万1千戸と福島の6割なのに、福島を上回る3200億円もの農業生産をあげています。
福島では農産物のブランド化が遅れ、他地域に比べて農業構造も小規模零細経営が多く不安定という事実を、これらのデータは示しています。要するに、原発事故前から福島県は農家の創意工夫に任せるだけで、農業経営の改善を援助し安定化させる努力を怠ってきたのです。こうした事実を隠したまま、福島県や県内メディアが「福島産を取り扱わない流通・販売業者、買わない消費者が悪い」と風評被害のせいにするのは根本的に間違っています。そして、県がこの現実を直視せず、いつまでも他の誰かのせいにしている限り、真の意味での福島「復興」はあり得ないと断言したいと思います。
(脱原発福島ネットワーク会報「アサツユ」 2018年11月10日号掲載)