福田政権の本質は同じ〜「給油新法」成立を阻止しよう!

 安倍首相の突然の「政権投げ出し辞任」から、自民党員以外の国民は誰も投票できない「総裁選」の空騒ぎを経て福田康夫新政権が門出した。だが、首相が代わったからといって与野党逆転の参議院の議席配分が変わるわけではないし、なによりも安倍政権を選挙で「粉砕」した民意も全く変わっていないから、発足直後の新政権は早くも試練に直面する。最初の試練は、テロ特措法失効後、インド洋で米軍に対する自衛隊の給油活動を再開させるために必要な給油新法の制定問題である。

 自民党総裁選の中、テロ特措法延長「賛成」が「反対」を上回ったという世論調査結果が報道されているが(時事通信世論調査、9月16日)、これはマスコミによる巧妙な世論誘導であり、まやかしである。調査結果をよく見てみると「やむを得ない」が36.1%を占め「反対」は35.3%。「延長すべきだ」はわずか13.0%に過ぎないが、マスコミはこの調査を元に「賛成・容認が49%で反対上回る」とでたらめな報道をしている。

 『選択肢の中に曖昧な表現のものが含まれているが、これでは賛成か反対かはっきりしない。いかにも日本人が好みそうなものである。他を「当然だ」「納得できない」と強い調子の選択肢にすれば、「やむを得ない」に答えが集まってしまうのも当然だ』(「データの罠〜世論はこうしてつくられる」田村秀・著、集英社新書、2006年)。

 著者の田村は、これを根拠に『このような質問によって導き出された調査結果が使い物にならないのは明らかだ』と斬って捨てる。当然である。みずからの政策が不人気のとき、世論調査で賛成を増やすために「やむを得ない」の選択肢を設け、そこに回答が集中したら、それを根拠に「世論の支持は得られた」として反対派を押さえ込みにかかる――政府・支配層の常套手段がこの本では見事に暴かれている。田村はこうした世論操作・世論誘導を『やむを得ないは止むを得ない?』という章題を付けることで茶化してみせる。テロ特措法問題もこうしたまやかしの典型例である。インド洋での米軍に対する自衛隊の給油活動は決して世論の支持など得られていない。

 9月16日の朝日新聞にも興味深い記事が載った。テロ特措法の正式名称は「平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法」という長ったらしいもの。現在日本で効力を持っている法律の中で最長の名称だという。だが、2001年9月25日、法案を審査する内閣法制局に内閣官房から初めて原案が示された時点では「平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国におけるテロ攻撃に関連して措置をとるアメリカ合衆国の軍隊等の活動に関する支援措置に関する特別措置法」という名称だったというのだ。日本が援助するのが国連ナントカではなく「アメリカ合衆国の軍隊等の活動」だったことが率直にうたわれている。テロ特措法とはそもそもどのような性格の法律なのか、これほどよくわかるものもない。

 その後、テロ特措法は名称を転々と変えながら、最後にこの長ったらしい名称にたどり着く。国連という“お化粧”をすることで国民の理解が得られやすくなるのではないかという計算が政府の中にあったことは想像に難くない。

 福田新政権が秋の臨時国会に提出を予定している、いわゆる給油新法はインド洋での米軍への給油活動にその内容が絞られるという。もともとテロ特措法自体、米軍支援法に過ぎないものだったが、給油新法では「人道支援」の建前すらかなぐり捨てられる。国連というお化粧を落とし、米軍支援という醜い素顔を現す給油新法は、テロ特措法に勝るとも劣らない悪法といわなければならない。

 すでに安倍政権崩壊によってつくられた政治空白のため、テロ特措法の延長は絶望的な状況だ。給油活動の停止は短くても2ヶ月程度になることは避けられず、支配層にはある程度の期間は仕方がないというあきらめのムードも出てきている。自民党総裁選の空騒ぎの中で、福田康夫、麻生太郎の両候補がインド洋での自衛隊の給油活動継続を揃っていち早く打ち出したことは、日本政府・支配層がグローバル資本主義をいっそう推し進める以外の選択肢を持っていないことを示しているが、この路線に全く未来がないことは、戦争と貧困が世界各地で同時進行するこの間の情勢が的確に物語っている。支配層がいらだつ「政治空白」も、人間が人間らしく生きる基盤さえ掘り崩してゆくグローバル資本主義の深化の結果なのだ。

 本来は海外派兵と新自由主義推進の党である民主党を縛り、彼らがインド洋での自衛隊の給油継続に反対を表明せざるを得ないところまで追い込んでいるのは、選挙の力で安倍政権を打倒した後もうち続く民衆の力である。私たちは、この力を結集して、テロ特措法失効後、給油新法によって海外派兵の再開を図ろうとする支配層の野望を阻止しなければならない。

(2007年9月29日 イラク平和テレビinJapanメールマガジン特別寄稿)

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