JR福知山線列車転覆事故関係者の書類送検に関するコメント

1.2005年4月25日、JR福知山線塚口〜尼崎間において、速度超過を主因として列車が脱線・転覆し、乗客・運転士107名が死亡したいわゆる「尼崎 事故」について、去る9月8日、兵庫県警尼崎東署捜査本部は、山崎正夫・JR西日本社長や高見隆二郎運転士ら10人を業務上過失致死傷容疑で書類送検し た。

2.安全問題研究会は、かねてから高見運転士の立件につながる書類送検に強く反対してきた。高見運転士は、被害者との関係において加害企業社員としての地 位を持っているが、一方では決定権のない末端の社員であると同時に、締め付けが厳しく、自由のない社内において日勤教育に怯えながら勤務していた。その意 味で運転士もまたこの事故の犠牲者である。高見運転士を犠牲者の列に加えず、事故から3年経った今なおこの事故の犠牲者数を106名とするJR西日本の姿 勢を許すことはできない。

3.運転士の立件は事故の原因究明に何ら寄与しない。運転士のみならず、鉄道乗務員に刑事罰が加えられることになれば、乗務員が自己にとって不利益になる 供述を拒むことになり、真の事故原因の究明がかえって困難になるからだ。事故の原因究明と再発防止のためには、乗務員を免責する勇気を持たなけ ればならない。

4.JR西日本幹部らの立件は妥当である。とりわけ、山崎社長と徳岡研三氏の責任は厳しく追及されなければならない。なぜなら山崎社長は、1996年、現 場の線路が付け替えられ、半径300メートルの急カーブとなった際の鉄道本部長であり、急カーブ化と同時に速度照査型ATSの設置を決定しなかった責任が あると認められるからである。徳岡氏に至っては、尼崎事故当時鉄道本部長であったばかりでなく、これに先立つ2002年、尼崎市の東海道本線で列車にはね られた中学生を救助しようとした救急隊員が後続列車にはねられ死亡した「救急隊員死亡事故」の際にも鉄道本部長の職にありながら、尼崎事故後、その責任を 取る振りをして辞任後、程なく子会社に天下りしている。徳岡氏こそ、傲慢で堕落しきった安全軽視のJR西日本を象徴する人物であると確信する。

5.今回の事故をめぐり、事故当時社長だった垣内剛氏をはじめ、96年の線路付け替え以降の社長である井手正敬氏、南谷昌二郎氏の送検が見送られたことに 対し、当研究会は強い怒りを表明する。送検見送りの理由を県警は「事故当時の安全状況について詳しい報告を受けていなかった」ためであると説明するが、こ れには全く納得できない。なぜなら、経営トップが事実を知らなかったから立件できないというのであれば、現場とトップの間が階層化・重層化し、官僚主義化 した大企業ほど経営トップは免責される結果につながるからである。事故の犠牲者遺族・負傷者にとって、相手が大企業であるほど責任を追及できないなどとい う理不尽なことが許されてよいはずがない。

6.今に始まったことではないが、このような事故が起こるたび、法人としての企業を処罰することができない日本の刑事法の不備を実感させられる。「犯罪は 個人が起こすもの」であるから刑事で法人は罰しないとする従来からの古典的な刑事法思想が、企業犯罪が多発する現在においては特定の個人に責任をかぶせ、 企業を免責するための隠れ蓑に使われてしまっている。個人の集合体としての官僚主義的な組織のあり方こそが企業犯罪の主な構成要因となっている現在、この ような時代遅れの刑事法は社会情勢に応じて見直さなければならない。

7.大勢の利用者の安全に直接関わる企業犯罪の刑事責任は、企業を主、個人を従とすべきだと当研究会は考える。刑事法の抜本的見直しが困難であれば、当 面、個人と同時に法人にも刑事責任を負わせる「両罰規定」の整備を進めながら、法人たる企業を主として財産刑を科することができるような法体系の構築を急 ぐべきである。事故を起こすことが、法人たる企業にとって「高くつく」ことが明確にされるなら、企業はこぞって安全対策を進めると考えられる。JR西日本 のように、必要な安全投資まで削減したことによって蓄積された内部留保は不当利得にほかならないのであり、これを没収して犠牲者遺族・負傷者に補償を行う ことは、不当利得の還元という意味でも社会的意義を持つ。

8.関係者の送検という節目を迎えるに当たり、当研究会は、107名(後追い自殺者を含めると108名)の犠牲者遺族に改めて哀悼の意を表するとともに、 今なお治療過程にある負傷者の方に対しても、お見舞いを申し上げるとともに1日も早いご快癒をお祈りする。同時に、鉄道事故の再発防止という当研究会に課 せられた使命を再認識し、引き続き安全問題に取り組んでゆくこととする。

                             2008年  9月 10日
                             安 全 問 題 研 究 会

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