JR西日本歴代3社長らに対する神戸地検の再度の「不起訴決定」に強く抗議する
〜JR史上最悪の事故は司法の場で責任を〜

1.2005年4月25日、JR福知山線塚口〜尼崎間において、速度超過を主因として列車が脱線・転覆し、乗客・運転士107名が死亡したいわゆる「尼崎 事故」について、12月4日、神戸地方検察庁は、遺族・負傷者らの再三の要望に応えることもなく、JR西日本の井手正敬氏、南谷昌二郎氏、垣内剛氏の歴代3社長に対し再び不起訴の決定をした。安全問題研究会は、正義を捨て、JR権力の前に屈したこの決定に強く抗議する。

2.そもそも今回の再捜査は、神戸地検が歴代3社長を不起訴としたことに対し、遺族・負傷者らが検察審査会法に基づいて神戸第一検察審査会に行った審査申 し立てを受け、同審査会が起訴相当を議決したことに始まる。神戸地検は、検察審査会の起訴相当議決を重く受け止め、歴代3社長を起訴できるよう積極的捜査 を行う義務があったにもかかわらず、そのような跡はまったく見られなかった。そもそも、神戸第一検察審査会が起訴相当を議決したのは今年10月22日であ り、今回の再度の不起訴決定はそれからわずか1か月半しか経っていない。わずか1か月半の再捜査で何がわかるというのか。今回のスピード決定は、いかにも 神戸地検のおざなりな再捜査を示すものであり、またきわめて短期間の再捜査がアリバイ作りでしかないことを明らかにした。

3.尼崎事故は、神戸地検のいうような嫌疑不十分などでは決してなく、それどころか歴代3社長こそ107人死亡の最高責任者である。「同業他社を凌ぐ強い 体質づくり…私たちは、常に創意工夫に努め、同業他社を凌ぐ強い体質づくりに、持てる力の全てを発揮します」という利益最優先、安全軽視の経営理念の策定 に、当時副社長の地位にあった井手氏が関与したことは疑いなく、また、南谷、垣内両氏も、井手氏が築きあげた強権的な企業体質を引き継ぐ中で社内における みずからの地位を確定させてきた。「日勤教育」こそそうした強権的企業体質の完成型である。

4.また、尼崎事故直前に函館本線で起きた貨物列車の脱線事故について、JR西日本の社内会議で「速度照査型ATS(自動列車停止装置)があれば防止でき た」との発言があったこと、JR西日本自身が事故現場となったカーブに対し、時速70キロメートルの制限速度を設定していたことも、同社が曲線における遠 心力とその危険性に対する認識を一定程度有していた裏付けといえる。なぜならその数値は、旧「普通鉄道構造規則」第10条で定められていた半径250メー トル曲線における制限速度の下限値であるからだ。公判維持に必要な証拠は揃っているものと当研究会は考える。

5.裁判員制度発足と時期を同じくして2009年5月に施行された改正検察審査会法は、起訴相当の議決が行われた事件を検察が再度不起訴にしたときは、自 動的に検察審査会が審査を行うこと、11人で構成される検察審査会委員中8人以上の多数によって再度起訴相当が議決された場合、告発された者が自動的に起 訴されること(「起訴議決」制度)を定めている。今回の再度の不起訴決定によって、尼崎事故が起訴議決制度の適用第1号事件となる可能性も出てきた。神戸 第一検察審査会の議決がどのようになるかは予断を許さないが、起訴議決制度適用による起訴第1号となった場合、尼崎事故の裁判は、裁判所が指定する弁護士 による論告求刑という前例のない事態を迎えることになる。私たちは、再び「起訴相当」議決があった場合に備え、検察官の職務を行う弁護士が遺族・負傷者の 意向を最大限に反映した人選となるよう準備を進める必要がある。

6.当研究会は、107名(後追い自殺者を含めると108名)の犠牲者遺族に改めて哀悼の意を表するとともに、 今なお治療過程にある負傷者の方に対しても、お見舞いを申し上げるとともに1日も早いご快癒をお祈りする。そして、遺族・負傷者と連携し、国鉄民営化犯罪である尼崎事故の真相究明に今後も全力を尽くす決意である。

                             2009年 12月 5日
                             安 全 問 題 研 究 会

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