2012年「ノーモア尼崎! 生命と安全を守る4.21集会」報告
「尼崎と福島―今、私たちに問われているもの」



 以下の資料は、2012年4月21日、兵庫県尼崎市で開催された「ノーモア尼崎! 生命と安全を守る4.21集会」で当サイト管理人が報告した内容で す。「ノーモア尼崎事故」集会は、事故発生日である4月25日に近い日を選び、毎年開催されています。なお、この集会で使用したスライド資料(PDF)を併せて掲載しますので、参考にしてくだ さい。


 安全問題研究会の黒鉄好です。子どもの頃からの鉄道ファンです。あの国 鉄分割民営化攻撃の際にはまだ高校生でした。当時マスコミは国鉄労働者を働かない 怠け者であるかに報道していましたが、当時世界一正確と言われていた国鉄の列車運行、その運行に関わっている国鉄労働者が、マスコミで批判されるような働 き方をしているはずがないと感じていました。組合つぶしと利益最優先の民営化により発足したJRの安全性については、当初から危惧をし、安全問題研究会を 立ち上げて、問題提起を行ってきました。

 今私は仕事の関係で福島に住んでいます。原発事故と向き合わざるを得ない状況にあります。その関係で私に依頼されたこの集会での講演のテーマが、尼崎と 福島を同時に語れというものでした。北斗の拳のラオウとドラゴンボールのピッコロ大魔王の両方を同時に倒せと言われるほどの難題ですが、私なりに勉強し整 理したことをお話したいと思います。


JR尼崎脱線事故(2005.4.25)。107名が亡くなった


福島第1原発事故(2011.3.11)

●尼崎と福島の共通点(1)―技術に対する過信・傲り

 「人間は技術を制御できる」「誤りを犯さない」という過信・傲りの結果、尼崎事故はスピード違反の暴走により、脱線・転覆して起こりました。どんな人間 も遠心力には勝てません。福島の原発事故は、地震を無視した設計・管理により、爆発して起こりました。どんな人間も地震には勝てません。人間の技術で制御 できないものがあること、人間はミスを犯すこと、その当たり前のことが見落とされ、悲惨な事故が起こりました。

●尼崎と福島の共通点(2)−隠す、過小評価する、嘘をつく

 JR西日本山崎元社長の公判で、ATSーP(自動列車停止装置)の設置基準について検察官に問われたJR西日本の担当社員は、「Rが半径の意味なんて知 らなかった。興味がないから勉強もしていない」と証言しました。

 ある原発作業員は、「良い報告は東電を主語にし、悪い報告は下請けや作業員を主語にして発表する」と語っています。福島の原発事故について言いますと、 「事故の原因は想定外の津波」ではなく、地震そのものの揺れが原発を破壊したからです。

●尼崎と福島の共通点(3)−目先をごまかし、取り繕えばよいと思っている

 JR西日本が、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会に対し、福知山線脱線事故調査報告書の「改ざん」を働きかけていたことが大きな問題になりました。電 力会社も、九州電力が玄海原発2・3号機再稼働をめぐり「やらせメール」が明るみに出ましたが、九州電力は以前にもプルサーマル公聴会において「やらせ メール」を行っていました。

●尼崎と福島の共通点(4)−閉鎖的な技術者集団と利権村の存在

 どちらも大型開発の利権にゼネコンが群がるという構図が確立されています。大型開発は環境破壊ももたらしました。もたれ合い、馴れ合う特殊な人間関係が 構築され、異論を唱える者は仲間でも許されません。閉鎖的で歪んだ技術者集団が形成されました。


原子力村の実態を伝える記事(2011.6.9「中日新聞」)。クリックで拡 大

尼崎と福島の共通点(5)−国策による強力な推進体制

 JRは、多くの反対の声を押し切り、国策としての民営化で発足しました。国鉄改革法などの裏付けがありました。原発は電源三法などで地元に多額の交付金 をばらまくことでその存在が可能になりました。地元自治体を巻き込む利権体制の上に存立しています。

●尼崎と福島の共通点(6)−利益優先、安全軽視。安全も「ムラ」任せで政府は他人 事

 尼崎事故までのJR西日本大阪支社長方針の1番は「稼ぐ」でした。安全にお金をかけるのは「稼ぐ」ことの足を引っ張ることでしかありませんでした。

 斑目春樹・原子力安全委員長は、「(問題が)あれも起こる、これも起こると、仮定の上に何個も重ねて初めて大事故に至るわけです。(中略)何でもかんで も、これも可能性ちょっとある、そういうものを全部組み合わせていったら、ものなんて絶対造れません。だからどっかでは割り切る」と語っています。事故の 可能性が少しあったとしても、割り切って原発を造ると言っているのです。「最後は結局カネ。どうしても(原発を)受け入れてくれないんだったら今までの2 倍払う。それでもだめなら5倍、10倍払う」、「(最終処分場に立候補した自治体のボーリング調査に支払われる)20億円なんて、この業界でははした金。 原子力発電って、儲かってるらしいね」とも語っています。腐敗の限りをつくしたまさに利権のムラ体制です。

 JRでは、国が技術基準を策定していた体制を法令改悪で転換。安全基準は事業者に作らせ、国(国交省)は追認のみ。原発では、電力会社が作った安全基準 を国(原子力安全・保安院)が審査。不合格はなく、合格のみの出来レース。JRと電力会社が作った安全基準をただ政府は追認するだけ。何のチェック機能も 働いていませんでした。


尼崎脱線事故が起きた2005年度のJR西日本大阪支社長方針。「稼ぐ」がトップになっている


斑目春樹・原子力安全委員長。「20億円なんて、この業界でははした金。 原子力発電って、儲かってるらしいね」

●尼崎と福島の共通点(7)−そして言い訳の仕方まで

 東京電力は津波は「想定外」と言い訳しています。JR西日本の山崎正夫元社長は、カーブでの脱線転覆は「予見できなかった」と言い訳しています。「想定 外」も「予見不能」も加害者が責任逃れをするのに都合のいい言葉として悪用されています。私はこれを「困ったときの想定外」と呼んでいます。きちんとした 反論ができず、困ったときに加害者が使用します。加 害者が責任を逃れるときに使う常套句です。

 ちなみに、加害者が被害者に責任転嫁するときの「常套句」を他にもいくつかご紹介しておきます。

 ひとつは「風評被害」です。「正規情報以外の流言飛語に惑わされる愚民による被害」を意味する官僚、マスコミ用語です。実害があるのにないように見せか けることができます。

 もうひとつは「心のケア」。本当に心のケアが必要な人はもちろんいます。しかし、特に行政やマスコミがこの言葉を使うときは「被害は仕方ない。責任追及 などやめて気持ちを強く持ってがんばりましょう」の意味です。全国メディアでは報じられていませんが、宮城では「心のケアお断り」として、避難所の被災者 が「心のケア」でやってきた「ボランティア」を追い返す一幕もあったほどです。

●尼崎と福島の共通点(8)−闘う労働組合潰し

 国労(国鉄労働組合)も電産(日本電気産業労働組合)も闘う労働組合でした。電産は1947年に結成された電力9社の労働者で作る全国単一組織の組合で した。国労と同じように、電力社員ならどこに所属していても加入できる。北海道電力社員でも東京電力社員でも九州電力社員でも入れるわけです。要求実現の ため、電気を止める「送電スト」などの激しい闘いを展開しました。政府は「スト規制法」を制定し電力会社でのストを制限しました。

 スト規制法というのは、正式名称「電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律」といい、「電気事業・石炭鉱業の特殊性並びに国民経 済及び国民の日常生活に対する重要性にかんがみ、・・・争議行為の方法に関して必要な措置を定める」(第1条)、「電気事業の事業主又は電気事業に従事す る者は、争議行為として、電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常な供給に直接に障害を生ぜしめる行為をしてはならない」(第2条)と定めていま す。

 山口県豊北町(現・下関市)に対し、1977年6月13日に中国電力が原発設置の申し入れをしました。電産の最後の生き残り、電産中国(日本電気産業労 働組合中国地方本部)による豊北原発反対運動が始まりました。彼らは「中電から給料をもらっているのだから反対できるはずはない」「原発は出来たらお終 い。妥協が効く労働組合とは違う」と住民に全く信用されませんでした。しかし会社側から不当処分を受ける中で住民の信頼を得ました。町長選挙 で反対派が圧勝し、1978年6月8日、町長の原発受け入れ拒否宣言により豊北原発計画は中止。原発反対運動では珍しい勝利となりました。御用組合9割、 電産中国1割の中で も住民と結びつけば勝利できたのです。

 「国労を潰せば総評が潰れ、総評が潰れれば社会党が潰れる」「国労潰しを意識的にやった」と中曽根元首相は国鉄分割民営化の狙いについて、NHKテレビ 等で語っています。「お座敷をきれいに掃き清めて、立派な憲法を安置する」とも語っています。

 国労は切り崩され少数組合になりました。電産中国も、豊北原発反対運動のため激しい切り崩しにあい、現存しません。電力総連は徹底的な御用組合で、連合 福島も「原発がなくなれば仕事がなくなる」と 議論することすら許さず、福島県議会、県知事が脱原発を表明しても、連合福島は脱原発を方針に盛り込んでいません。

 安全闘争のない会社に未来はありません。JRは事故を多発させていますが、次に大事故を起こす可能性が高いのはJR北海道です。昨年5月に起こった北海 道・石勝線トンネル内での特急列車火災事故に対して、JR北海道労組が「安全確保に向けたアピール」を出したのは、事故から1カ月近くたってから。市民と の連携もありません。大事故につながりかねない危険な事象が多く明るみになっているにも関わらずです。

 電力では、全原発に大事故の危険性があります。どこなら安全だから再稼働して良いということはありません。その中でも特に危ない場所を挙げれば、玄海 (古い)、浜岡(最悪の立地)です。

 JR北海道の危険な実態について、少し詳しく述べます。2009年1月、江差駅で下請け業者の信号配線ミスにより、赤が表示されるべきところに黄が表示 され、追突寸前になるというトラブルがありました。2009年3月、特急列車のブレーキ部品脱落、江差線でのレール破断が起きています。2009年12月 には富良野駅で快速列車と除雪車が衝突、2012年1月には寝台特急列車が電源車の燃料漏れ状態のまま走行を続け、青森駅で運転を打ち切っています。これ らの事故は、フェイルセーフ(事故の際、最も安全な措置がとられること)の作動ではなく欠落が招いた事故であるという点できわめて重大かつ深刻だと考えま す。福知山線脱線事故直前のJR西日本と酷似(止まるべきところで止まらない、最も安全な措置がとれない)しており、その意味でも「明日事故が起きてもお かしくない状態」と言えるでしょう。

 こうした危険の背景として、JRが民営化以降、行ってきた猛烈な人減らしがあります。石勝線トンネル火災の直後にTBSの報道特集でも取り上げられてい ましたが、会社発足時点と比較して、社員数は半分に(民営化時14000人から2011年現在、7100人)なる一方で、特急列車の運転本数は2倍(民営 化時78本から2011年現在、140本)になり、スピードアップ(札幌〜釧路間で45分短縮)も行っています。

 この人減らしの結果、会社の中核を担うべき40歳代の社員が全体の1割しかいない、歪な年齢構成になっています。JRでの40歳代というのは、25年前 の民営化当時に20代だった世代であり、民営化当時の極端な採用抑制やその後の人員削減の結果であることは疑いありません。これらはいずれも政府が国策と して強力に推進した国鉄分割民営化の結果です。


石勝線トンネル火災事故で全焼した車両を検証する関係者(2011年5月)

●今後の闘いの方向性

 今後、JRや電力会社とどのように闘うべきか、その方向についてお話しします。

 電力や鉄道は大規模開発〜環境破壊と一体であり地域住民の生活に直結します。地域住民とつながり、企業を揺さぶる闘いが最も重要です。最も虐げられてい る人たちの要求をすくい上げ、政府・企業にぶつけることです。労働運動に関わっておられる皆さんの前では大変言いにくいのですが、今は労働組合より市民の 方が4〜5周くらい先を行く状況です。

 「労働組合=既得権者、特権階級、労働貴族」「正規労働者しか守らない」のイメージがあります。マイナスイメージの払拭が必要です。非正規労働者、女 性、若者、住民の中に入らなければなりません。市民の闘いのサポート、特に女性・若者との結びつきが重要です。女性・若者はこれまで社会の意思決定から排 除され、企業犯罪の被害だけを押しつけられてきたからです。

 地域、住民と結びついた闘いの実例としては、先ほどの電産中国のほか国労高崎の闘いにも学ぶことができます。「中電から給料をもらっているのだから反対 できるはずはない」と信用されなかった電産中国が、会社から処分を受けてまで地域でビラをまき、住民とつながり信頼を得た。国労高崎は、中曽根元首相のお 膝元で信濃川不正取水問題(注:JR東日本が新潟県内の水力発電用のダムで国から許可を受けている量を大幅に超過する形で信濃川からの取水を続けた結果、 信濃川が枯れ、JR東日本が国から取水停止処分を受けた事件)と積極的に関わり、責任を追及する中で、地元(新潟県十日町市)との関わりを作り出していま す。

 「組織の利益にならないからやらない」ではだめです。利益は企業の 行動基準です。「企業と住民、どちらと共に歩むのか」が問われています。命とカネの ど ちらを選ぶのか。利益のためなら人が死んでもいいという価値観から、命のために経済活動を規制する新たな価値観への転換をはからなくてはなりません。

 本当はこれが結論なので、ここで話を終わってもいいのですが、もう少し残り時間があります。今後の重要な問題として、企業に対する責任追及のあり方につ いて、残り時間を使ってお話しします。

●相次ぐ「企業免罪」の背景

 今年の1月、JR西山崎元社長に無罪判決が出され、検察が控訴を断念し無罪が確定しました。事故と犠牲との因果関係が明らかな尼崎事故でさえ無罪。この ままでは、放射能と健康被害との因果関係の証明が困難な福島原発事故では、被害者は1人も救済されません。

 日本の刑法は「法人は犯罪を成し得ない」との伝統的な考えから、刑罰を個人に限定しています。個人に権限がなく、法人は責任主体になれない現行法では、 企業犯罪が起きても結局、誰も罪に問われません。企業活動が大規模化し、企業犯罪も大規模化・深刻化した現在、旧態依然とした「個人罰」ではもはや事態に 対処できません。

 少し専門的になりますが、刑罰には大別して3種類あります。1つ目は生命刑(罪を生命で償うもの)、具体的には死刑のことです。死刑そのものの是非は問 う必要性があります。2つ目は自由刑(罪を自由を奪われることで償うもの)、具体的には懲役、禁固といったものを指します。最後に財産刑(罪を財産で償う もの)、具体的には罰金、科料といったものを指します。

 法人を死刑にしたり、刑務所に入れたりすることは無理なので、生命刑、自由刑は科せられませんが、財産刑なら科せるのではないかというのが安全問題研究 会 の問題 意識です。

●法人処罰を強く望む被害者

 「毎日新聞」2012年1月8日付け大阪版によれば、JR福知山線脱線事故被害者で「法人にも刑事罰を」と望む人が8割を占めています。この毎日新聞ア ンケートは2011年10〜12月に行われたものです。裁判に参加・傍聴した被害者の8割以上が「法人も刑事罰の対象にすべきだ」と答えました。被害者 は、企業などの責任を問えない現行の業務上過失致死傷罪の改正を強く求めています。

 被害者が望む「法人処罰」のあり方については、「法人も刑事罰の対象にすべきだ」との回答が19人、「公共交通機関に限り、法人も刑事罰の対象にすべき だ」が1人、「公共交通機関に限り、法人も個人も刑事罰の対象から外し、事故原因の調査を優先させる制度をつくるべきだ」が1人。「法人は責任 を問われるべきではない」と答えた人はひとりもいませんでした。

 法人を処罰すべきと考える理由についての被害者の回答は、「事故の根本原因はJR西日本の企業体質にある」(遺族男性63歳)、「運転士ら当事者だけの 処罰では安全が改善されない。企業に危機感を持たせるべきだ」(別の遺族男性63歳)等があります。

●諸外国の企業・法人処罰制度の概要

 ここで、諸外国では企業・法人を処罰する制度がそもそもあるのか、ある場合はどのような内容なのかについて、いくつかの例をご紹介します。

 まずイタリアからです。基本的に、犯罪の主体は自然人のみという考え方で、法人には両罰規定、行政処分のみを課するという制度です。両罰規定というの は、企業の業務に関する犯罪、要するに企業の一員として、仕事をする上で犯罪行為をやってしまった、その企業の一員でなければ犯罪行為そのものが成立し得 なかった、という場合に、事業主体である法人を個人と並んで処罰することを定めた規定のことです。会社の命令でやったのに、個人だけ処罰するのはあまりに も理不尽だよね、という場合に個人が主だけれども法人も従的な立場で一緒に罪を償ってもらいましょうという考え方です。これは日本とほぼ同じ考えだと言え ます。

 次に中国ですが、企業が主、個人が従の考え方で、日本やイタリアとは正反対です。企業犯罪の責任は「原則として組織」という考え方です。「企業犯罪の場 合、企業に罰金を処し、直接責任を負う主管人員とその他直接責任者に対し、刑事処罰を処する」(中華人民共和国刑法第31条)、「雇用組織の従業員が事業 任務の執行によって他人に損害を与えた場合、雇用組織が権利侵害責任を負う」(中華人民共和国刑法第34条)との規定があります。最近は資本主義化してい るとはいえ、社会主義国らしい考え方だといえるかもしれません。

 そして、私が最も先進的だと考えるのがイギリスです。イギリスでは、英国産業連盟(経営者団体。イギリス版経団連)の強い抵抗を退け、2007年、労働 党政権が「法人故殺法」を成立させました。法人による犯罪で人が死亡した場合、裁判所が加害法人に被害者救済を命じ、従わなかった場合には「上限のない罰 金」が課せられます。また、この法人故殺法のすばらしいところは、「国王の機関に対して、特に法律で明記されない限り適用される訴追の免責は、法人故殺に 関しては適用されない」と規定していることです。要するに政府機関にも法人故殺法の権限が及ぶ。国家犯罪にも適用可能ということです。

 また、「公表命令」の規定があり、人を死亡させた犯罪法人は名称を公表されることになっています。

 イギリス法人故殺法は制定から5年しか経っておらず、めざましい効果を上げている事例はまだありませんが、イギリス国内でのその評価については、次のよ うなものです。イギリス政府によれば、「職場における事故・・・による支出は、社会全体で200〜318億ポンド(約4兆7930億〜7兆6208億円) に及ぶ」とされています。つまりこれだけの社会的損失が生まれる。法人故殺法制定でこれらの事故を0.1%削減するだけでその社会的損失を埋めることがで きる。これもイギリス政府の試算ですが、それだけ企業犯罪がもたらす社会的損失は大きいのです。

 さらに、「公表命令だけでなく、法人故殺罪の捜査対象とされること自体に伴うイメージダウンは、罰金以上の損失となるであろう」と論評されています。法 人故殺法には、法人運営の責任者の刑事責任追及ができないという欠点もあるのですが、公表命令と「イメージダウンによる社会的制裁」に期待する、というの がイギリスでの現状です。

●企業責任についての2つの提案

 福島では「原発被ばく者援護法」制定運動がスタートしました。広島・長崎の原爆被爆者のように、被爆者援護手帳を交付し、必要な人はいつでも医療が受け られるようにする。地元で市議などが中心になり、昨年から始まっています。

 日本は諸外国と比べ、三権(司法・立法・行政)のうち特に行政に大きな権限が与えられています。このため、行政を法で縛り、住民の方を向かせることが必 要です。

 私から2つの提案をします。1つは「イギリス法人故殺法」同様、「上限のない罰金」を科す「日本版法人故殺法」を制定すること。罰金を払っても不法行為 の利益のほうが大きければ抑 止力にはなりません。現に、昨年「電力不足」のため東京電力管内に電力使用制限令が発動された際、日本国民なら誰でも知っている有名企業、大企業が「電力 使用制限令を守らずに罰金を支払ってでも、生産を続けて売った方が得だ」として守らなかった例があります。だからこそ罰金の上限を設けてはいけない。法律 を守らないとかえって高くつくとわからせる必要があります。

 2つ目は、「立証責任」のあり方を根本的に見直すことです。こちらのほうが日本版法人故殺法制定よりもインパクトが大きく、根本的パラダイムチェンジと いえます。企業活動と被害との間に因果関係があることを現状では被害者が立証しなければなりません。 国・企業は情報を隠せば罪に問われず、裁判所は被害者の訴えを門前払いしていれば裁判官人生も退官後の天下りも安泰です。企業活動と被害との間に「因果関 係がない」ことの立証責任を国・企業に課す、新たな立法が必要です。立証できなければ「因果関係あり」と推定し、原則として被害者を救済しなければならな いとするのです。

 国・企業は情報を隠せば自分が不利になるため、積極的に情報を開示するようになるでしょう。ただし、企業はそう甘くはありません。自分に有利な証拠は積 極的に出す反面、不利な証拠は隠そうとするようになるでしょう。企業に不利な証拠を含めていかに開示させるかを巡る闘いになります。裁判所は、企業を擁護 し、被害者の訴えを退け たければ、自分が汗をかき、理屈を考える必要が生まれ、考えもせず門前払いができなくなります。

●企業犯罪と闘う人々は、手を取り合おう!

 最後に、2012年3月16日に結成された福島原発告訴団の結成宣言を紹介し、私の話を終わります。

 『日本政府はあらゆる戦争、あらゆる公害、あらゆる事故や企業犯罪で、ことごとく加害者・企業の側に立ち、最も苦しめられている被害者を切り捨てるため の役割を果たしてきました。私たちの目標は、政府が弱者を守らず切り捨てていくあり方そのものを根源から問うこと、住民を守らない政府や自治体は高い代償 を支払わなければならないという前例を作りだすことにあります。そのために私たちは、政府や企業の犯罪に苦しんでいるすべての人たちと連帯し、ともに闘っ ていきたいと思います。この国に生きるひとりひとりが尊敬され、大切にされる新しい価値観を若い人々や子どもたちに残せるように、手を取り合い、立ち向 かっていきましょう。』

 ありがとうございました。

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