電力小売自由化始まる〜「選択権」行使し、脱原発へ前進しよう

 4月1日、いよいよ電力の小売り自由化がスタートした。これまで、地域独占・総括原価方式の下で、市民の希望を無視して原発再稼働を強行してきた電力会社の支配体制に風穴を開ける最大のチャンスだが、課題も多い。脱原発社会を実現するため、どのような選択をすればいいのか。

 ●「原発以外」都民7割

 そもそも電気は、どの企業のどのような設備を使って発電しても品質に差がなく、送電線も共有のため、特定の会社の電力だけが送電中に劣化するということもない。そのため価格だけが重視される傾向が強いが本当にそれでいいのか。

 福島原発事故経験後、市民の脱原発の意思は強く、あらゆる世論調査で脱原発に賛成が常に過半数を占める。特に今回、事故を起こした東京電力の営業区域である東京、東電柏崎刈羽原発のある新潟で行われた世論調査では、いずれも7割が脱原発を支持。「原発の電気を使わない」を電力会社の選択基準にするとの回答は「価格」の次に多かった。東京都民に限れば「東電以外への切り替え」を検討する人は6割に上った。

 脱原発を電力会社の選択基準にすることには大義があるが、問題は多くの新電力会社が原発の電気を使用しているか否かを含め、電源構成を開示していないことだ。消費者団体は電源構成の開示を義務化するよう求めたが、原発を維持したい経産省は努力目標にとどめ義務化は行わなかった。

 ●原発維持のからくり

 今回の自由化は、あくまでも電力の小売り部門に限られ、最も抜本的な改革である発送電分離は行われなかった。送電網を電力会社から分離、電力会社含めすべての発電事業者が使用料を払い、送電網を借りて使用する発送電分離が行われるまでの間は、電力会社が送電網を持ち、新電力は電力会社の送電網を借りて送電する現在の体制が続く。

 電力会社は新電力各社から「託送料」を徴収するが、原発の延命のため、核燃料サイクルや廃炉費用が託送料に上乗せされる可能性もある。託送料には国の規制が設けられる予定だが、過去、同様に規制とされてきた電気料金も電力会社の申請通り認可されてきたことを考えると、「政府―電力結託体制」の下で実効ある規制とはいえない。

 国は、発送電分離が行われ、総括原価方式(電力会社のあらゆる経費を電気代に上乗せできる制度)も廃止となる2020年以降を見据え、原発「救済」策を次々に打ち出している。こうした動向にも関心を持ち、原発救済にノーの声を上げる必要がある。

 ●情報開示と見極めが鍵

 新電力会社のすべてが自分で発電設備を持っているわけではなく、持っている場合でもすべての電力を自家発電の電気でまかなうわけではない。誰かがどこかで発電した電気を転売するだけの新電力会社も多い。

 新電力の「セット料金」の中には一定期間、解約ができないものもある。このため、電力会社を慌てて選ぶのではなく、半年程度じっくり見極めて選ぶ方がいいとアドバイスするのは門間淑子(ひでこ)さんだ。反原発自治体市民連盟エネルギー担当で、東京都羽村市議も務める。電力会社を選ぶ鍵は、電源構成と電力会社との提携の有無を見極めることにあるという。大規模な発電設備を自分で持っている会社ほど電力会社の電気に頼る必要がなく、原発比率も低いからだ。

 現在、九州電力管内を除き原発は停止しているが、再稼働されれば、原発を動かしている電力会社と提携している新電力会社の電気には必ず原発の電気が交じることになる。セット割引を売り出しているソフトバンク、au(KDDI)も電力会社と提携している。

 一方、反原発自治体市民連盟が主要37社に対してアンケート調査をした結果、F―POWER、エネット、中央セントラルガス、JX日鉱共石エネルギー、みんな電力、洸陽電機、東急パワーサプライ、シナネンの8社は原発の電気を使わないと回答した。

 これらの中には、電源の一部を市場から調達すると回答した社も含まれる。送電線は電力会社も新電力各社も共有のため、市場からの調達電力には原発の電気が交じる可能性があり、完全な脱原発は容易ではない。だが、再稼働にまい進する電力会社からこれらの会社など新電力に切り替えることで、再稼働ノーの意思を示し、原発比率を下げることができる。

 安倍政権支持者の支持理由1位が「他に選択肢がないから」であることは世論調査ですでに明らかになっている。有権者に「選ばせない」ことで政権に就いている安倍首相が、消費者に「選ばせない」ことで市場を独占している電力会社を利用して、市民の反対する原発再稼働を強行する――日本社会のそんな構造が見え隠れしている。有力な選択肢が提供されれば、電力支配も安倍支配も覆すことができる。情報開示に消極的な新電力会社には情報開示を求め、適切に電力会社を見極める市民が増えるほど、脱原発の実現に近づく。

(2016年4月25日 「地域と労働運動」第187号掲載)

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