福島原発事故とオリンピック〜五輪の後には戦争と破産がやってくる

 「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内の中で、完全にブロックされています」「健康問題については、今までも現在もそして将来も、全く問題ない」。安倍晋三首相が、まるで息を吐くように言い放った嘘で、長く続いた2020年五輪招致レースは東京に軍配が上がった。「福島は東京から250kmも離れている」という竹田恒和・東京五輪招致委員長の配慮のかけらもない発言もあった。「福島をはじめ、足手まといになる地方は切り捨て、これから先の厳しいクローバル競争の時代を東京だけで生きていく」――この国の支配層がこう決意したものと、そのときの私は受け止めた。

 五輪決定直後から、東京では、まるで昭和の時代に戻ったかのような公共事業ばらまき型箱物行政が復活、ゼネコンは空前の好決算に沸いていると報道されている。新国立競技場の建設は東京五輪をめぐる利権の象徴となった。一時は2520億円にまで膨らんだその建設費があれば、福島でどんなことができるだろうか。

 やや古いが、2011年12月の毎日新聞によれば、福島県外への「自主」避難者の引越費用は1人平均72万円だったという。2520億円は自主避難者35万人分の引越費用に当たる。福島県の子どもの数は約26万人だから、国立競技場建設をやめれば、福島の子ども全員を避難させてもお釣りが来る。飯舘村が試算した全村の除染費用見積額は3324億円。2520億円あれば飯舘村の4分の3が除染できる。

 これだけの費用をかけることが適正かどうか以前の問題として、そもそも地方在住者は新国立競技場を使うこともできないのに、費用だけはしっかり負担させられるのだ。

 事故を起こした原発が、今なお1時間あたり1000万ベクレルもの放射性セシウムを吐き続けているのに、福島では次々と避難地域の指定が解除。健康被害を恐れて帰りたくない住民の意向を無視した強引な帰還政策が展開されている。大半の地域で避難指示解除が見込まれる葛尾村では、国による帰還政策を「被災者を分断し、東京五輪に目を向けさせるためだ」とする厳しい批判が村議会議員からも出されているが、政府はどこ吹く風だ。

 原発のある浜通りを南北に縦断する常磐自動車道も国道も通行止めが解除され、JR常磐線の全線復旧に向けた動きも進む。中高生を大量動員した「放射能道路清掃ボランティア」も堂々と行われている。浜通りに聖火ランナーを走らせる計画まである。福島も東京も狂っているとしか言いようがない。

 1980年にモスクワ五輪を開催したソ連はその後、世界地図から消えた。1984年サラエボ五輪を開催したユーゴスラビアは民族同士が憎しみ合い、殺し合う凄惨な内戦の末、バラバラになった。2004年アテネ五輪を開催したギリシャも財政破たんで国家存亡の淵にある。そうした国々を私たちも笑えない。巨額の財政赤字を抱えながら戦争法を成立させる安倍政権を見ていると、「五輪の後に戦争と破産」は日本にとっても他人事ではないからだ。

 極端に商業化し巨大化した五輪は国家も社会も、人の心も狂わせる。福島原発からの汚染水同様、コントロール不能となった「カネ儲け五輪」はそろそろ根本から見直すべきだ。

(2015年11月1日 千葉県松戸市民ネットワーク発行月刊ミニコミ誌「たんぽぽ」2015年11月号掲載)

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