SYRIZA、コービン、サンダース…政治の表舞台に復活する左派
日本でも「受け皿」作りを急げ!

 ●世界的な左派の上昇

 欧米諸国に再び左派の時代が到来しつつあるようだ。EU(欧州連合)から突きつけられた緊縮財政政策の是非をめぐって9月に行われたギリシャ総選挙で、チプラス首相率いる急進左派連合(SYRIZA)が得票率約35%で議席数を減らしたものの、第1党の座を維持。選挙前と同じ右派政党、独立ギリシャ人との「反緊縮左右連合」で政権も維持した。英国でも、9月に行われた労働党首選で、鉄道や電力の再国有化を唱える最左派、ジェレミー・コービン下院議員が勝利。コービン氏といえば、反戦団体・ストップ戦争連合主催のイラク反戦集会でたびたびスピーチをしたことで知られる。2004年、インド・ムンバイ(旧ボンベイ)で開催された世界社会フォーラムには英国代表として参加。英国史上最大のイラク反戦運動について報告を行った。コービン氏は、みずからも所属する労働党・ブレア政権下で英国が「有志連合」として参加することになったイラク侵略戦争を厳しく批判し、注目を浴びた。

 来年の大統領選挙目指して共和、民主両党の予備選挙が行われている米国でも、民主党で最左派のバーニー・サンダース上院議員が、本命視されていたヒラリー・クリントン国務長官をリードし優位に立っている。厳しい緊縮財政政策の押しつけに対する「反乱」としてギリシャで始まった左傾化の波は、スペイン、英国を経て、ついに米国にも押し寄せようとしている。

 在英ジャーナリストの小林恭子さんは、コービン氏が労働党首となった直後、9月12日付の自身のブログ記事で、その背景を次のように指摘する。

 『コービン氏は1980年代から下院議員だが、どうみてもニュー・レイバーではない。閣僚になったこともない。いまさら、鉄道を国有化なんて、非現実的にも思える。……(中略)……しかし、2010年発足の連立政権、今年5月からの保守党政権による財政緊縮策に飽き飽きしている人が国民の中には多数存在している。福祉手当や公共予算が削減されて、困っている人々がいる。コービン氏の選出は、そんな国民の思いを反映しているようだ。

 今のところ、「コービン氏が党首では選挙に負ける」という論客がほとんどだ。私自身、「この人、首相になれそう」・・とはなんとなく、思えない。しかし、「(公共予算)削減のスピードをもっと緩慢にしてほしい」「弱い人を助けて」・・・そんな普通の生活感覚を持つ層がいて、いささか古臭いように見えても、または非現実的に見えても、昔からの「労働者擁護」を打ち出す政策を実行しようとする政治家=コービン氏=を見て、「労働党も悪くないかもしれない」と考える、若い人が結構いるのではないか。1970年代、80年代、あるいは90年代の労働党を知らない若い層、ブレア政権でさえも何をやったかを覚えていない層にとっては、コービン氏は逆に新鮮に見えるに違いない』。

 筆者は、この小林さんの指摘におおむね同意するとともに(鉄道や電力の再国有化が非現実的とは思わないので、その点は同意できない)、ついに時代の時計の針がぐるりと1周したのだと実感する。東西冷戦とベルリンの壁崩壊、そしてソ連解体と続く激動によって「社会主義が敗北した」との資本主義陣営の大宣伝が行われる中、じっと息を潜めてきた左派・左翼が、世界を吹き荒れ続けてきた強欲資本主義とグローバリズムの結果、普通の生活すら営めない貧困層の大量登場、多国籍大企業のために流された大量の血という事態を受けて、再び国際政治の表舞台に登場してきたと見るべきだろう。

 とはいえ、こうした時代の変化を、世界の市民・労働者はただで手に入れたのではない。ウォール街を占拠したあのオキュパイ運動をはじめとする市民・労働者の闘いがこの時代の変化をもたらしたことはもちろんである。この流れを確かなものにし、世界中に広げることができるならば、21世紀はこれまで私たちが描いていたほど悲観的ではないのではないか。

 ●日本でも受け皿作りを

 ギリシャにおけるSYRIZAの台頭、英国労働党におけるニューレイバー(第3極、反左翼的「中道路線」)の否定と左派躍進は、市民・労働者の闘いを通じて下から沸き上がってきた貧困層、社会的弱者のための政治的受け皿作りの要求に応える政治サイドのひとつの動きである。それがSYRIZAのような新勢力として現れるか、英国労働党や米国民主党のような旧勢力復活の形を取るかは、新勢力が登場しやすい選挙制度、政治体制になっているかに大きく左右される。二大政党制という新勢力の登場しにくい選挙制度が採用されている米英両国では、旧勢力の復活という形にならざるを得なかったのだと考えられる(もっとも、最近では英国を二大政党制に含めない見解が、政治学者の間では主流になりつつあることも指摘しておく)。

 翻って日本ではどうか。1960年安保闘争、1970年安保闘争と比較する形で「2015年安保」闘争と形容されるほどに成長した戦争法(安保法制)反対、安倍政権打倒の闘いが、やはり欧米諸国と同様、政治サイドに対する受け皿作りに向けた圧力に発展しつつある。日本共産党が「戦争法廃止のための国民連合政府」樹立を呼びかけた背景には、こうした事情があることを指摘する必要がある。

 ワイマール期のドイツでは、国民が中道勢力を見殺しにした結果、ナチスか共産党かの二者択一を迫られ、ナチスの政権奪取から第二次世界大戦につながっていった。その経過については、筆者がすでに本誌第174号(2015年4月号)で指摘しているのでここでは繰り返さないが、日本が安倍政権の下で同じ道を歩まないためには「どこに投票したらいいかわからない」として、もう何十年もの間、投票所から遠ざかっているリベラル勢力を投票所に呼び戻すための受け皿作りが急務である。

 さしあたり、日本でどのような受け皿が可能であろうか。筆者にも明快な答えは見いだせない(というより、簡単に明快な答えが出せるようなら、ここまでの少数野党乱立状態には陥っていないであろう)が、この間の戦争法反対運動を組織してきた「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」や、反原発運動の軸となった「さようなら原発1000万人アクション」を軸に、民主党内の旧社会党系勢力を結集した「平和・人権・民主主義・リベラル・競争より協働と再分配」の新しい政党を結成、これを自民党への対抗軸に育てていく必要があるだろう。

 欧米諸国から吹いてきた新しい風を日本でも100年に一度の政治変革の好機と捉え、大胆に行動することが、今求められている。

<参考資料>
英労働党党首選 左派コービン氏の勝利で新たな政治勢力が生まれるか?(在英ジャーナリスト、小林恭子さんのブログ)

(2015年10月25日 「地域と労働運動」第181号掲載)

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