LCC(格安航空) 値引きで空は大丈夫か

 空の規制緩和によって登場したLCC(ローコストキャリア:格安航空)が続々と日本の空に参入しており、中には運賃が5千円を下回るケースさえある。高 速バス業界では、運賃の極端なダンピング競争が人件費削減や労働条件の悪化として乗務員に跳ね返った結果、大事故が続く。LCCの登場で航空業界が高速バ ス業界のようになる恐れはないのか。

 実は、その兆候はすでに出ている。

 ●運行に余裕なく欠航の連鎖

 LCC登場で最初に顕在化した問題は頻繁に発生する欠航だ。

 今年3月、日本最初のLCCとして就航したピーチ・アビエーションでは、3月28日、長崎空港出発直前に乗務員が緊急時の脱出用滑り台を誤って作動さ せ、機体の修復が必要となるトラブルがあった。これ自体は乗務員の単純な操作ミスによるものだが、この日は結局長崎−関西国際空港線が3便欠航、翌29日 も同じ機材を使う予定だった関空−長崎線と関空−福岡線の計6便が欠航した。翌々日の30日も4便が欠航に追い込まれた。

 このような事態を招いた原因は、LCC各社が経費を節減するため必要最小限の機体しか保有せず、ギリギリの運行体制を取っていることだ。驚くべきこと に、ピーチは3路線を運行するのに3機しか機体を保有していない。どこか1便でも欠航が生じれば、欠航が連鎖的に拡大する。しかも、欠航の場合、格安運賃 であるため乗客には他社便への振替輸送もなく、ピーチの別便に振り替えるか運賃の返金を受けるしかないのが実情だ。

 ピーチのコスト削減は整備場の数にも及んでいる。なんと関西空港の1カ所しかないのだ。そのため、ピーチの最終便は必ず関西空港に戻る必要がある。深夜 ギリギリの時間まで運行を続けた結果、空港から先の交通機関がなくなり、乗客が空港到着後に足止めとなる事態も何度か発生している。

 国土交通省はこうした事態を改善するどころか、さらなる規制緩和を進めようとしている。そのひとつが、これまで認められていなかったオンボード給油(乗 客が搭乗している状態での給油)の解禁である。発熱量が大きく燃えやすいジェット燃料に引火した場合、機内に乗客がいれば大惨事につながる。中型機や小型 機の場合、給油に要する時間は5分程度だが、LCCの中には機体の「有効活用」のため空港到着後30分で折り返すケースもあり解禁を要望してきた。「その 程度の時間短縮のため乗客を危険にさらすのか」という危惧の声は空港関係者にさえ存在する。

 ●高速バスの悲劇は明日の空か

 LCC登場によるパイロット不足を見越して、国交省は、これまで実際に飛行機に搭乗して行われてきた副操縦士への昇格試験をフライトシミュレーターによ る実施でもよいとするなどの規制緩和も行う方針である。だが、航空機では左右2カ所の操縦席で同じ操作ができる。つまり副操縦士は運行上、操縦士と同じ責 任を負っている。そのような重要な職務への昇格を実機の操縦もなく可能とするような規制緩和を行ってよいわけがない。

 高速バス業界では、2000年の道路運送法改正により、バスを5台所有し、責任者さえ置けば誰でもバス事業に参入できるようになった。乱立したバス会社 同士の値下げ合戦によって、いくら走らせても利益が出ない過当競争に陥った。しわ寄せは人件費にも及び、1人で12時間近く乗務を強いられる運転手も現れ た。こうした規制緩和の結果が今年4月、7人が死亡した関越道でのバス事故だ。

 公共交通の分野では、規制緩和の悪影響はすぐには現れない。社会全体が規制緩和に慣れ、ある程度恩恵も受けたところで問題が顕在化することがほとんど だ。バス業界の今日の悲劇的な姿は明日の空への警告である。

 バス業界では、関越道での悲惨な事故を受け、事実上、規制緩和から強化へ向けた動きが始まった。航空の分野でも、大事故が起きる前に過度の規制緩和、過 当競争に歯止めをかけることが必要である。

(「週刊新社会」第790号(2012.8.21)掲載)

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