JR羽越線脱線事故に関する国土交通省航空・鉄道事故調査委員会報告を受けて
〜安全問題研究会声明


 2005年12月25日、強風吹きすさぶ山形県のJR羽越線・砂越〜北余目間で特急「いなほ14号」が脱線・転覆した、いわゆる羽越線事故について、4 月2日に国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(事故調)が発表した報告書は、当研究会が予想したとおり、極端に技術論に偏重した脱線転覆のメカニズムの解 明にとどまり、犠牲者遺族・負傷者が望んだ事故の根本原因には全く踏み込むことなく終わった。尼崎事故、土佐くろしお鉄道宿毛駅事故の各調査報告書が発表 された際に当研究会が指摘した事故調の限界はますます露わなものとなった。

   『天災だった、仕方なかった。端的に言えば、報告書はそんなふうに結論づけた』(4月3日付け「河北新報」社説)と、商業メディアまでが辛辣にこの報告 を批判している。事故の原因は「局地的突風であり、当時としては予測困難」だったと報告書は弁解するが、事故直前の2年半だけでも98回の運転規制がか かっている事実から、JR東日本は容易にその危険性を認識できたはずである。報告書はまた、列車が制限時速(120km/h)を下回る速度 (100km/h)で走っていたのだから運転取扱上も問題はないと報告している。しかし、当研究会の報告書が指摘したように、120km/hを 100km/hに減速しても、運動エネルギーの減少率は32%に過ぎないのであり、強風の中で転覆の危険性を減らすには全く不十分である。このように、報 告書は全体として合理性のない非科学的詭弁で貫かれており、JR東日本と国土交通省の責任をいかに隠蔽するかに重点が置かれている。

 報告書が、同種の事故の再発防止のために気象庁等、外部機関の気象データを利用して突風観測体制の強化を図るよう所見を発表したことについては評価を与 えてよい面もあるが、局地的な突風を原因とすること自体が国土交通省、JR東日本の責任を不当に覆い隠すものであり、当研究会として容認できない。鉄道事 故において最も大きな責任を負うべき鉄道事業者とその監督官庁の責任隠蔽のための「突風原因説」の延長にいくら立派な所見を打ち立てたとしても、それが事 故の再発防止につながることはあり得ないからだ。

 当然ながら、犠牲者遺族・負傷者はこの報告に全く納得していない。事故でご子息を失った遺族は「人命を預かっている自覚があれば減速できるはず。自然現 象がどうであれ、JRの責任は免れない」「JRが自分に責任はないと考えているのなら抗議も辞さない」と闘う意思を明らかにしている。

 当研究会は、責任逃れと非科学的詭弁に貫かれた事故調報告書を弾劾する。JR東日本に鉄道事業の人減らし合理化中止、適正な人員配置、余裕のあるダイヤ 編成を要求し、国土交通省に対しては国鉄改革の見直し、羽越線を含む日本海縦貫線各線の複線化、切り捨てられた地方路線の整備強化を要求した独自報告書を 対置して、犠牲者遺族のために最後まで徹底した安全対策を求めていく。そして、鉄道の安全確立を一生の仕事にすると誓った尼崎事故遺族・藤崎さんの決意を 胸に、最後まで闘うことを表明する。

  2008年 4月 4日
  安 全 問 題 研 究 会